機械神の英断⑨
天津雅騎視点
私立葦森高校。新設されたばかりで整った設備と学習環境がそろったウリの僕が通う高校だ。
「おい、きたぞっ! スーパーヒーローのお出ましだ!」
「ほんと? わたしサインもらってこよ♪」
「わたし、彼には興味ないけれど、俳優の○○さんのサインをもらえるようにしてもらお♪」
学校に到着すると、学校中のみんなが僕の周りに集まってきた。
なんとかあしらいつつ、教室へと向かった。
「ま、またこんどね……」
学校についてすぐ、大勢のクラスメイトに取り囲まれてしまった。
「や、やぁみんな。おはよう」
若干引きつった笑みを浮かべながら挨拶を交わすと、みんな一斉に僕の方へ押し寄せてきた。
「まさきくん。昨日あのテレビにでてたね」
「アイドルの八武崎さん紹介してくれよ」
「おれも、おれもー♪」
大勢のクラスメイトがわいわいと質問してくるなか、
「――みんな、ちょっといいかしら?」
透き通るようなきれいな声が響く。みんながその声を聞いて静かになる。
城鐘海鳴。昨日も会った僕のマネージャーであり、城鐘家の令嬢だ。
「天津くんにすこし伝えたい」
さらりと長い髪。切れ長の凛とした瞳。長身ですらりのびる長い脚と細いウェストはまるで現役のモデルのようなすらりとした体格の女性だ。
「ど、どうぞ……」
ひとりのクラスメイトがおずおずと道を開けた。
「ありがとう」
城鐘海鳴の言葉には、生まれの違いかどうかはわからないが、どこか底がしれない圧力がある。ほかの生徒もおなじように道を開け、みなおとなしく散り散りに解散していった。
「昨日はお疲れさま。よく眠れた?」
「ま、まぁね……」
実をいうと悪夢の影響であまり眠れていなかったのだが、あまり疲れていることを出したくないので空元気で答えた。
「ところで伝えたいことってなんなの?」
俺は昨日、去り際に海鳴が言っていたことが気になって聞いてみた。
「それは今日、この学校に来る転入生と一緒に説明するわ」
「転入生?」
俺がそう聞き返したところで、担任の先生が入ってきた。
「みなさーん。今日は転入生を紹介します。早めに席に着いてください」
担任の北川先生の号令に生徒たちは大人しく席に着いていく。
「……すこし来るのがはやいわね。……まぁいいわ。あとで説明するから、とりあえず私も席に戻るわね」
「……それじゃあ、まずは一人目の『八武崎ヒカル(ひかる)』さん。はいってきなさい」
え。八武崎ってアイドルの? という何人かの男子たちがつぶやきながら、彼女は入ってきた。
「き、きのうの……」
愛くるしい童顔とわざと大きいサイズを着たかのようにダボ着いた制服の少女。
アイドル八武崎ヒカルはそこにいた。
「八武崎ヒカルです。みなさんどうかよろしくお願いします」
と彼女が可愛らしくウィンクした途端に。
「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉっ」」」」」」
とけたたましい男子たちの声が響き渡った。
「……男子、きっも……」
女子のほうはというとあまりにも熱の入った歓声に若干冷めた表情で吐き捨てていた。
「……じゃあ、次は七瀬葉介くん。入ってきなさい」
一人の男子高校生が廊下から入ってきた。イケメンだった。
「「「「「「「きゃああああああぁぁぁぁっ」」」」」」
こんどは女子たちの悲鳴にもにた歓声が響き渡り、一部の男子じゃひいていた。
目元がかなりきつくしまった顔立ちにワックスで整えられた金髪ウルフヘア。
そしてわざと制服のボタンを緩めた肌にはその細い体とは裏腹にかなり鍛えられた体格は他の学生からば校則を破りまくりのファッションをしている。
しかし彼は第一声でいきなりこんな自己紹介を言い始めた。
「どうもー。今日から天津雅騎くんの奥さん(イン)としてこの学校に転入することになりました七瀬葉介です。よろしく」
奥さん(イン)⁉ なに言ってんだこの転入生はっ⁉
「「「「「「「「「「あはははははっ⁉」」」」」」」」
そのジョークで男子を含むクラス中が大爆笑に包まれた。一方の俺は何がなんだかわからず、固まっていた。
七瀬はそんな僕の席のところまでつかつかと近づいてきた。
「……な、なにっ⁉」
右手で握手を求めながら俺にだけ向けて自己紹介を始めた。
「七瀬葉介だ。これからよろしくな。雅騎って呼んでいいか?」
すこし馴れ馴れしいけど、差し出された握手を断るわけにはいかないので、僕も
「べつにいいけど……相棒ってどういう意味?」
困惑する僕と彼のあいだに海鳴が割って入った。
「くわしい話を話したいけれど……学校が終わってからにしましょう。そろそろホームルームを終わらせないと、先生が困ってしまうわ」
海鈴に言われて先生のほうを見れば、確かに彼女はあまりに自由に動き回る生徒たちにあたふたしているようだった。
「と、とりあえず七瀬くんと八武崎さんは天津くんの近くのあの席に座ってくれる?」
先生はあらかじめ転校生用に用意された僕のとなりとうしろの席に座るように促す。
「はーいお母さん。じゃあ、雅騎。またあとでな」
と、軽いギャグでまた教室をとりながら、後ろ席へと向かう。
「これからよろしくね。天津くん」
もうひとつの隣の席にはなんと、あの人気アイドルが座って、僕に声をかけてくれる。
「よ、よろしく……でもどうしてこの学校に転入したの?」
僕の問いかけに彼女は人差し指を唇の前にたてる。
「……しぃ……放課後、またあとで教えてあげるね」
その仕草と言葉のひとつがどこか色っぽくて、可愛らしい。
「わ、……わかった」
僕はそれいじょうはなにも言えず、おとなしく放課後まで待つことにした。
「……えーと。……それじゃあ。出欠をとりま――」
先生が出欠をとろうとしたそのときだった。
「いゃっほおおおぉぉぉぉぅぅぅうううううう!」
窓の外から女の子の奇声が響き渡った。
「……また涼森さんか……」
いつもの彼女の声に先生はこめかみを抑えながら短い溜息をついた。
「お、おいっ⁉ あれなんだ⁉ なんであの女の子。あんなことしているんだ⁉」
葉介は窓の外にいる一人の少女を指しながら大声をあげる。
一人の女の子が校舎の屋上のフェンスから自分の腰にゴムを巻き付けてバンジージャンプをしていた。
「今日は屋上からバンジーか……」
「いつものことだよね」
「なんかもう見慣れちゃったよな」
「飽きちゃった」
とクラスの誰かが冷めた口ぶりで言った。先ほどの転入生紹介のときとはうってかわってクラスの人間には見慣れた光景だ。
しかし転入生ふたりにとっては初めて見る光景に違いはなかった。
「な、なんなの天津くん? あの子。いったいなにをしているの?」
とさっき僕に黙るようにうながしたはずの八武崎も、大声で僕に聞いてきた。
「あれ、僕の幼馴染なんだ。でも気にしないで、注目されればされるほど、危険なことをしたがる人間なんだ」
「幼馴染なのっ⁉ けっこう重要な役割なのに、扱いが雑すぎないっ⁉」
八武崎の役割という言葉はすこし理解しがたいけれど、仕方あないことだった。
「……しかたないよ。幼馴染といっても児童養護施設で一緒だったけれど、彼女と再会したのは高校生の時からなんだ」
窓の外の彼女を見ながら彼女との思い出を振り返る。
子供のときから無茶をして、施設の職員やまわりのこどもたちから反感を買っていた。
「きゃははははは。たのしぃ♪」
制服のスカートをはためかせてスパッツ丸出しで笑い転げているが、実際にはかなり危険な行為だ。
絶対にまねをしてはいけない。
なぜならバンジージャンプは遊園地のアトラクションで安全を確かめて行うものであり、素人が学校の屋上から飛び降りれば何かの障害物に当たってけがをする可能性が多い。
しかし彼女はだからこそやりたかったのだろう。
彼女はバカだから。バカなことをやっていたいんだ。
彼女の名前は涼森凛奈。
幼い時に同じ児童養護施設にいた幼馴染だ。別々の里親に引き取られてからは会っていなかったがこの高校に入学してから再会した。
子供の頃から冒険好きの彼女だったが、ここまでの変人になるとは思いもよらなかった。
彼女はカメラで動画を撮影してネットに流す動画投稿を趣味にしている変わった女の子だ。
昔は動画に広告料が付与されたことによって企業が動画投稿者に投稿してお金を儲けていたらしいのだが、現在では企業は広告から撤退して本当の意味で動画投稿したい人間しかいなくなった。
動画投稿者は企画を考えて撮影を行い、それを編集してネットに流す。
彼女のような問題だらけの動画ばかりあげている人間はいない。
しかし彼女は派手で人に迷惑ばかりかける動画ばかり作っていた。それはむかしから変わらない。
「児童養護施設のときからバカなことはやってたけど……僕はもう高校生だし……」
僕の言葉を察したのか、海鳴が付け足す。
「あなたはヒーローよ。涼森さんのアホな動画に付き合うことはできないわ」
そう。僕はヒーローだ。
「そうだね。彼女は幼馴染だけど、色々な意味でもう遠い存在なんだ」
「……そ、そうなんだ……まぁあんなことに付き合ってたら、報道陣にさらされちゃうものね」
ゴム紐がある程度静止してから、彼女は固定していたカメラを自分のほうにへと向けて自撮りを始める。
「いやー、それにしても学校バンジー楽しいわ。やっぱりこれはみんなやったほうが……」
「こらー。すずもりーっ‼ 降りてきなさーい‼」
とそこへ数人の先生たちが莉奈の真下へと向かってくる。
「やばっ、逃げなきゃ」
急いで身体を揺らして窓のほうへと近づき窓から逃げようとしたが、
「つかまえた♪」
すでに回り込まれていた女教師に簡単に取り押さえられていた。
「ぎゃあああっ!」
教室の窓からその様子を見ていた海鳴は呆れていた。
「……あの子はいったいなにをやりたいのかしらね」
「……………………さあね。でもけっこう……」
楽しそうだった。その言葉を言おうとして、呑み込んだ。
そう。彼女はいつも楽しそうに物事に取り組んでいる。




