第十八話 TS弟!の野望その1
薄暗い部屋、怪しい煙が蔓延し淡く光るフラスコが大量に置かれた部屋の中央で、顕微鏡を覗く男が一人。
その男はいつものイケメンフェイスはどこへやら、目の下に隈を作り気持ち悪い笑みを浮かべている。
「くっくっく・・・ついに完成した」
そう言いながら男・・・宗太は一つのドロリとした液体が入ったビーカーを掲げる。
完全性転換薬、資料の解析により作り出してしまった兄貴お嫁さん計画の最終兵器。
一度はこれを飲んで自分が歌(旧名)として再臨、兄貴のお嫁さんになるのもありと思ったが、何分成長期に男として育ってしまった為、今更女に戻って兄貴に抱かれるというのも何か違う気がしたのだ。
「まぁ兄貴ならば男でも構わないがな」
ワタシは「ふっ」とイケメン特有の吐息を漏らすと、再度資料に目を通す。
正直すぐにでも兄貴にこれを飲ませ、ワタシのお嫁さんにしたい所だが、この薬にはいくつかの問題点がある。
それは服薬中に何やらおかしな力を手に入れてしまうという所、正直そんな力を手に入れた覚えは全くないが不確定要素は可能な限り潰しておきたい。
そして次に、周囲の記憶の改竄が行われる可能性が高い事、変に周りが騒ぎ立てないのだから良いではないかと思うが、ワタシにとっては男兄貴も大切な存在、その男兄貴の記憶が周りから抹消されるのは避けたい。
よって、この二つの問題点を改善しない限り今すぐに兄貴を完全なる姉貴にする事は出来ない。
だがここから先は資料にも載っていない未知の研究、慎重に事を進めなくてはならない。
「先だっては実験用のモルモットが必要だが・・・」
周りに性別を認知され、かつごく一般的な能力値を持つ人間・・・。
しかしそんなちょうど良い被検体は・・・いるではないか。
ワタシは部屋の片隅に置いてある姿見を見て不敵な笑みを浮かべると、ビーカーの中身をそのまま口に注ぎ込む。
「お?おお、おおおおおおおおおお!」
口の中に薬独特の嫌な味が広がると同時に、体に変化が訪れる。
高身長だった体は少し縮み、胸部はボンッ!と膨れ上がる、同時に六つに割れた腹筋は柔らかく、気持ちお尻が大きくなっていく。
「なるほど、もしワタシが歌として成長していたらこんな姿になっていたのだな」
宗太・・・歌は肩まで伸びた綺麗な黒髪を梳かしながら複雑な表情を浮かべる。
兄貴のかわいらしさ程ではないが、紛れもなく美少女JKといえるのであろう、だが兄貴のように幼くならないのは何故だ?・・・元々兄貴は女として育っていたら19でもあの姿だったという事か・・・?
いわゆる合法ロリというやつだろう、最近何やらバストアップの練習を始めた兄貴が絶望しないようこの事は黙っておこう。
「しかしそうなると服が無いな」
とりあえず全裸のまま適当に白衣を着る。
兎に角性転換の実験は成功だが、問題は他の二つだな。
ワタシが頭を悩ませていると、突然扉がノックされる?
誰だ?この家はワタシと兄貴の愛の巣、ただでさえ避けられてる上に、引きこもりの兄貴がワタシの部屋に来るとは思えないが・・・。
「歌ーいるかー?」
「!?」
馬鹿な、兄貴だと!?
どういう事だ!?しかもワタシの事を宗太ではなく歌と呼んでいるではないか!
これが薬の副作用の一つ・・・記憶の改竄という事か・・・。
これなら自然に実験が出来る。
ワタシは黒い笑みを浮かべながら、扉を開け放つ。
「あのさー、ここ教えて欲し・・・ってぇ!?なんつー恰好してんだよ馬鹿!」
何やら毛玉をもった兄貴はワタシの姿を見るや扉を勢いよく閉める。
「お前は女なんだから男の前でそんな恰好すんなよ!」
「兄貴も今は女だろう」
「そういう問題じゃないだろ!ったく・・・」
兄貴がぶつくさ言いながら遠のいていくのがわかる、正直今すぐ追いかけて押し倒し、欲望のままに襲いたい所だが、今は実験を優先すべきか・・・。
能力値に関しては今までと変わらない、男の時と変わらず50m先のアリくらいまでは普通に見えるし、周囲100m程度までの声は聞こえる、恐らく肉体に関しても同じような結果だろう。
「となるとまずは記憶の改竄から潰していくとしよう」
暗く怪しい部屋に、マッドな女サイエンティストの笑い声が木霊するのであった。




