機械神の英断⑨
前半天津雅騎視点、後半中道陽生視点
昼休み。教室から出ようとした際、一人の男子生徒とぶつかりそうになり、急いで身をひねってぶつかるのを避けた。
「ごめん」
すれ違ったあと、いちおうすぐにあやまった。
「…………ああ」
ぶつかりそうになった彼にかすかに見覚えはあった。たしか僕のクラスの生徒だ。
目つきが悪いが、不良みたいな刺々しい印象はなかった。それどころか存在感のない。おとなしい印象がある男子だった。僕はクラスにいる人間のほとんどの人には話をしたはずなのに不思議と彼とは話をしたことがない。そもそもクラスの他の人間とも話をしたところを見たことがない。休み時間はいつも話しかけるなといわんばかりに顔を伏せて居眠りをしている人だ。特に部活動や委員をやっているわけでもないし、目立った成績や運動能力があるわけでもない。
一度も話をしたことはなかったが不思議と名前は憶えていた。
確か名前は中道陽生。ようせいだなんて幻想世界の妖精と間違われそうで変な名前だなと去っていく彼の背中を見つめながらそんなことをつい思ってしまったが、他人の名前に関してあまり口を出してはいけないのでその考えを打ち消すようにした。
中道陽生視点
俺の名前は中道陽生。
陽に生きると書いて『ひろき』と読む。『ようせい』じゃない。
学校では空気扱いされているがべつに妖精じゃない。
そして今回、あの二人のように転入してきたわけではなく、俺は最初からあの場に脇役としていたのだ。
ただし、ただの脇役じゃない。
一言もしゃべらず、天津にも話しかけないし、転入生の女が自己紹介しても男子たちが声をあげるなか、俺は『こいつはアイドルなのか? 有名なのか? まぁ興味ないから静かに寝かしてくれ』と眠たげに黙っていた脇役だ。休み時間はひたすら仮眠にうちこんでいる。
友達がいない『脇役』。それが学校での俺だ、
そして裏では非公式の研究を行う狂思想科学者。
仮面をつけ、ラーフ・ブラックを名乗り、九十九のデータを集めていたところで天津にコテンパンにやられて逃げた男だ。
……まさかあの天津雅騎が俺と同じ学校、そして同じクラスの人間だなんて全く知らなかった。
先日、あの工場からアジトに逃げ帰った俺は部下にそのことを聞かされて飛び上がってしまった。
幸いにも俺の席は天津から離れた廊下側だ。あのバンジージャンプで目立とうとしたあの涼森とかいう女のこともよく見えなかった。
まぁそれどころじゃあないからな。
あのとんでもヒーローはいったい何者なのだろうか。
アホの言う冗談なのかとも思ったが、本当に世間公認のヒーローらしい。
俺がクラスで誰一人友達のいない人間『ぼっち』という役割というのもあるが、それ以前にそんな存在がいること自体が信じられない。
天津雅騎というクラスメイトに興味がなかったが、あの光を纏った謎の能力については科学者として興味がある。
なんとかして、あの能力のことを調べて対策しなければ前回の二の舞になっしまう。
…………まぁ前回とおなじように逃げればいいだけの話でもあるんだけどな。




