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オープニング②

それにしても空からの逃走手段を失ったのはかなり痛かった。我ながらこんなバカげている格好でバスや電車を利用できるわけがない。今は仲間の支援も受けれない完全に孤立した状態になってしまった。

街の狭くて人通りが少ない道を探してなんとか逃げているが、

「くそっ。警察官や自衛隊員が、うようよいやがる……」

街の至る所に警察のパトカーや自衛隊のヘリが飛び回っている。彼ら自身は別に俺でも相手にできるが、奴らに見つかったらすぐさま天津雅騎や他ヒーローの連中がやってくるだろう。

「――なら死になさい」

透き通るような美しくて冷静な声を聞いた瞬間、首元に冷たい感触が発した。首の頸動脈が切られたのだ。俺としたことがまさかこんな簡単に後ろをとられるとは思いもしなかった。

アザリン・ラインフォード。

光り輝くような美しい金髪を二つにまとめ、短く二つにまとめたサイドツインテールの少女。

彼女は『黒の教え』という暗殺集団で暗殺技術を教わり、鍛えられた暗殺者だ。両手にもっているナイフを巧みに扱って気配を殺して相手に近づくことができる。

物陰からパトカーを注意して見ていたせいで背後の警戒をしていなかったこともあるが、それ以前にこの女は気配を消す技術に関して長けているのだ。

「がぁああああああああっ!」

俺はその場でのたうちまわった。俺の首の頸動脈からたくさんの血が噴水のように流れ出し、路地裏を真っ赤に染めるグロテスクな光景が広がった。

「腕がおちたわね。……にいさん」

俺のことを兄と呼ぶ彼女は勝ち誇ったように俺を見下ろした。

しかし、

「なーんてなっ♪」

俺は両手をわざとらしく広げて立ち上がってみせた。さきほどアザリンに斬られた首筋はものの見事に塞がっていて、血の噴出も止まっている。

「そんなっ? 完全に致命傷だったはずなのにっ?」

勝ちを確信していたアザリン。は驚いてあとずさる。

「その男が肉体再生能力を持っているからだ」

またしても美少女が現れた。アザリンとは違い侍のように堂々と近づいてくる。

体のラインを引き立たせるライダースーツに引き締まった身体のライン。美しい白刃を思わせる切れ長の眼差しにすらりと伸びた脚。彫像のように整った口元。

桐生刀華。

天津雅騎の先輩でありながら、剣道の名人。

彼女は手に持った30センチほどの短めの剣を構えていた。

「だが、このガンブレードに斬られれば、お前も再生できまい」

彼女が剣の柄にあるトリガーをひくと剣の先から光の刃が出てきた。

ガンブレード。それは一般の刀剣とは違い、柄の部分に粒子を放出させることにより短い刀身を自由に伸び縮みすることによって相手との間合いを操る剣だ。

「いざ参るっ!」

「ここでしとめます!」

ピティと刀華が双方向から同時に向かってきた。

「そんな簡単には――いかねぇよ」

俺はすぐさま両手にそれぞれギミックを取り出して、変化させた。

二つともロールプレイングにでてきそうなありきたりの西洋剣のようなデザインだ。

両方から襲い掛かる二人を相手に俺は剣を二つだして彼女たち双方の剣を一つずつ受け止めた。

「そんなっ?」

「くそっ! 二人がかりなのにっ⁉」

どれだけ相手が必死になって剣を振り込んでも俺は軽々といなしていく。

「くっ。ここまで力量がかけ離れているのか」

二人が何度も俺に攻撃を続けて打ち込んで行く。しかし不意打ちは効いても真剣勝負で俺と対等に渡り合えるのは天津雅樹ぐらいだ。

「悪いけど、『テール姉妹』の剣術じゃあ俺は倒せないぜ」

「「誰が姉妹だっっ!」」

ポニーテールとツインテール。二人の髪型にちなんで俺は『テール姉妹』と名付けているが彼女たちは気に入らないらしい。怒りを孕んだ二人の剣撃に若干力が加わっていく。

「余裕、余裕♪」

だがそんな俺の余裕も長くは続かなかった。第三者が加入して阻止する。

「二人とも。今すぐ離れろ!」

男の声と共にふたりは何かを理解して俺への攻撃をやめて後ろ方向へ退いた。

「なんだよ。相手してくれな――」

そんな俺の挑発の台詞を巨大な轟音に掻き消され、俺の体は衝撃によって吹き飛ばされた。

「ぎゃああああっ!」

なにが起こったのかも理解できないまま、俺の体は大通りへ投げ出されてしまったようだ。

「…………な、なんだぁ⁉」

大通りには多くの警察のパトカー、自衛隊の戦車が陣形を組んで並んでいた。そしてそのそ場には多くの警察官と自衛官が並んで俺を包囲していた。

「……なーる。まんまとはめられたってわけか」

俺は納得した。どおりであの二人があっさりと退いていったわけだ。

「……これじゃあとても、逃げ切れないな」

俺は周りの人間を見渡しながらそう呟く。俺の後ろから今さっきの攻撃をしてきただろう男が静かにあらわれた。

「そう。逃走するお前を追い込むために俺たち『イザナギ』はお前を包囲するために二人には囮として時間稼ぎになってもらったのさ」

天津の親友であり全身を機械でサポートしている七瀬葉介がそう言った。

「そりゃよかったな。こんな大人数が俺一人のためにこんなに集まってくれるなんて嬉しいもんだ」

そんな皮肉めいた言葉を言う俺の前にさっきまで俺を襲ってきたあのクソなヒーローど奴らも現れた。

スーパーヒーローユニット『イザナギ』

この日本を数人の男女が営利を求めず日災害や凶悪犯罪者から人々を守る自治体だ。

彼らとともに警察や自衛隊などの公共の機関も協力して救助活動や犯罪者などの『悪者』と戦っている。

そんな犯罪者の一人がこの俺なのだ。彼らは俺を捕らえるために俺を追い回し、俺はこのスーパーヒーローたちに追い回されながら自分の目的を実行し続けている。

包囲している人間たちの前には天津雅騎をはじめ俺を追いかけてきた奴らが並んでいた。


遠隔操作型ロボット、ヤクモの操縦者『八武崎(やぶさき)ヒカル』

アイドルもやっている才色兼備の美少女。天津に惚れてから彼のサポートをするため、財閥の金と権力でイザナギを作りあげて彼をサポートしている。ヤクモという機械人形を操り戦う小柄な動物系美少女。

天津のことが好き。


虎の遺伝子を持つ獣人少女『(よこ)(いけ)(なつ)()

彼女の怪力は屈強に鍛えあげた格闘家でもかなわないほど強く、凶暴になると手がつけれない。女子高生とは思えれないほどのたわわに育った巨乳を持ち、雑誌のグラビアをすることもある。普段は黒髪で小説が好きな文学系女子だが興奮してひとたび獣人になれば金髪へと髪の色が変わり、獣人になる女。

こいつも天津のことが好き。


元暗殺者『アザリン・ラインフォード』

外国の元暗殺者でありながら、とある理由で日本にやってきて、所属していた暗殺集団『黒の教え』を抜けだしてイザナギに寝返り、その磨きあげた暗殺技術と格闘技術で悪人を倒す。金髪のクーデレツインテール少女。

……この子も天津が好き


ガンブレード使い『桐生(きりゅう)(とう)()

ガンブレードという小型の剣から粒子を放出して制御することにより剣からビーム砲を出したり、伸び縮みさせることのできるガンブレードを自由自在に操ることのできる剣術に長けた    身長が高いモデル体型の彼女はイザナギで雑誌モデルをやっている。

天津の一つ上の先輩であること以外は良く知らない。なぜこの女がメンバーに入ったのかも謎なのだ。海鈴の財閥で研究、開発されたガンブレードを使わせてもらっている。

……もういいだろうけど、この人も天津のことが好き。


半身サイボーグ男子『七瀬葉介』

唯一天津と同じ男メンバーで天津とは親友同士のイケメン高校生。しかし彼は事故により身体に障害が残ったが海鈴の財閥の力によって機械改造を受けて半身機械のサイボーグへと生まれ変わった。

……そしてこいつも天津のことが好き(?)。



そして我らがスーパーヒーロー『天津雅騎』

ある日突然、体内から謎の光を発し全身を増強することによる超能力によって一躍人気者になった男。その能力もすごいが彼の人望と人気は凄まじく、この日本中で彼の名前を知らないと言っていいほどの人気者であり、なおかつ彼はイケメンで数多くの女性ファンがいるのにかかわらず今のイザナギメンバーの女たちに好意をもたれているハーレム野郎だ。





まぁそれはさておき。

ここでひとつ疑問に感じるとおもうことだろう。その疑問をずっと噛み締めてほしい。


『ヒーローなんてこの社会に必要ないし、いらないだろう』


少なくても俺ははじめてヒーローに会ったそのとき、俺も感じていたことだ。

だが答えは簡単だ。


『この社会には正義が必要であり、その正義を正当化するための悪を生み出す』


このふざけたヒーローどもにさっきからボコボコにされ、集団で囲まれて『袋のネズミ』、『まな板の鯛』の状態になっているのがこの作品の主人公であり悪役であるこの俺『ラーフ』だ。


俺が『悪役』。あいつらイザナギが『正義』だ。これがこの世界の社会だ。


海鈴が偉そうにスピーカー越しに言い放つ。

「わたしたちはあなたがやったことは決して許さないわ」

俺はその言葉に苛立ちを感じ、怒りが湧いてくる。そんなことはえらそうに機械の向こう側にいるお前に言われずともわかっていることなのだ。

「……ああ。許されないさ。それは俺自身がよくわかっている」

そう。

俺は許されないとわかったうえで自分のこの悪役を続けているんだ。

「許されることではない……………でも別にだれに許されようともしてねえよ」

……そう。もう俺が許しを乞う人間はこの世にはいないのだ。

だけどそのことがおれが悪役を続けている理由じゃない。

自分が間違ったことをしているということは自分が今まで失ってきたものを思い返してみれば全てが自分の責任なのだということがわかる。

自業自得だ。悪役も正義もない。

ほじくりだせばもがき苦しむような痛みを背負って生きている。自分で自分の悪を見つめているのだ。その闇から目を逸らしたら、失ってきた大切な人の気持ちを忘れてしまう。

「誰がなんて言おうと俺は悪役をやめる気はないぜ」

だからこそ自分の気持ちは曲げたくない。自分の生き方は変えない。

お前らの都合で俺のやることをやめれるか。

「いい加減にしろ。ラーフ」

とうとう業を煮やしたのか天津雅騎が吐き捨てるように俺に言い放った。

「お前のせいでこの国の大切な人たちを失ってしまった。お前をここで捕らえてその連鎖を僕は断ち切ってみせる」

 「俺を捕らえたところで、……いまさらこの国の異変は止まらないぜ」

 ……そんなふうにかっこつけたところで、この追い詰められた状況では単なる強がりだ。

 俺はまだナノマシンで回復しきっていない身体をなんとか立ち上がらせる。

きっと昔も今も。そしてこれからも。

彼ら『ヒーロー』とはずっと敵対し続けるだろう。

いつのまにかどこかで決まった正義と悪。なんて人間の歴史ではその定義がずれまくっている。

どちらが正義でどちらが悪なのかなんて、過去の人間の歴史が物語っているが、そんなものは曖昧で無意味な線引きに過ぎない。

単純に水と油の二つに分かれて敵対しているだけだ。

正義と悪の線引きをするのなら勝者と敗者。もしくは大衆に望まれるか、孤立するかなのか。

奴らは大衆の望みにこたえる道を選び、俺は孤立して大衆と敵対する生き方を選んだ。

ただただその違いのために、その違いを互いに認めることができない。

これまでも、きっとこれからも。

「ここで終わりだラーフ。今日こそお前の最後だ」

冗談じゃない。俺のせいで死んでしまった恋人(かのじょ)のためにも。俺のために死んだ友人(あいつ)のためにも、こんなところじゃあ終われない。

「いいや。こんなところじゃあ終われないね。俺はこの世のあらゆるものを研究し、そして新しい世界を作ると約束したんだ」

俺はギミックをホルスターから抜いて身構える。

お前らが『正義のヒーロー』ならそれでいい。

俺は俺の『悪役スタイル』を貫いてやる。

そう言っておれは彼らに向かって駆けていった。

「俺は百万人を救うヒーローよりもたったひとりの願いをかなえる悪魔でありたい」

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