機械神の英断⑱
中道陽生視点
中道陽生視点
「しゃちょーう♪」
事務所に着くなり、いきなり筋肉隆々のムサイおっさん。シンイーが俺に飛び掛かかるように抱きついてきた。
「……な、なんだよ? きもちわるいな……」
突然のことで反応ができなかった俺はがっしりと捕まってしまう。
「デートに行ってきたんでしょ⁉ どうだった⁉」
ディロンのやつ、捜査のまえに涼森のことを喋ったらしい。
「どうもしないさ。天津雅騎の幼馴染の道楽に付き合っただけだ」
「へぇ。どんな娘だったの?」
「カレーの食べてゲロを吐いて、チョコを食べてゲロを吐くような女だ」
俺の即答にシンイーは若干引いていた。
「に、二回もはいたの……す、すごい娘ね……」
「素直に頭がおかしいって言ったほうがいいぜ」
声に気づいてカウンターを見渡すと、そこには潜入に行ったディロンもいた。
「おまえ、もうかえってきてたのか?」
「ああ。おまえさんの注文どおり、まったく収穫はなかった。ということが収穫だ」
堂々と帰ってきたこの男に言葉の意味が分からず、そのまま聞き返した。
「……すぐに帰れたってことか?」
「ちげぇよ。『あまりにもテレビやネットで公開されている情報と変わらない』ってことさ。ここまで秘密がない人間なんて逆に胡散臭い」
たしかに胡散臭い。だがそれはどういう理由でそこまで公開されたのだ? 児童養護施設自体が天津という存在を産んだから誇らしいからなのか? それとももっと、べつの理由があるんじゃあないのか?
「…………………………わかった。ありがとう」
「――ったく、思考しだすと素直になるから困るぜ」
俺の反応がおもしろくないのか、フンと鼻を鳴らしてウィスキーへ口をつける。
こんどは一日中ネットサーフインを楽しんでいたエレナにたのんでみる。
「エレナ。ネットでなんかわかったか?」
エレナは気怠げな顔をあげ、死んだ魚のような目で嫌々答える。
「天津雅騎とその仲間のメンバーのイザナギのメンバー一人ひとり一人について、調べたけれど。……そこのディロンと被るのもイヤだけど、『わざとらしいぐらい裏がない』っていうのが、私もかなり胡散臭いわ」
「……正しくて、裏がなくて胡散臭い。それは隠しているということですか?」
鈴木はエレナだけでなく、ディロンも質問した。
「そうじゃないぜ課長。嘘をついているんなら俺もわかるが、こいつらは表の顔も裏の顔もすでにできあがっているんだ。それをそのままバカ正直に公開しているんだ」
「それにこういう『出る杭』はかならずネット上で叩かれてもいいものなのに、なぜか掲示板に彼らのアンチが出てきても、逆にそいつらが大勢で叩かれるの。イザナギのアンチは本当に闇サイト扱いのひっそりとしたところにしかいない。……変じゃない?」
「……掲示板の悪口なんて気にする情報じゃないとおもうんですが……」
ネットに疎い鈴木に代わり、そのことに関しては俺が代弁することにした。
「それはたぶん。人間じゃあなくて九十九にやらしたんだろうな」
「九十九に? 最近人工知能のことを研究して、なんでもそのことにしすぎじゃない?」
「それが人工知能にできることだからさ。ネットの監視なんて人間が行えるものじゃない。掲示板に『悪意の感情』をのせても、その『悪意の感情』にたいしてどのような『言葉』でかえせばいいかという情報をもっている彼らはその悪意に対する『情報』で処理していくんだ。人間の感情は一時で情報容量の小さいものだが、反論する言葉の情報容量の多い人間が買ってしまうんだ。一昔前の『中国語の部屋』という人工知能の認識とは違い、言語だけでは人間は人工知能に勝てないんだよ」
「よくわかんないけど、経験の少なく感情的になりやすい若者の話を経験豊富で落ち着きのある人間が諭すようなものですか?」
「……かなり近い正解だが――違う。それは人の交流であり、掲示板はあくまで文章だ。交流は言葉だけじゃない。表情、呼吸、目線、気配り、目に見えない空気も会話の中には含まれている。だが文章だけで表現しようとするとそれらは無機質なものへと変化する」
「かなり難しい言い方してるけど……けっきょくなにが言いたいの?」
「つまり『イザナギこそ正義』という認識を植え付けようとしているのさ。『正義のヒーロー』。この存在が意味することはなんなのかを、俺はずっと考えていた」
「ラーフ(おまえ)を悪者にしたいだけじゃあないのか?」
「おれも最初はそう思っていた。でもおれひとりじゃあ、はっきり言って悪役として不十分じゃあないのか?」
「そりゃ、ごもっとな意見だな」
「……で? けっきょくヒーローってなんなの? わかってんならはやくおしえてよ」
シンイーの急かすような気持ちは他の部下たちもきもちが一緒だったようでみな俺が彼ら『イザナギ』がいったいなんなのかが感づいたことに気づいているらしい。
「それじゃあ、いまからスーパーヒーローがなぜこの社会で必要なのか? という疑問に対する俺のあくまで憶測を言わせてもらうよ。まだ確認してないから、まだ憶測だからな」
俺はそう前置きしながら俺は彼らに説明した。最初は淡々と聞いていた彼らも最後のほうには苦虫を噛み締めるような胸糞悪い表情だった。




