第四話 TS兄貴!ワタシに・・・女を教えてくれないか?
まだ明るくなり始めたばかりの明朝に学ラン姿の青年が一人。
360度、どこから見てもイケメンオーラを醸し出す青年は、陰りのある表情で呟く。
「兄貴は・・・ちゃんと起きれているだろうか」
何故こんなに速く登校しているかというと、登校時間ギリギリだと兄貴の部屋から早く出ていけオーラが醸し出されるのだ。
正直ワタシとしては兄貴と少しでも長い時間同じ空気を吸っておきたかい、姉貴になってしまってからは更にその気持ちが高まるのを感じる。
「はぁ・・・」
「なーに辛気臭い顔してんのよ!」
そんなワタシの背中に軽い衝撃が走る。
何事かと背中を見て・・・いや、見るまでもない、実は数十分前にこいつが家の扉を閉めた音は、兄貴の昼食を作っている時に聞こえていた。
だがあえて言うならばこの衝撃力、声、そして匂い・・・何よりこの時間に登校するやつなど。
「いや何、少し困った事態が起きてな」
「へぇ~?宗君が困る事なんてあるんだ?」
くるりとワタシの前に姿を現した亜麻色の髪の幼馴染に視線を向ける。
「真衣はワタシの事を何だと思っているんだ」
「性能はハイスペックだけど残念な男」
そうか、残念な男か、だが少なくともハイスペックという評価は得られているようだ。
次は残念な男と言われないように善処せねばならない。
少なくとも女子でワタシの事を正確に判断出来るやつは真衣くらいしかいない、大抵のやつはワタシを見ると遠巻きに眺める程度だからだ。
真衣はクスクスと可愛らしく笑うと、ポニテを揺らし首を傾げる。
「それで?少なくともあんたが困るような事なんて、ウチが知る限り思いあたらないけど」
確かに今まで困った事になった事など無かったような気もしないでも無いが、ワタシでも困る事はあるのだ。
ワタシは佇まいを正し、真剣な表情で真衣を見つめる。
真衣は何故かビクリと赤面すると、少しウェーブのかかった髪をいじりだす。
体温の上昇を感じる、熱でもあるのか?ならば今日はやめて・・・いや、彼女の弄る髪からはちゃんとしたシャンプーのバニラの匂いがする、熱があるなら風呂は避ける筈、問題無いだろう。
ワタシは深く息をすると真衣に片手を差し出し、出来るだけ真剣な声色で語り掛ける。
「ワタシに、女を教えて欲しい」
それは・・・はたから見るとプロポーズに見えなくもないような気がしないでもない雰囲気。
しかし真衣はあからさまに顔を顰める。
「はぁ・・・詳しく聞かせてみなさいよ・・・」
「助かる、流石は真衣だ」
本来であれば告白された!と色めきたってもおかしくない所だが、宗太に近い人間であればあるほど、彼のズレた・・・残念な所を理解してしまっているのだ。
よって、そんな勘違いが起きる事は決してない。
「実は最近我が家に従妹が来てな」
「へぇ?宗君の家に?」
「ああ、だがどうにも山奥で育ったせいか、女性としての一般常識に疎い所があるのだ」
と、いう設定でワタシは真衣に話を通す事にした。
「あー、うん、それでその子に女としての常識を教えて欲しいってことね」
真衣はハイハイ、ワカッテマシタヨーと溜息を吐いている。
多少言葉を省略はしたが、何か他の意味にとらえる事が出来ただろうか?
「でも宗君の家ってお兄さんがいたよね?大丈夫なの」
「問題無い、兄貴は部屋から出ないからな」
真衣は「それもそうか」と頬に手を当てると、目を閉じてウンウン頷く。
「わかった!それじゃあ今日の放課後にでも遊びに行っても良いかな?」
「むしろこちらから頼む」
「任せなさい!」
真衣が特盛おっぱいを叩く姿に安堵し息を吐く。
これは何かお礼をしなくてはならないな。
宗太はそう思い、話しかけられる前から気づいていた事を教えてあげる事にした。
「そういえば真衣、香水をつけるのであればもう少し遅い時間の方が良いのではないか?察するにおそらくその香水のピークタイムは今だぞ?学校で効果を発揮させるには塗るのが速すぎる」
真衣は顰めていた顔を更に歪ませ、大きなため息を吐く。
何だ?正しい情報を教えてやった筈なのにその態度は。
「あんたって・・・本当に残念よね・・・それと匂いとか絶対他の女子に言っちゃだめよ?またセクハラで警察に補導されるわよ?」
「善処しよう」
女心というのは本当にわからない物だな。
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