scene3 TS兄貴!兄心?女心?
「まったく・・・酷い物を見た」
いつの間に返ってきたのか、最後のアイテムを取りに戻った俺が元自室で見たのは、床に寝ころんだ状態で首だけ起こしあり得ない程首を回転させ、目を真っ赤に充血させた宗太(弟とは思いたくない)の姿だった。
エクソシストも可愛い物な宗太を視認し、マウスやキーボードを両手に抱え一目散に逃げて来た俺は、もう一歩も歩けないというように扉を背にへたりこむ。
あいつは頭も良いしスポーツも出来る、見た目もそこらのイケメンよりイケメンしてるのに何で彼女の一人も出来ないのだろうと不思議に思っていたが、少し納得した気分だ。
俺が女だったら間違いなく生理的に無理だ・・・いや、今は女になってしまっているのだが。
まさかあんな弱点があったとは。
俺は小さくなった自分の手を見つめながら呟く。
「でもまぁ・・・」
今まで完璧すぎる弟に劣等感しか抱いた事がなかったが、こうやって弟の奇抜な所を見れる機会を得れた事に少し感謝するべきなのかもしれないな・・・。
少し心が軽くなったのを感じながら、宗太の顔を思い浮かべ・・・。
「いや、やっぱ怖えわ」
先程の光景を思い出し、思わずまた失禁しそうになる。
なんというか・・・「決して忘れられない悪魔を見た日」、って気分だ。
そんな事を考えていると、背後の扉が軽くコンコンという音を鳴らす。
「兄貴、すまないが少し良いか?」
「・・・今顔も合わせたくないんだけど」
「それは残念だが仕方ない、お土産を買ってきたから部屋の前に置いておくぞ」
そういってガサゴソと扉の向こうに何かを置くと、わざとらしく足音を立てながら弟がリビングに向かう。
扉に耳を当て、それを確認した俺はそっと扉を開き、大量の紙袋とビニール袋を部屋にしまい込む。
「なんだなんだ、ゲームか何か買ってきてくれたのか?ふへへ、あいつもたまには良い所・・・が・・・」
そして俺は紙袋に入った大量の女性服と下着を確認して、思わず身震いする。
「いや、気持ち悪いって」
ていうかこれはもしかしなくても宗太が選んだのか?そんな物着たくないんだけど・・・。
そう思って紙袋の中身を見ていると、小さいメモを発見する。
『今回は店員の邪魔が入ってワタシが選ぶことは出来なかったが、次回はちゃんとワタシが選ぶ、期待しておいてくれ』
となるとこれは宗太の趣味ではないのか、なら一安心・・・いや、俺は男なんだぞ?体は女になろうとも心は立派な漢だ!
なんだか少し残念な気分になりながら紙袋を部屋の隅に、ビニール袋に視線を向ける。
「ほあ!?三種のチーズ牛丼じゃないか!」
俺は牛丼を天高く掲げクルクル回る。
あまりの興奮に下のスースー感を忘れる程に。
「これすっげえ美味しいんだよなぁ!」
いや、宗太の料理も一流レストラン顔負けの料理なのだが、それはそれで劣等感しか抱かないのであまりおいしく食べれないのだ。
俺はワクワクと蓋を開け、割りばしをパチンと二つに割る。
「ふふ、まさか割りばしを割れないとでも思ったか?残念ながらそこまで非力ではないぞ?」
誰に言うでもなくしたり顔で牛丼に対峙する。
「しかも特盛!やったぜ!あぁ・・・いつまででも食べてられそうな気分だ・・・」
そう思いながら一口、うまい!
正直味覚が変化してないかは不安だったがそれは杞憂だったようで。
二口、三口、幸せをかみしめながら咀嚼を続ける。
そして数分後。
「・・・うっぷ」
まだ三分の一も食べていないところで、俺は牛丼から目を離し天井を見上げる。
「胃が小さくなってるのは想定外だった」
まじか、こんなに食べれない物なのか。
いやでももったいないし・・・。
恐る恐る更に咀嚼を続けるが・・・。
「ヤバイ、胃もたれしてきた」
気持ち悪くなってきた俺は、残念に思いながらも牛丼の蓋を閉めて部屋の隅におこうとして・・・。
匂いが気になったので扉の外に置いておく。
「女の体・・・めんどくせぇ・・・」
ゴロンとカーペットに横になりダラダラと体を回転させる。
両親の部屋は夫婦で使うだけあって広い、その上今の俺は身長も低くなったのでいくらでもだらだら出来るぜ。
そう思いながら勝者の笑みを浮かべていた俺は、ふと宗太が買ってきた紙袋の存在を思い出す。
「・・・」
俺はおもむろに立ち上がると、とりあえず下着を物色。
漢としての威厳を保つ為出来れば避けたい所だが、ノーパンで過ごす訳にもいかない。
「これも・・・店員さんが選んだんだよな」
パンツは履くだけだから問題無いとして。
ブラは・・・なんかフックで止めるやつを想定していたが、普通のスポーツブラだ。
これなら問題無く着れる・・・漢として何か大事な物は失った気はするが。
「というかサイズピッタリじゃないか・・・こういうのって店に行かないとわからないもんなんじゃないのか?」
不審に思いながらもとりあえず保留に、ぴったりなんだからまぁ良いだろう。
そして問題は・・・。
「なんで全部スカート系なんだよ」
ズボン系とか色々あっただろうが!
とりあえずカッターシャツを上に着ながら、ぶつくさ文句を言いスカートを手に取る。
「・・・どうやって着るんだ?」
いや、待って欲しい、これは下から着るとお尻が引っかかるだろ?なら上か?
そう思いスカートを頭からかぶる。
「着れそうになくもないが、何かイメージと違うな・・・」
なんかズボンと同じで下から履くイメージだったんだが・・・。
俺はそう思い再びスカートをよく観察する。
「あっ!ファスナーがあるのか!」
なるほど、これで緩めて着た後に閉じる訳か!
早速実戦、うん!普通に履ける!
なんかワクワクしてきた!
俺はきゅぴんと目を見開き、部屋のスタンドガラスの前に移動する。
「お、おおおおお!」
まだ簡易な服しか着てないからあれだが、なんというかこの組み合わせは女学生ぽい!
顔の方も個人的には美少女だと思っているし、これは良いな!
思わず鏡の前でくるくる回転し・・・地面に両手をついてひれ伏す。
「何をやっているんだ俺は・・・」
俺は・・・俺は男だ・・・!漢なんだ!
決して、決して女墜ち等してたまるか!
「兎に角!まずは男の体を取り戻さなければ!」
俺は苦労して運んできたPCを起動、徹夜でネットの海をさまようのであった。
◇
後日、色々な服の組み合わせを楽しむ彼女の姿があったのは、弟しか知らない事であった。