機械神の英断⑲
第六章
ヒーローにも、時には休息が必要だ。
天津雅騎視点
今日は日曜日。どうせ朝から芸能活動の仕事をやらされるのだろう。と予想していたら、海鳴からまさかの答えが返ってくる。
「今日はオフよ。みんなで遊びましょう」
この施設は本来なら、千人ほどの人間が入るほど巨大なテーマパークなのだが、今日は僕たち以外の人間は誰もいない。
「す、すごいな……」
まるでゴーストタウンのようにがらんとしているその光景に思わず僕は絶句する。
「別にたいしたことはないわよ,。ここがたまたまメンテナンスで閉園する日に遊ばせてもらうことにしたのよ」
そんな僕に大したことはないというように海鳴は言い切った。
「日曜なのにこんなでかいプールでわたしたちだけとか、最高だよね」
ヒカルも嬉しそうにはしゃいでいる。その恰好はかなりラフなものでへそをだしたミニTシャツにデニムのショートパンツだった。
「だけど、どうして貸し切りにする必要があるのだ?」
先日イザナギに加入した桐生先輩が海鳴に質問する。
今日は水玉のワンピースを着こなしている。胸が大きいわけではなく、身長の高い彼女にとてもにあっている。
彼女はモデルをやっているらしく、食生活と運動で鍛えた体形の持ち主だ。よくみれば持っているバックもサンダルもすべて有名ブランドのものをうまく取り入れていた。
「わたしたち『イザナギ』は有名人よ。他の入場者の人たちと遊んでたら、リラックスなんてできないわ」
海鳴の言葉に僕はこのプールのことよりも気になっていたことを聞いた。
「そんなことより、僕たちはこんなところで遊んでてもいいの?」
そう。僕たちはヒーローだ。こんなところにいたら、あのラーフのような悪役が現れてしまうかもしれない。
「必要ないわ」
僕の心配を海鳴はあっさりと否定する。
「ヒーローが調べものとか犯人を捜索しているのは映画のなかだけよ捜査は警察が担当しているの。警察の仕事に簡単に踏み込んだりできないわ」
「……そ、そうか……警察の人の邪魔をしたら、さすがにまずいものな」
それいじょう何も言えない僕に。
「それより、はやくいこうよ雅騎」
いきなりヒカルが僕の腕に手を絡めてきた。
「ちょ、ちょっとヒカルっ⁉」
とつぜん距離感を縮められてどぎまぎしてしまう。
「そうだな。ヒカルの言うとおりだ。はやくいこうぜ」
「……ええそうね。……その女を天津くんから引き離すためにもすぐに行かなくちゃね」
女子たちと別れて、僕と葉介は二人で男子更衣室へと向かった。
「雅騎。お前はいったい誰の水着がみたいんだ?」
適当なロッカーを見つけて二人で着替えていると葉介がニヤついた顔で僕に聞いてきた。
「……誰の水着って言われても……」
僕の煮え切らない答えに苛立って言葉の熱を熱くする。
「まじでかっ⁉ おまえ、あれだけの美女に囲まれて何もおもわないのかよっ⁉」
「…………じゃあ、葉介はいったい誰の水着が見たいんだ?」
僕の質問に葉介は頭を悩ませる。
「……うぅん。桐生先輩の高身長スレンダーボディも気になるけど、海鳴ちゃんのあの令嬢らしい白い肌も最高だ。いやいや、ヒカルちゃんのロリボディもまた気になる」
「……ね? 決めれないでしょ?」
そこまで高説するとはおもいもしなかった僕は若干ひいていた。
「ま、まぁ全員美人ということで、拝みにいこうじゃないか大将‼」
ずびしっとプールの入り口を指しながら葉介はごまかした。
「やれやれ」
「い、いたぞ雅騎。あれが彼女たちの水着姿だっ‼
集合場所に着くと、そこには三人の水着美女が待っていた。
「遅いわよ。雅騎」
ヒカルは可愛らしい花柄の模様でフリフリがついたビキニで彼女の可愛らしさとところどころみえる肌が小悪魔的な美貌をもっていた。
「貸し切りにしていて正解だったかもな。こんな姿をファンが見てたら悲しむぞ」
桐生先輩は高身長の身体にピッタリとフィットしたレオタード型の水着だった。大人の色気をだす水着には胸元に装飾めいた切れ目があり。彼女の胸も引き出されていた。
「雅騎くん」
そして海鳴は水色のビキニのシンプルなもので腰には薄緑のセパレートが巻いてあるだが、彼女の白い肌がより一層際立たされる。
「鼻の下がのびているわよ」
ジト目で海鳴にそう指摘されてしまった・
「え、ええっ⁉ ごめん」
思わず口元を隠してスケベ顔を隠す。
「えへへぇ♪ 照れてるって証拠だねぇ♪ それより雅騎。一緒にウォータースライダーのペア滑りしない?」
「へ? ペア滑り?」
ペア滑りってなんだろう。聞いたことのない言葉におもわずオウム返しで答える。
「や、八武崎さんっ⁉」
「だ、大胆だな……」
なぜか女子二人が引いている理由がよくわからない。そんな僕に葉介が優しく教えてくれる。
「ヒカルちゃんは直球だねぇ。雅騎。ペア滑りっていうのは、あそこにあるウォータースライダーを一つの浮き輪であそこから降りる遊びだよ。……普通は男女でもやらねぇけどな」
「ええっ⁉ そ、それはちょっと恥ずかしいというかなんというか……」
ウォータースライダーの上のほうを指されたが、ウォータースライダーぐらいたいした大きさじゃない。問題はヒカルと。女の子二人でそこをすべるということだ。
「いいじぇねぇか。別に他の客はいないんだしよ。『ここらで『親睦
「……わかったよ」
「……でもそうだな……」
葉介はすこし考えるフリをする。
「でも、ヒカルだけじゃあ不公平だから、城鐘さんと桐生先輩とあわせて三回滑ったらどうなんだ?」
「「え?」」
同じような声のトーンの二人の声が重なる。なに言っているんだこいつという怪訝な表情も見事にそろっていた。
「ちょっ、ちょっと。なんでその二人もやるのよっ⁉︎」
「別にいいじゃねぇか。お前が独占欲丸出しなのはわかるけどよ。ここは残りの二人にもチャンスをやろうじゃあねぇか」
反抗するヒカルを葉介がなんとかなだめて落ち着かせる。
「なっ⁉︎ か、勝手にきめないで」
「もったいぶるなよ。こんな美人が三人も水着で遊んでくれるって言うんだぜ。それに、俺たちはこれからこの日本を救うためにいろいろと気を張っていかないといけないし、大事な仲間なんだから、親交を深めても良いんじゃないのか?」
「…………わかった」
渋々了承する僕に葉介は嬉しそうに彼女たちに提案した。
「よし。じゃあ今からこのくじ引きで何がしたいのか決めようぜ」
俺たちはウォータースライダーの上に行き、係員のおねぇさんの指示に従って滑ることにした。
「それじゃあ、二人ともここに座ってください」
付き添いの係員の指示に従って、僕はウォータースライダー用の浮き輪の前のほうに座った。
「結構高いですね先輩」
下からみると高いと思っていたが、上から見ると別次元だ。
「……………………」
しかし先輩はさっきから話しかけているのに、ぜんぜん喋らない。
「……先輩?」
青ざめているようだ。なんだろう?
すると突然彼女が叫び始める。
「いやあああああぁぁぁぁっ。怖い怖い怖い。ちょうこわぃいっ⁉」
「ええええっ⁉ いきなりなにっ⁉」
さっきまで涼しげな雰囲気だった彼女とはうってかわって取り乱し始める。
「こんなに高いだなんて聞いてないっ‼ いますぐ降りたい‼」
「そ、そうですか……高いところがダメなんですね。じゃあやめときましょうか」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……あの二人にああ言ってかっこつけた手前、ここでやめるわけには…………」
ムダにプライドがたかいっ⁉
「…………そうだ‼」
「な、なんですかいったい⁉」
急に先輩が何かに気づいた様子だった。
いっぽう、下のほうでは残りのメンバーが二人が降りてくるのを待っていた・
「……あの二人。降りてくるのがおそいわね」
「最初の位置から滑ったのは私にも見えたけど、途中からは見えないな」
「…………………………………」
三人はなかなか降りてこない二人のことが若干心配になっていた。
再びウォータースライダー上、というより位置はだいたい中間よりも上といったところだろうか?
「……先輩、これ卑怯じゃないっすか?」
僕たちはウォータースライダーを一気に滑り降り落ちず手足を使ってゆっくりと降りて行っていた。
「何を言う。途中までゆっくりいって最後のところだけ急に滑ったようにするんだ。簡単だろ⁉」
この人、けっこうたよりがいのあるお姉さんかとおもったけれど、どこか凛奈に思考が似ている気がする。
「いやでもこれ、前にいるおれがめっちゃきついんですけど」
彼女の長い美脚に阻まれて、うまく足に力が入らない。
「ヒーローだろっ⁉ なんとかしてくれ」
無茶を言わないでくれ。ここで能力を出したらウォータースライダーがこわれてしまう。
「ちょ、ちょっとそんなにしたら背中が‼」
あまりにも先輩が四肢に力を込めたため、彼女との密着が強まって……足が肌が胸の圧力が僕の身体に集まって……。
「も、もう……ダメだ」
「あ、天津?。うわぁあああああっ!」
僕は力が抜けてしまい、そのまま滑り落ちていく。
「きゃあぁっ‼」
バシャーンと水しぶきをあげて僕たちはようやく下に落ちてきた。
「やっときたわね」
「なんかおそかったけど、どうしたんだ?」
心配する葉介に先輩はいつもの涼しげな顔へと戻して言い訳をする。
「……ちょっと水の流れが悪くてな。なかなかすすむのがおそかったんだ」
そんな言い訳をする先輩に海鳴は淡々とした表情で。
「……そうなの? じゃあ係員に伝えて水の量を増やしてもう一回やりますか?」
「⁉ い、いやぁ大丈夫だ。あまり八武崎を待たしては悪いからな。私はこのぐらいにしておく」
そう提案してきたが、もうやりたくない先輩はお姉さんぶった言い訳で反論した。
「そう? 先輩がそういうならべつにいいけど。じゃあ今度は八武崎さん。行ってきたら?」
海鳴はもしかしたら、僕たちが途中でとどまっていたことにきづいていたのかもしれない。
「あれ? つぎは海鳴さんじゃあないの?」
「私はしないわ。代わりにあとで天津くんと一緒にお茶でも飲むことにするわ」
海鳴の余裕げな言葉にヒカルはムキになって反論する。
「なによそれ⁉ なんだかわたしだけががっついているみたいじゃあないのよ」
あれ? なんかいつもの愛嬌たっぷりの八武崎ヒカルじゃあないんだけど?
「がっついているじゃないの。いいから行ってきなさいよ」
「うぐぅ。相変わらず腹がたつ女ね。まぁいいわ! 行くわよ雅騎。どうせ乗るんだったら、あっちの大きいやつにしましょ。水も多めの急速全開で一気に行きましょ‼」
「だ、大丈夫なのかヒカルっ⁉ いまさっき先輩と二人で滑ってきたけど、結構急な道だったよ」
「平気よ。私はあんなビビりの先輩とは違うもの」
「ななななななにをいって⁉」
「あぁ。バレてましたよ。気づいてないふりしてました」
「ええぇぇっ⁉」
「影で雅騎がチューブの中でふんばっているのが見えたからよ」
「う、うグゥ……」
「いいから行くわよ雅騎」
「わ、わかったよ……」
ショックを受ける桐生先輩をおいて僕とヒカルはウォータースライダーの上まで行った。
「それじゃあこんどは私が前に座るから、雅騎は後ろから私を抱きしめてよ♪」
積極的に先に座る彼女に僕は座る前に聞いてみる。
「……ヒカル。なんかいつもと雰囲気が違うよね」
彼女はふっと顔を背けて、
「……いろんな人に愛想を振りまくからアイドルって疲れるんだ」
そしてもう一度顔を僕のほうへとむける。
「だから雅騎の前では、素の私でいさせてよ。そうじゃなきゃ、わたし、つかれちゃうから」
彼女の物憂げな表情で、僕はようやくこれが彼女の素の性格なのだときづいた。
「そ、そうなんだ。べつにぼくはいまのヒカルでもぜんぜんかまわないよ」
僕は雰囲気が変わって驚いただけで、べつにヒカルのことが嫌いになったわけじゃない。
「ありがと。じゃあいいじゃん♪ はやくいこっ♪」
ヒカルは僕の腕を引いて浮き輪に乗ることを勧めた。
「わかったよ」
僕は彼女の後ろに座る。彼女の小さな体をだきしめような体形だった。
「いっくよ」
「うん」
さきほどの先輩のときとは違い、こんどはあっさりとウォータースライダーは終わった。
「きゃあぁぁぁ♪」
「すごかったな」
「ま、雅騎……」
ヒカルが恥ずかしそうに顔を赤からめながらもじもじさせている。
「え?」
彼女のからだを見ると、彼女の水着のブラの部分が取れていて、胸の部分を手で覆い隠していた。
「さっきので水着が取りちゃった……ど、どうしようぅ?」
どうしようと言われても困る。
「ええっ。えええええっ⁉︎ と、とにかくはやくつけなよっ⁉」
とそこに救世主が現れた。
「白々しいわよ。ヒカルさん」
するっと背後から現れた海鳴が八武崎の水着を結び直す。
「……なんであんたが結んでいるのよ……」
ヒカルは背後にいる海鳴を睨む
「わざとらしいアピールと貧乳のサービスが見るに堪えなかったのよ
「ムキー‼ なによーーー⁉」
怒るヒカルを無視して城鐘は僕に向き直る。
「天津くん。今度は上のカフェでゆっくりしましょ」
「わかった」
僕はプールからありながら、いちおうヒカルを気遣う。
「ヒカルはどうするの?」
「……独占タイムはもう終わったから、大丈夫。残りの二人と一緒にいるわ」
「独占タイム?」
言葉の意味がよくわからなかったが彼女はむくれたまま答えない。
「いいから、はやく行ってきなよ。城鐘さんが待ってるわよ」
「……う、うん」
『独占タイム』の意味はあまりわからなかったが、僕はそれ以上海鈴とカフェへと向かった。
「プールのカフェの割にはなんだかお洒落な内装だね」
「ええそうね。アミューズメント施設の併設のカフェの割には少し凝りすぎているのかもしれないのだけれど、まぁ最近はこれぐらい凝っていないとやっていけないわ」
「そうなんだ」
と、そこにカフェの店員が案内にやってくる。
「いらっしゃいませぇ♪」
その顔は僕の見覚えのある人物だった。
「凛奈っ⁉ なんでここにいるのっ⁉」
そこにいたのは、あの涼森凛奈だった。




