機械神の英断24
ラーフ・ブラック視点
いつものバーには俺たちの会社の人間が全員集まって会議を始めていた。
中年のハゲ頭サラリーマン『鈴木一』。
このバーのマスターであり、筋肉隆々のオカマ『シンイー・ユーウェン』。
引きこもりのゲーマー女であり、『ルイズ・エレナ・ウォーカー』。
ギャンブラーの『ローハン・ディロン』。
ラーフ・ブラックという名前で悪役デビューした『中道陽生』。
以上五名がを前に作戦会議を始めていた。
「それじゃあ今回、作戦の総指揮、計画を立てた鈴木です。みんな改めてよろしくお願いします」
「そんな堅苦しい挨拶はなしにしようぜ」
「いいか、ディロン。どんなものであれ、形式もあれば、礼儀もある。礼儀があるのはそれをごく当たり前の常識を必要としているから礼儀になるんだ。形式や礼儀はないよりはあったほうがいい」
年長者であり、元サラリーマンである鈴木はディロンのいい加減な態度を許さず、すかさず説教を始めた
「はいはい。わかったよ。どうせ無職の俺には礼儀なんざわかんないよ」
鈴木の説教にうんざりしたディロンは他の人間に聞いてもらうことにした。
「でも。どうすんのよ課長? 実際あの天津っていう子が一番厄介なのはわかるけど、それ以外のあのロボットを使うアイドルとか、義手を使うあのイケメンも、いるっていうことはラーフ一人じゃ無理よ。私たちもあいつらと一緒に戦わなくちゃいけないの?」
シンイーの疑問に鈴木が答えるよりも先にエレナが続けた。
「いいえ。それでも勝ち目はないわ。あのスーパーヒーロー軍団は個々の能力もおかしいけれど、それ以上に恐ろしいのは、彼らの支援を行っているのは、あの城鐘グループよ。報道関係はもちろん九十九の会社の経営も彼女の城鐘財閥の傘下よ。私たちの計画は、どれだけ綿密に組んだとしても、見破られてしまうわ」
「…………………………」
鈴木は質問にすぐに答えず、黙り込んだ。だがそれは何も言い返す言葉が見つからないからではなく、すべての意見が出終わるまで待っているのだということを皆は知っていた。
「鈴木、なにか考えはあるのか? 正直に言った。俺もあの能力の底が計り知れない天津雅騎にだいぶ手を焼いている。今のところ俺が持っている手札をすべて出してもあいつに勝てるかどうかはわからない」
陽生は鈴木に正直な気持ちを話した。その言葉を聞き終え、鈴木は他に聞きたいことはないのかと全員の意志を確認してから、告げた。
「……孫氏いわく、『兵とは詭道なり』。……ヒーローに勝とうだなんておもわないことですよ」
鈴木はそう言い放った。
鈴木の言葉に全員がぽかんとしていたが、ようやくディロンが口を開く。
「……………………は? 意味がわかんねぇよ」
そんな俺たちに鈴木は構わず続ける。
「例えるなら、私が歩道をすたすたと普通に歩いていくために。……目的はそう。コンビニに行くためでもなんでもいいです。……そこでいきなり後ろからきた猛ダッシュの男が自分の横を抜きさり、自分より先にコンビニについたところでなぜかコンビニの店員さんと客がその男を褒めたたえ、あとからきた私に侮蔑の言葉を投げかけます」
「……意味がわからないわ。そんなこと、現実にあるわけないじゃない」
シンイーの言葉に鈴木は真剣な表情で答えた。
「いいえ……これはあくまで一例のたとえ話であって社会ではよくあることです。でも絶対に張り合ってはいけません。ときに自分の能力をだまし、相手を油断させて目的を達成するのです」
彼のよくわからないたとえ話はすべて意味のある話なのだと短い付き合いで知っているので、俺は黙って薄の話に耳を傾ける
「いいですか? 社会は個人の都合なんてお構いなしに勝手に競争をはじめます。この国で一番早い競争は学力テストなんかがいい例でしょう。問題はただひとつ。『その競争に乗っかって勝負をするのか。もしくはその競争を冷めた表情で見送って勝負しないのか』です」
「競争に参加するほうが簡単です。なぜならそれは自分以外が決めたルールとゴールを他人が決めてくれるから、その目標に自分があわせれば良いだけという錯覚です」
「でも競争に参加せずに自分のゴールを決めた人間は自分でルールを決めなければいけません。そこを決めてこそ『勝つ』ことができるのです」
「……つまり、どういうことなんだ?」
陽生は鈴木に結論を促した。
「勝利条件を天津雅騎たちとずらすのですよ。私たちの目的はあくまで九十九のデータの採取です。そのデータを入手するのに、本当にイザナギと戦わなければいけないんですか?」
「……たしかにその必要はないかもしれないな」
「城鐘財閥は秘密裏に中東に九十九のシステムを売りさばきました。もちろんそのサーバーにチェーンロックをかけることもできますが、もしほかの発展国に密輸がばれるとまずいのでデータのやりとりをおおやけにやるわけにいかないため、ネット経由ではなく人力で情報の入手をおこなっています。我々が狙うのはここしかありません」
「……わかった。行くのはいつもどおり俺が単独で行くことにしよう」
「それでは、シンイーとディロンは天津雅騎の監視をお願いします。ヴァネッサはネットでSNSなんかの情報を鵜呑みにしない程度に調査していてください」
「りょーかい」
「ええ」
「わかったわ」
三人の了承を得た鈴木がこの会議をしめにかかる。
「それじゃあみなさん。仕事をはじめましょう」




