オープニング①
はじめまして弱尾嵐端です。この作品は異世界転生やファンタジーではなく、SF作品となっています。
一作品でも読んでいただいたら幸いです
「今日でお前の悪事も最後だな。ラーフ」
――と、正義のヒーロー様はそう言った(笑)
東京のビル群の中でもひときわ高い屋上のヘリポートで俺とスーパーヒーローは向かいあっていた。
王子のような白と金色のコスチューム。短く束感のある短髪に、闘気の宿った瞳と整った顔立ちの美少年。
彼の名前は天津雅樹。いまこの国で一番の注目を集めている英雄であり人気者だ。
その真剣な顔を嘲笑うかのように俺は笑っていた。
いや実際には笑っているのではなく、口が裂けるような笑いを浮かべた表情のデザインの仮面をつけていただけだ。
俺の科学者としての名前はラーフブラック。
高校生としての名前は中道陽生だ。
科学者の白衣をモチーフにした全身黒色に水色のラインを施したような特殊な金属の戦闘服に笑いの表情を浮かべた仮面。
俺が渾身のセンスでデザインしたものだったが世間から見ればヤバイ奴だ。
世間での俺の評価というか役割はずばり『悪役』だ。
正義」のヒーローの影で、こうして悪役をやっている。
そして俺の目的は人類の進化の研究だ。
この俺自身の身体に実験、改造を行い人体強化を施している。
何億もの細胞機械『ナノマシン』やその他、研究で手に入れた技術を使って自らの肉体改造を行っている
笑い(ラーフ)の仮面をつけ、あらゆる研究を手がける狂思想科学者「ラーフブラック」だ。
「……いつもそんな言葉を言ってるのって、飽きてこないのかい?」
俺は軽く冗談を言ってみたが、そんな余裕はなかった。
「お前を倒して、この国の異変はおさまらないんだ!」
天津雅樹は怒涛の勢いで拳を握りしめながらこちらに距離をつめてきた。彼の体の周りには未だ俺も科学的に解明できていない金色の蒸気のようなものが沸いている。
「――いきなりかよ⁉」
もう少し話を長くできるとおもっていたがおもいのほか相手の気が短かった。
天津雅騎は握りしめた拳を俺の腹部目掛けて叩き込んだ。いわゆるボディーブローのような形だ。
「はぁっ!」
俺はなんとか避けようとしたが能力を使った奴の踏み込みは速く、避けきれなかった。
瞬間、俺の体はまるで風に飛ばされた紙袋のように軽々しく宙を舞い、足場の少ないヘリポートの外へ落下しようとした。
天津は自分の放った一撃が上手く当たったことに手ごたえを感じているのか、拳をこちらに当てた状態で立ち尽くしていた。
天津の攻撃に吹き飛ばされたのが俺の狙いだったのだ。
俺は天津の攻撃を食らい、わざと飛ばされてビルからの落下してあのスーパーヒーローから逃げ出したのだ。
「じゃあなヒーロー♪」
殴り飛ばされたというのに、俺は体から流れる激痛を堪えて、わざと余裕のそのもののような声を出しながらそのまま飛び降りていく。
「しまったっ!」
ようやく天津も俺がわざと吹き飛んたことに気づいたようだったが、その時には声は上の方で微かに聞こえただけだった。
これなら俺を追いかけてくるのに時間がかかるだろう。
俺はそう自分に言い聞かせながら、夜の空の優雅な滑空作業に移る。
天津雅騎に会ったときは逃げるのが一番カンタン。
これは俺なりの結論というよりも経験に基づいた行動だ。
スーパーヒーロー天津雅騎とまともにやりあうなんて、バカげている。このまま逃げた方が賢明だ。
天津雅騎の恐ろしいところの一つは『科学では説明出来ない超人的な能力』であり、その能力の限度は『追い詰めれば、追い詰めるだけ上昇する』という根拠もない、スーパーパワーを使いこなすということだ。
なんの根拠もない特別な能力なんて不気味でおぞましいと捉えることもできる。
自分の技術を熟知している俺からみれば自分の能力をわかっていないやつは危険すぎるのだ。
だが、俺自身もただの人間ではない。いわゆる改造人間というやつだ。
俺は腰のホルスターから黒いスティックを一つ取りだし、柄の部分を押し込んだ。自分の体へと突き刺した。
これは俺の開発した発明品で『ギミック』というものだ。棒状のナノマシンが様々な物体へ変化したり、自分の体に突き刺すことで装着する手間を省くことができる。
『ギミック』という言葉は手品用語の仕掛けを意味する言葉からとったものだ。
俺の背中はみるみるうちにふくらんでいき、黒色のパラシュートを出して、徐々に速度を落としていく。
俺はパラシュートのトグルを操作して先ほどいたビルから少しづつ離れながら降下していく。
都会の冷たい夜風を心地よく感じながら。空の旅を楽しんでいた。
しかし、そんな安穏なひと時を一瞬の閃光が引き裂いた。
「ギャアアアアアアァッ!」
謎の閃光によって焼けるような痛みが俺の全身に駆け巡った。
俺はバタバタと体を苦しみもがかせながら、地上へと落下していった。
「――ぎゃばっ!」
俺は受け身もとれないまま地面に勢いよく地面に叩きつけられた。
通常の人間ならば脳みそがぐちゃぐちゃになるところだし、体も焼け焦げているところだが、俺は焼き肉の焦げ付いたようなにおいを発しながらも、なんとかよろよろと立ち上がって呟いた。
「……そういえば天津以外にも面倒なやつがいたんだったな。忘れていた」
俺は起き上がってぽんぽんと手で身体についた砂をはらっていると、ふと背後から気配を感じて、即座に側面へと転がっていく。
背後から強烈な炸裂音を鳴り響かせながら、機関銃の雨が通り過ぎる。さっきまで自分がいた地面が熱で焦げ付いて黒く染まった。
俺が振り返るとそこにいたのはあまり色っぽさからはかけ離れた機械の女。といっても乳房や細い女性の体はデザインされているものの生身の人間じゃあない。いわゆるロボットだ
遠隔操作型人型兵器。通称『ヤクモ』。
「今日であなたの悪運もおわりね。黒い仮面のイカレ男さん」
ヤクモから甘ったるいアニメ声で上から目線の言葉が聞こえてきた。
このロボットを操作しているのは八武崎ヒカルという人気アイドルだ。
彼女は二十メートル以上離れた高性能アンテナを積んだ中継車から指示を出して操作している。だから自分の身が完全に安全な状態だから言いたい放題なのだ。
「最近のアイドルはロボットにマシンガン撃たせるのが流行りなのか?」
と、そんな軽口を叩いている余裕はなかったようだ。
「ここまで追い詰められれてるのに、良い度胸しているわね」
ヤクモは一体ではなく量産型であり、先程俺を攻撃してきたヤクモとは別のヤクモたちがぞろぞろと現れて俺のまわりを取り囲んだ。
「こりゃ、もてもてだな。生身の女の子じゃないのがくやしいけど」
彼女たちの物騒な武器を前にしても俺はヘラヘラと笑っていた。
「その減らず口もそこまでよっ! 私たちヤクモの手で蜂の巣にしてあげるわっ!」
彼女の言葉とともにヤクモ達は一斉に機関銃を発射した。
今度は何体ものヤクモの機関銃の大合唱が夜の街に鳴り響いた。
「――おいおい、そんな豆鉄砲じゃあ俺の体は傷つかないぜ」
ナノ単位でナノ単位強化をほどこした特殊な金属でできている。こんな小口径の銃弾なんて何発くらっても傷なんてつかない。
「なら。これならどうっ⁉」
一体のヤクモが機関銃での攻撃を止めてレーザーナイフで迫ってきた。
だけど、接近戦なら俺のほうが得意だ。
俺は迫ってくるヤクモの斬撃を半歩後ろに下がって攻撃をかわした。
「あせりすぎだぜ」
ヤクモは斬撃を空振りした反動で、前方に大きくよろける。
「わわっ! 制御できないっ⁉」
遠隔での制御ができなくなったのか、ヤクモはそのまま地面に倒れた。
ヤクモはガクガクと四肢を振るわせたまま、そのまま立ち上がろうとはしない。
駆動モーターやどこかの部品が破損してしまったのか、観察する暇はないが、今がチャンスだ。
「楽勝だな。こんなロボ――」
と、そこまで言ったところで自分の体が宙へと浮いた。俺は体をひねって、その正体を確認する。
視界に映った縞模様を見て気付いた。
「げっ! 虎女までいやがったのかよっ⁉︎」
煌めくような白色の髪の美少女が俺の体をなんと右手一本で持ち上げていたのだ。
「――ッガァァァァァッ!」
とても女の子が出したとは思えないような獣のうなり声をあげる少女に俺は振り回され、
「ガァッ!」
少女そのままハンマーを振り下ろすように地面に振り下ろされた。
「げぼっ!」
普通の人間なら脳みそがぐちゃぐちゃになって即死確定なのだが、俺の場合へルメットを兼ねている仮面のおかげで仮面越しに衝撃が伝わって軽い脳震盪を起こすだけだ。
それでもうまく立ち上がることができず、俺は地面で仰向けになりながら彼女を見上げた。
彼女の名前は横池夏芽。
彼女は人間でありながら虎の遺伝子を組み込まれた合成体だ。その腕力は細い女性の体とは思えれないほどムキムキに筋肉を鍛えあげられた大人の男でも敵わないような力をもっている。
肌を露出させた白色のビキニを着ていて、尻には虎のしっぽが生えているその恰好はこんな街中でするような恰好とはおもえないほど破廉恥だ。彼女の胸囲は百センチを超えるらしい。
ちなみに彼女は胸が発育がすさまじく、ものすごくでかい。
「オマエはゼッタイにココでタオス!」
怒りを込めた言葉で叫びながら俺の足をつかみ、無邪気な子供がぬいぐるみを振り回すかのようにまた俺の体を振り回す。
「うぉぉぉぉっ?」
彼女の豊満な胸がばいんばいんと揺れていて目の保養になるからこのまま見ていたいな。
と思っていたかったがおそらく彼女は回転で勢いをつけながら俺を地面へ叩きつけてくるだろう。
そうなる前に逃げの一手をうつしかない。
俺は右手を腰のホルスターに回して黒い棒状のものを抜きだした。
これは『ギミック』。俺の発明品の一部だ。
手品の仕掛けからとった名前で、このギミックは最初のステックから形を変えて、あらゆるものに変えることができる。
そのギミックをナイフの形状からボール型へと変化する。
「これでもくらいなっ!」
そのままボールを足元へ投げるとボールから強力な閃光が発した。
「ウギャァァァァァァッ!」
夏芽はまともに閃光を見てしまい、思わず俺の体を手放してしまう。
「逃がさないわ!」
もたもたしているあいだに天音が別のヤクモに操作を変えて、再び機関銃で俺を足止めしようとするが、先ほど光を発した閃光爆弾から黒い煙が立ち込める。
「残念。これ煙もでるんだよね」
俺特製のスタングレネード兼スモークグレネードだ。強力な閃光を発したあと煙が発するようになっている。
「くっ。前が見えない……」
海鈴はモニター越しに何も見えなくなったのだろう。ヤクモたちの動きが固まった。
「今のうちに逃げるか」
できるだけ二人に見つからないように体を屈めてこそこそと逃げ始めた。
「待ちなさいよっ⁉」
「ラーフ、ドコダーーー!」
夏芽の叫び声が背後から聞こえたが「はいどうもここですよ」なんて言えるわけがないの。俺はできるだけはやく煙幕を利用してその場から離れた。