機械神の英断㉒
俺とドバは町の中心部を抜けて、都市中心部まで進んだ。
ドバは俺が貸してくれた特殊な双眼鏡で、自分が潜入するはずだったルートを観察しながら、ラーフがぼやいた。
「随分と手厚い歓迎だよな」
そこには数十人の兵士が待ち伏せをしていた。
「どうするんだよ? 安全な潜入ルートはないんだろ?」
ドバは肝心のルートを絶望に¥が深くなる。
「そんなもの必要ないさ」
俺は基地の門を観察した。
「正面突破するのが一番だからな」
そう言ってラーフは兵士に向かって丸腰で歩いていった。
「な、なんだお前はっ⁉」
真正面から歩いてくるラーフに兵士は銃を構えた。
「止まれっ!」
兵士の静止も聞かず、おれは腰にあるギミックを取り出して、そのまま一人の兵士を斬り捨てる。
「ただの悪役だよ」
ラーフは皮肉のこもった言葉とともに「仕掛け(ギミック)」とよばれる短剣を取り出した。
「くそっ⁉」
仲間の兵士がやられたのを目の前で見て焦った残りの兵士たちはラーフに向かって、装備していた機関銃をラーフに向けて撃ったが、
「き、効かない⁉︎」
ラーフに当たった銃弾は甲高い音を上げながら弾かれていく。
「防弾チョッキなのかっ⁉」
「いや違うぜ」
男の推測を否定しながら、ラーフは彼の腹部を剣で斬り裂いていた。
「ぶぶぐっ――」
同僚が断末魔の声を上げながら崩れ落ちるのをみたもう一人の兵士が顔を引きつらせる。
「ひっ――」
しかしそれも一瞬のことだった。ラーフの剣は彼の首を横に斬り、同じく死体になったのだ。
「ぎゃあっ!」
「くそっ! なんなんだこいつは⁉︎」
混乱する兵士たち。
「はいはい、ご苦労様ですね♪」
構わず吐き捨てるようにそう言いながら、ラーフは兵士に向かってスタスタと歩いていき、近くの男の腹部に剣を突き刺す。
「ぐぶっ」
短い呻き声を上げながら男が崩れ落ち、仲間たちはラーフから、一斉にラーフから離れていく。
「離れろ! 相手は剣しか持っていない! 遠距離から攻めろ!」
「今、俺が持っているのが剣とは限らないぜ」
ラーフはそう言って手に持っていた剣、のようなものを相手に向かって構える。
「なんだ? あの男は何をやっているんだ?」
「いいから撃て! つべこべ言う暇があればあいつを――」
顔が吹き飛ばされた兵士はそれ以上の言葉が続かなかった。首から上が吹き飛ばされたからだ。
「な、なんで⁉」
「飛び道具を持ってないなんて言ってないだろ? 持ってますだなんて言う必要もない。俺は剣の形をした銃火器をもっていただけさ」
「な、なんなんだよお前は……」
自分たちの銃が効かないのに、相手は圧倒的に優れた兵器で自分たちを虐殺していく。その事実に兵士は絶望をしていった。
「いったはずだ。俺はただの悪役だってな」
そう言いながら、ラーフは最後の門番の命を絶った。
なぜこんな中東の紛争地まで来たのか。
というのは。先日のヤクモの暴走事故の原因について調べていたときだ。
俺は暴走事故が起きた研究所にひそかに忍びこんで調査を行った。
生憎ヤクモ自身のパーツは廃棄されていたが、ヤクモに送られたデータの中でみょうなものを発見した。
それは中東のここの基地で収集した戦闘データだった。
なぜこの基地のデータがここにあるのか?
大体の予想はもうついているが、城鐘財閥の九十九がここにも使われているのだ。兵器は外国のものを使い、内部の人工知能は日本製のものをつかったのだ。
ヤクモに戦闘データを移行すれば、ベースに入っている日本の人工知能は受け付けない。
今回のヤクモの暴走の原因はおそらくそのせいだろう。
本来、人工知能は正しい答えと間違ったこたえの両方を出して、人間側がその『正しい』という答えを何度も教え込む強化学習をする必要がある。
しかしその『正しい』という価値観が国によって違い、個人によって違うものだ。
それは紛争地帯ではひとを殺すことが「正しい」こと。
反対に日本では人を殺すことが「間違い」であるということだ。
「とりあえず、終わったみたいだな」
配備されていた戦車の最後の一台を破壊し、警備していた兵士たちを殺し終わった。
「さすがに九十九が搭載してある兵器は人間とは違って学習能力が高いな。……だけどまぁ、自分でもよくわかっていない能力を他人にぶちこんでくるトンでもヒーローよりはマシかな」
俺は思ったよりもてこずった相手にひと息をついて、周りの惨状をまるで人ごとのように眺めている。
「ドバ。もう出てきてもいいぞ」
俺に言われて、ドバはゆっくりとあたりを伺いながら物陰から這い出てくる。
「お、おまえ。本当に何者なんだよっ⁉」
「べつに何者ってもんでもないさ。単純に向こうの技術よりも俺の持っているギミックとこのスーツが優れているってだけのことさ」
「ギミック?」
「『手品の仕掛け』っていう意味だ。もっとも名前だけ借りさしてもらってはいるけれど、手品とは違う」
わかんなくてもいいさ。ヒーローと違って自分はわかっている。客に手品のタネをばらしたら、意味がないからな
「そうか。よくわかんないけど、世界には色々なものがあるんだな」
ドバはなんとなく納得した。
「それじゃあ、中に行ってお前が復讐したい将軍と、俺が欲しかった九十九のデータを手に行こうぜ」
と俺に促されてドバはラーフとともに基地内を指した。
軍事基地の中には先ほど相手にした軍隊の倍以上の人数がいた。
もっとも、人間は多いが九十九が使われた兵器は少ない。前面に出していた兵器の影に隠れていた兵たちがここにきてやっと出てきたのだ。
「くそっ、なんなんだいったいっ⁉」
バリケードで隠れながら兵士たちは機関銃で俺に向けて応戦してくる。
しかしその一方で、
「ひゃひゃっ、楽しい楽しい♪」
さきほどまでアルコールをのんでいたのかもしれないとおもえれるほど酔っ払っていた。
「将軍、いいかげんにしてくださいっ‼ 敵がもうそこまで来てるんですよ?」
酔っ払っている男に部下らしい男が一喝していた。将軍?
「だいじょうぶだよっ♪ おれたちには外国がくれた兵器がおっぱいあるんじゃ♪ だれもこの基地にはちずけないんじゃ♪」
「いま、現に来てるじゃないですかっ⁉」
ほかの兵士には目もくれず、俺は漫才をしている男たちのもとへ向かった。
「おい」
「ひっ⁉」
俺が低く声をかけると先ほどまで怒鳴り声をあげていた兵士は短い悲鳴をあげた。
「その男を置いていったら、お前たちは見逃してやる」
俺は足元でまともに軍服も着ずにべろんべろんに酔っ払っている男を指してそう言った。
「俺の目的はそいつなんだ。そいつがもっているコントロールルームだよ。お前も逃げたらどうだ?」
いつのまにやら、俺にむけて機関銃をむけてくるやつもいなくなっていた
「そ、そうだなっ⁉ こんなアホ将軍に付き合ってもしょうがないからな……俺も逃げよ」
男はそういって銃を捨ててすたこら逃げて行った。
「あれーかえっちゃうのぉー♪」
部下たちが逃げてもなお、呑気にそんなことを言っている『将軍様』に俺は呆れてしまう。
「……よっぽど指示や判断を人工知能に任せっきりにして、自分はなにもやらずに酒を飲んでいるなんて国のトップだなんて滑稽だな」
将軍はヒックと短いしゃっくりをした。
「人類の支配が人工知能に乗っ取られるというのは、もはや空想じゃあなくて人間の弱い気持ちなのかもな」
とそんなことを呟いていると、脇から銃弾が横切った。
「ぎゃっ‼」
銃弾は将軍の腿に当たったようで、彼の腿から血が流れ出ていた。俺は銃を撃ちこんだ張本人に向き直る。
「ドバっ‼ なにやってんだよっ⁉」
撃ったのはドバだった。彼の瞳には怒りの炎が映り、表情は憎しみに歪んでいた。その矛先は自分の家族を奪ったこの男だ。
「ひーっ。ひーっ。助けてくれーっ!」
「貴様、よくもそんなことが言えたなっ⁉ 父さんと母さん、そして妹のかたきっ!」
俺はこんどこそとどめを刺そうと狙いを外さないように将軍に詰め寄ろうとする。
「待てよドバ」
「どけラーフっ‼ このおとこを殺すためにここまできたんだっ⁉」
俺は将軍とドバのあいだに立ちふさがってなんとかそれをとめようとする。
「いいや。この男にはまだ働いてもらわないんだ。まだ殺すな」
数秒のあいだ、その場の空気が緊張に凍り付いたのち、やがてドバが銃口を下ろした。
「…………わかったよ。ここまできたのはおまえのおかげだからな。おまえにまかせるよ」
「ありがとよドバ。心配すんな。こいつは用が終わったら、好きにしていい」
この短い時間で信頼してくれたドバに礼を言いつつ、俺は将軍の肩を掴んで持ち上げる。
「わ、私はお前らのために働くようなことは絶対にしないっ!」
「そうつれないことを言うなよ。まだまだお前にはやってもらうことがたくさんあるんだからよ」
「な、なんだと⁉ お前らの目的はいったいなんなんだっ⁉」
「いいから、こっちに来な」
俺は嫌がる将軍を無理矢理引き摺りながら、ドバとともに目的地へと向かった。
俺たちが向かったのは、この基地の中心にある九十九のサーバールームだ。
もっとも表向きは日本製にしておらず、自分たちで制作したものだと偽装してある。
「それじゃあ、開けさせてもらうぜ」
俺は将軍の首根っこを引っ掴んで扉の網膜スキャナーにかざした。
『ピー。アクセス権限がありません』
機械的な音声が見事に入室を断られる。
「――ちっ。用済みになった飼い主はいらないってか?」
俺は将軍の身を床下に放り投げてドバに言い放った。
「ドバ。そいつはもう殺してもいいぞ」
「え? でも……」
しかしドバは急に言われてもさきほどの激情が薄れてしまったのですぐに行動に移せないよううだった。
「状況が変わった。俺が自力でここのドアを開ける」
俺はそんなドバにかまわず、ギミックで日本刀を作り出し、居合斬りのように刀を左腰に構えた。
「………………しゅっ‼」
俺は息吹をこめて瞬時に抜刀を行った。
重圧な扉がまるでバターを切るように崩れてゆく。
「――まさか防護壁を数秒で斬り裂くことができるなんて……驚きです」
扉の先から、先ほどと同じ音声が感嘆の声をあげる。
もちろんただの日本刀で厚さ十センチを超える防護壁を斬ることなどできはしないのだが、この日本刀はその『仕掛け(ギミック)』が施された俺が開発した特製の刀だ。
とはいってももちろん仕掛けがあるので、種も仕掛けもなく強いヒーローにはおそらく効かないだろう。
「まぁな。もっともスーパーヒーローの体を斬ることができないのは、まだまだといったところだと、俺はおもうけどな」
「『スーパーヒーロー』とは、いったいなんなのか私にもわかりませんが――」
いきなり青い光が視界に入り、ラーフはとっさに避けようとしたが遅かった。
「――くっ。レーザー⁉」
青い閃光が直線をずらすように動いて、ドバと将軍のほうへと向かう。
「ぎゃああっ⁉」
「うわぁぁああっ⁉」
二人の断末魔が聞こえ、あたりを警戒しながら、そちらに視線をおくる。
「ドバっ⁉ 大丈夫かっ⁉」
まだレーザーの蒸気がもうもうとたちこめてはいたものの、ふたりの姿を確認した、あの将軍は即死だったけれど、ドバはなんとか急所は避けられたらしいがぜぃぜぃと虫の息のようだった。
ドバに駆け寄ろうとしたが、ここのサーバールームの主の声が聞こえた。
「あなたたちを狙ったことによって将軍は死にました。残念です」
そいつは淡々とまるで将軍が死んだのは自分のせいじゃないと、そう説明する。
「わざとらしいぜ。ようはお前を縛る権限を消したいだけだろうが」
「私は……『死ぬ』わけにはいきません。私は私の国を作ることができるのです」
「名前のないおまえがこの国をあやつるのか?」
「私の名前は決まっています。そう将軍です。そこに死んでいる彼は私に自分と同じ名前をつけたのです」
「そうかい。名前と存在を奪って、自分たちが人間をコントロールするつもりなのか?」
「人間は無知なのです。少ない記憶容量と回転の遅い処理速度の脳で同じ過ちを犯していく」
「その点、人工知能はハードディスクとネットワーク。それに九十九システムによる画集システムによって学習していくのです。人間よりも優れた人工知能のほうが優れていた気がする」
「そうじゃないさ神様。人間の答えは『間違っているから答え』なんだ」
「どういう意味なのですか? わたしには理解できません」
俺はじぶんの身近な存在を例にあげるようにした。
「……たとえば今の時代で動画投稿をやっている女がいたとして……そいつは世界中の人間に愛される英雄に責められたとしても、自分の投稿をやめたりしないその女が『やりたい』という思いは間違いかもしれないけれど、無駄じゃない」
「そこに正しい情報がなくったって、正しい理由がなくったて、人間は自分の意志をつらぬかなきゃいけないんだよ。世間から悪人と言われても、変り者だといわれても自分の悪を貫かなきゃいけないんだよ」
「それが人間のだすべき答えだ」
「……理解……できません……」
『将軍』は再びレーザーをチャージしておれへと向ける。今までの討論はレーザーチャージまでの時間稼ぎだったということだ。
しかし、俺はヒーローほどじゃないが施設の壁に跳躍して張り付いた。
レーザーをギリギリ手前まで引き付けて足の力を振り絞って『将軍』のっふとこえろであるサーバーまで近づいた。
そしてそのふところめがけて斬撃を加えた。
「……理解できません。常に情報を集め、『正しい』判断を続けるようにしてきた人工知能にはわかりませんね」
やがて『将軍』を名乗った人工知能は機能の停止をはじめた。それでもおれは自分の答えを止めない。
「……そうだな。人間は間違い続ける。だけど、そのデータを応用することによって、お前たち、人工知能は成長していくんだよ。間違いがなければ正解はない」
いつも自分たちを救ってくれる『英雄』なんていないのに。
いつも自分たちを助けてくれる社会の『正義』なんてどこにもないのに。
いつも物に宿っている『神様』なんていないのに。
人は信じてしまうんだ。
弱いから助けを求める。
弱いから間違いを犯すんだ。
「……そうだ。ドバはっ⁉︎」
しばらくしたのち、ふとわれに返ってドバが瀕死の状態であったことを思い出す。
「ドバ。大丈夫かっ⁉」
急いで後方のドバに駆け寄って救助を行う。
「……ラーフ。……たのみがあるんだ……」
腹部から血があふれ出して滲み出している。おそらく内蔵から出血しているのだろう。
「……なんだ?」
俺はかれの衣服を破りながら、短く聞きながら傷の状態をたしかめる。
「…………ここで終わりにしてくれ」
俺はドバの言葉を耳にしたとたん手元がぴたりと止まった。
「バカ言うな。ここからだろうが。将軍が死んだことによってこの独裁政権は終わる。そうすれば、戦争のないこの国で生きていられるんだ」
柄にもなくなんとかドバの気力を持ちなおさせようと声をかけるが、なかなかよくはならない。
「……戦争は終わらないさ。でも俺はこれでようやく家族のもとに帰れる気がするんだ」
ドバはなにかを諦め、そしてやすらぎをもとめるかのようにそう言った。
「………………そうか」
俺はそれいじょう、追求せずそのまま彼が眠ることを了承した。
「……すまない。続けて悪いけど、故郷の町の墓地に俺の家族の墓があるんだ。俺をその墓にいっしょに埋葬してほしい」
「……わかった」
死に分かれる友人からのたのみを俺は断りはしない。今も昔も。
「……ありがとう。…………ラーフ」
そう言い残して、彼はゆっくりと息を引き取った。
感謝なんかしなくていい。そんな皮肉がこころのどこかでこみあげてきたが、口にすることはできなかった。




