scene2 TS兄貴!汚部屋脱出計画
「どうやら出かけるみたいだな」
カーテンを少し開き、外でストレッチをしている弟を見下ろす。
短パンにタンクトップというスポーツマンの様なコーデ、あれは長距離移動の時の選服だ。
正直今朝の事もあり、あの弟に変な事をされるんじゃないかと気が気じゃなかったので一安心。
俺はガサゴソとタンスを漁り、小学生高学年の時くらいに着ていた服を見つけ、いそいそ着替える。
それでも少し大きいので、カーテンに無駄についていたピンで軽く胴回りを調整する。
見た目は最悪だが、少なくともないよりはマシだ。
気になる事があるとすれば・・・
「少し丈が短すぎて・・・スースーする・・・」
必然的に超ミニスカのような状態となってしまった服の裾を引っ張りながら、ポツリと呟く。
しかも下着なんてフィットする物が無く履いてない状態、誰が見ている訳でもないのに恥ずかしさが込み上げてくる。
かといってこれ以上大きいサイズだと肩幅が広すぎてもはや布を巻いてるだけになってしまうのだ。
「いや、そもそも俺は男なんだ、何を恥ずかしがっているのだ!」
頬を軽く二発叩き、気合をいれる。
そして頬を押さえてうずくまる。
「思ったより痛い・・・」
肌が恐ろしい程に白いので両手を見てみると真っ赤になっている、恐らく頬も同じ状況だろう。
だが泣き言を言ってる場合ではない、今俺は最優先でやらなくてはならない事があるのだ。
それは・・・弟が出掛けている内に、この部屋を移動する事!
今まで気にもしていなかったが、体が女になったからだろうか、部屋が!物凄い!男くさい!
正直生理的に無理!というレベルでだ。
という訳で弟がいない間に、必要な物を一階の両親が使っていた部屋に移動させる作戦だ。
無駄に高スペックな弟によって、あそこは掃除が行き届いてる筈だし、何よりネット回線がある。
宗太の服装からすぐに帰ってくる事はないだろうが、急ぐに越した事はない。
俺はデスクトップパソコンを持ちやすいように縦に置き。
「ふんぬううううううううううう!」
物凄い掛け声を上げながら持ち上げる。
「ぬおおおおおおおおおおおおお!」
そのまま一歩、二歩と歩を進め、部屋の入口までついた所で、一度休憩する。
「なんて・・・なんて貧弱なボディなのだ・・・。」
元々引きこもりで体力が落ちているとはいえ、男の姿の時はこのくらい軽く持ち運べた。
なのに今ではたった少し移動するだけで大仕事だ。
正直これは宗太が帰ってくるまでにパソコン一式が運べれたら良い方なのではないか?
俺は全身から噴き出る汗を腕で拭いながら、再びパソコンを持ち上げる。
一歩、二歩、三歩、重心を使うように腕をぷるぷるさせながら運ぶ。
全身から溢れ出る汗が、床にぽたぽたと水滴を残す中、やっと階段まで辿り着いた俺の下腹部に、かつてない感覚が訪れる。
「あ、これ、やばい」
これは何と言えば良いのだろう、小学生の時にギリギリまでトイレを我慢してた時のあの・・・
俺は目を見開きパソコンをそっと床に、超がつく程の内またになりつつ、神聖なる小部屋に視線を向ける。
先程のパソコンとは違う緊張感を漂わせながら、一歩、二歩、少しづつ歩みを進める。
だが、そんな俺に容赦なく尿意が襲い掛かる。
「いつもなら・・・このくらい余裕で我慢・・・出来るのに・・・!」
女性は膀胱が小さいと言うが、まさかこれ程とは・・・!
ジワリと、股の辺りに嫌な感覚が訪れる。
「あ、あああああああ、ああああああああああああああああ!?」
◇
番組の途中ですが、現在の弟
「ふー、良い汗かいたな、やっと半分くらいか?途中道端で歩けなくなっていたご年配の方をお家に届けていたからか随分と時間がかかったな」
◇
「鬱だ・・・死のう・・・」
今しがた作り上げてしまった水たまりを雑巾で拭きながら、ブツブツと呟く。
幸いパンツをはいてなかったから廊下を拭くだけで済んでいるが、俺・・・19歳なんですよ?
光の失った目で水たまりを拭き上げ、処理した俺は沈んだ気持ちで再びパソコンの運搬に戻る。
「ここからは慎重にいかないと・・・」
今までは平たんだったからよかったが次は段差。
正直危険度はさっきとは段違いだ。
失敗したら俺の愛用PCがお釈迦になってしまう。俺は一段降りては滑らせるように一段下に、そして一段降りてはを繰り返しながら、なんとかパソコンを階段下まで運搬する事に成功する。
「よし、ここまで来ればあとはもうちょっとだ」
既に筋肉痛になりつつある腕をプルプルさせながらデスクトップに体を預け、長い溜息を吐く。
それにしても・・・。
俺は震える腕から、胸部へと視線を移動させる。
「乳首が・・・痛い・・・」
女の体ってどんだけ不便なんだよ!っと文句を言いながらも、両親の部屋に到着、少なくとも一番デカイ物の移動は終わった。
ディスプレイは薄型だからそこまでだし、後はサクサクっと運べそうだ。・・・乳首が痛いのは置いといて。
大仕事を終えたように俺は満足して、麦茶をコップに注ぎ優雅に時計を見て、すでにかなりの時間が経過している事に気が付く。
「くつろいでる場合じゃねぇ!!!」
弟が帰って来る前になんとかパソコン一式だけでも運び終えた俺は、弟が帰って来た時には満身創痍なのであった。