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TS兄貴!  作者: ヒロメル
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scene4 TS兄貴!ネトゲの姫になる

 チュンチュンと小鳥がさえずる声を聞きながら思い瞼を開けると、カチャッという音と共にキーボードが机から落ちる。

 どうやら昨日は男に戻る方法という、雲をつかむような話を探しているうちに寝落ちしてしまったようだ。


 見つかったのはオカルト的な物から、整形手術やホルモンバランスの注射とか。

 前者は眉唾ものばかり、後者は完璧な性転換は不可能という結論になっていた。

 今の俺のような・・・完璧な性転換は・・・有り得ない。


「ふあぁあ、んなものみふかるわけねぇよなぁ」


 大体見つかっていたら大騒ぎになっているし、今頃世界中で性別という概念が無くなっている。


 大きく欠伸を一つすると、お腹の音が鳴る。

 キョロキョロと周りを見渡し、扉に耳を当てる。


「部屋に宗太の姿無し!外から宗太の生活音無し!」


 正直宗太なら俺に完全に見つからずに部屋に隠れれるだろうし、音を立てずに生活する事も出来そうなのでこれは気休めのようなものだ。

 おずおずと扉を開けると、いつものように水筒と朝、昼のお弁当が置いてある。


 水筒をかぽっと開けると、味噌汁の優しい匂いが鼻に充満する。

 おれはトプトプと水筒の蓋にお味噌汁を入れると、まるで味噌汁ソムリエのようにクルクルと味噌汁を回す。


「ふ・・・毎朝熱々の味噌汁を飲むのが・・・たまらないんだよなぁ」


 俺はいつものように味噌汁に口をつけ。


「あっひゅい!?」


 奇声と共に勢いよく蓋を机に叩きつけてしまう。

 そして中身が少しこぼれ手にかかる。


「うおおおおおおお!?ダブルパンチ!?」


 カーペットの上を転がりながら手を見てみると、軽いやけどをしたような感じになっている。

 いくらなんでも皮膚が弱すぎるだろ!?

 流石にこのままにしておく訳にもいかないので、引きこもりとしては遺憾だが、部屋を出て冷水を適当なお皿にタプタプ、冷蔵庫の中にあった無駄にデカイ氷をいれ、火傷した部位を浸す。


「ああー・・・気持ちええー」


 幾分ほっこりした気持ちになりながら、応急処置をすませ部屋に戻る。

 そして味噌汁を注意深く観察する。

 いつもと変わらない筈・・・だよな。


 今度は恐る恐る、慎重に息を吹きかけながらちょびっとだけ口をつける。


「あっひゅい!?」


 今度は事前に心構えが出来ていたのでこぼす事は無かったが、これは間違いない。

 猫舌に・・・なってる!?

 しかもかなり重度の。


「そんな・・・朝の熱々味噌汁は俺の楽しみの一つだっていうのに・・・」


 俺は愕然と膝をつくと、これまた熱々のトーストに視線を向ける。

 ・・・流石にこのくらいなら大丈夫だよな?


 サクサクという気持ちの良い音と共に、ハチミツの風味が口に広がる。

 今まで気づきもしなかったが、宗太のやつはなにかトーストに工夫をこらしているようだ。


 しかし甘い物は嫌いという訳ではなかったが、なんだろうこの幸福感は。

 牛丼の時には感じなかったが、少し好みが変わってきてるのかもしれない。


「やっぱ味覚も変わってたのか?それとも・・・」


 女性化が進行している?っと言おうとして、言うのをやめる。

 俺は男だ、そんな事は考えたくもない。


「しかし戻る手段はおろか、手掛かりすらないんだよなぁ」


 俺は食べ終えた食器をPCの横に置こうとして・・・なんかモヤっとしたので台所で洗っておく。

 洗剤なんて使うのは果たして何年ぶりか・・・。


 ヤレヤレと自室に戻り、再びPCの画面と睨めっこを開始する。

 無駄だとは思うけど、今日も調べてみるかーっと、いつもの情報サイトを見ながらネットサーフィンを開始・・・せず、いつもやってるオンラインゲームをクリック。


 ちょっとだけ、ちょっとだけなら良いだろう、いつもログインしてるのに昨日はしてないから、フレも心配してるだろうしな!


 そう言いながらゲームにログイン、可愛い女アバターがメイスを構えたので決定を押す。


『お、サクラたんインしたお』

『おいおい、昨日はどうしたんだよ?おかげで日課のレイドダンジョン行けなかったんだぞー』

『まぁまぁ、女には色々あるもんなのよ』

『さっすがアカネ姉さん!』


 そして同時に埋め尽くされる我がギルドチャットに苦笑い。

 俺の所属しているギルドは平日朝から夜にかけて常にログインしている廃人ギルドだ。


 よって行く場所は大体レイドダンジョン、そしてヒーラーの俺がいないとそれはそれは困る事になる。


「ごめんなさい!ちょっとリアルでごたごたしてて!」


 俺はエモーションを駆使しして可愛らしくお辞儀をする。


『ああ、良いって良いって、俺達は改めてサクラちゃんの偉大さが身に染みたよ』

『それなー、野良ヒーラーの下手さったらねぇぜ』

『というかやっぱ、ヒーラーはサクラちゃんみたいな女の子じゃないとね』


 いつの間にかガヤガヤと俺の周りにアバターが集まって来る。

 ちなみにサクラというのは俺のプレイヤーネーム、使用するアバターはもちろん女アバ。

 ネカマですが何か?オンラインゲームを女の子がする訳ないじゃないか(笑)


「いや、今俺は女の子になるのか」


 いつもの調子で馬鹿なチャットをしていると、ふとイタズラ心が芽生える。

 ここ最近狩りの効率化の為にボイスチャットしようぜ!と話題になっていたのだが、ネカマ特有の「マイク故障中でーす!」で乗り切っていたのだ。


「ふふふ、皆驚くぞお」


 俺は思い切ってマイク無しのアイコンを消す。

 すると秒で、戦士アバターの男がびっくりマークを出す。


『サクラたんのマイク無しアイコンが消えたお!?』

『ま!?ついにネカマですって告白する時が来たのか!?』

『あら!?それなら私も地声・・・晒しちゃおっかな~』

『アカネ様の地声だと!?おい皆!スカイプを開け!』

『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおお』』』


 何やら大事になってしまった。

 いや、でもここまで来たら・・・!


 俺は送られてきたスカイプIDを登録、グループチャットに参加する。

 すると既に会話が始まっているようだ。


「はいはーい、KE☆N☆GOでーす!戦士やってるお!」

「俺俺、俺でーす!」

「いや誰よ・・・はぁい皆、アカネでーす!」

「うあああああああああ!?アカネ様が男だったーーーーーー!?」

「知ってた・・・リアル女子がオンゲなんてしてる訳ないじゃん・・・」


 阿鼻叫喚、アカネさん、やっぱネカマだったんですね。


「あれ?ところでサクラちゃんは?いや?サクラ君かな?」

「参加はしてるけど声聞こえてこねーぞー?」


 あ、これ参加するだけじゃあ声届かないのか、えっと、どれだ?普通に考えて緑のボタンだよな?

 俺はえいっ緑のボタンをクリックして咳払いを一つ。


「・・・」


 やばい、普段話すのなんて宗太くらいだぞ?いくらネット会話とは言え何を言えば良いんだ・・・。

 しどろもどろしていると、静まり帰っていたボイスチャットが突如歓声に包まれる。


「生女子きたーーー!サクラたん、信じてたお!」

「ま?へ、ま?ちょ、めっちゃ美少女じゃん、結婚してください」

「あんらぁ!?サクラちゃんは私の仲間だと思ってたのにぃ!?」

「おれ、アカネのやつからサクラちゃんファンクラブに移動します!」


 次々に流れてくる会話に目をパチクリ。

 俺はまだ一言もしゃべってないし、しかもまるで実際の俺を見たかのような反応!?


「ほ、ほあ!?何で・・・」

「声までキュート!惚れ直しました、住所教えてください」

「おいまてKE☆N☆GO、俺の彼女に手を出すな」


 尚も繰り広げられる会話におっかなびっくりしていると、アカネさんのチャットが流れる。


『サクラちゃん、ビデオ通話になってるわよ』

「ふえ!?」


 俺が急いで画面を見ると、俺が押した緑のボタンには、まごう事無きビデオマークがついており・・・。


「あ、ああああああああああああああ」


 絶叫と共にビデオ通話をオフにし、座布団にダイブ。

 座布団で顔を隠し、ひたすら部屋の中をのたうち回るハメになるのであった。

 どうやら俺は、声を晒すどころか顔まで晒してしまったらしい。



 以降、サクラが所属していたギルドのみならず、どこまで情報が拡散したのか、サクラがやっているオンラインゲームで姫扱いされる事になるのであった。



またまた評価ありがとうございます!!

見切り発車で開始したシリーズですが、評価を貰えると本当に嬉しい物ですね!

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