scene11 TS兄貴!と厨二病
「はぁ~満腹満腹~」
お風呂でさとちゃんとキャッキャウフフを済ませた俺は、現在リビングで真衣ちゃんの夕ご飯を食べて満足そうにお腹をさすっている。
いやー、男の時は野菜より肉だろ!って思ってたけど、女になって野菜の可能性を見出したよ。
宗太はまだ俺が男の頃の感覚が抜け切れてないのか肉中心だし、今度真衣ちゃんに料理でも教えてもらおうかな。
幸せを噛みしめながらテーブルに伏せていると、俺よりかなり前に食べ終わったさとちゃんが「そういえば」と切り出す。
「もう遅いけど桜ちゃんは帰らなくて大丈夫なの?」
あっ、そうか!今日の昼に急に決めたから伝わってないのか!
「桜ちゃんは今日はお泊りよ~」
どう説明したものかとオロオロとしていると、洗い物を終えた真衣ちゃんがエプロンを外しながらニコニコと対面に座る。
うん、相変わらずデカイ・・・。
俺の視線に気づいたのか、さとちゃんがジト目で俺を見つめ、自分の胸を触りながら溜息を吐いている。
ごめんて。
「へーじゃあ姉ちゃんの部屋に泊まるの?」
「んー、最初はそう考えてたんだけどー」
真衣ちゃんは人差し指を口に当て、何かを思いついたように蠱惑的な笑みを浮かべる。
「折角仲良くなったんだから、さと君のお部屋で泊めてあげて~?」
「うぇ!?」
真衣ちゃんの唐突な申し出に、さとちゃんは目を白黒させている。
「え!?でも、あー、あーーーーー」
何やら挙動不審なさとちゃん、少し仲良くなったつもりだったけど、俺の勘違いだったのかな・・・。
自然と上目遣いになりながら、さとちゃんに視線を向ける。
「その・・・ごめんね、迷惑・・・だよね?」
「うぐ!?め、迷惑じゃあ、ない!けどちょっと待って!」
顔を少し赤く染めたさとちゃんは、急いで階段を駆け上ると、何やら2Fでドタドタという音が聞こえてくる。
そんな様子に、真衣ちゃんは「うふふ~」と笑みを浮かべている。
「その・・・大丈夫、なんですか?」
「大丈夫よ~、ウチ、二人は良いコンビになると思ってるの~」
コンビってなんだ、コンビって。
しばらくすると、2Fでドタドタ音が聞こえなくなり、真衣ちゃんのスマホがブルブル震える。
「あら~、部屋を片付けるのは諦めたのね~」
嬉しそうにスマホを弄る真衣ちゃん。
え?さとちゃんの部屋ってもしかしなくても汚部屋?
女子の部屋って、ふわふわしててほわほわなイメージがあったが、さとちゃんは男っぽいイメージだし・・・有り得るのか?
ビクビクしていると、真衣ちゃんが2Fを指さす。
「さと君の部屋は2Fの一番奥、いつでも来て良いって~」
「あ、はい」
俺はカバンを肩にかけ、恐る恐るさとちゃんの部屋の前に到着する。
閉まっている扉を前にゴクリと喉を鳴らす。
どんな汚部屋なんだろう・・・?いや、それ以前に女子の部屋って初めてだな・・・。
なんか色んな意味でドキドキしてきた。
勇気を振り絞ってドアを開け放ち部屋の中に視線を向ける。
「あれ?」
特段汚い訳でもなく綺麗に整った和室、少なくとも汚部屋って訳じゃなさそうだけど・・・。
しかし俺は部屋の中央まで来て違和感に気が付く。
机の上には黒魔術なんちゃらという本、部屋の隅には謎の模造刀、挙句の果てには掛け軸まで飾ってある。
あ、あー・・・これはまさか。
何か納得している俺の背後で、バタンと扉が閉まる音が鳴り響く。
何事かと振り返ると、なんかもうゴスゴスな服に眼帯、そして腰に刀をぶら下げたさとちゃんの姿。
「よくぞ来た招かれざる者よ、我が名はサトゥー!この部屋の主にして深淵に潜みし者!」
俺はポカーンとさとちゃん、改めサトゥーに視線を向ける。
これは厨二病・・・患ってますわ・・・。
あまりの衝撃にガン見していたせいか、サトゥーの顔が徐々に赤く、ぷるぷる震え出す。
あ、まずい、まだ初期段階なのか恥ずかしさに耐え切れなくなってる。
ここは・・・。
「ふっ、まさかこんな所であの深淵のサトゥーに出会うとはな・・・」
とりあえずいたたまれないので乗ってあげる事にした。
するとさとちゃんはポカンと呆気にとられた表情を浮かべると、何やら目をキラキラさせペカーッと笑顔を浮かべる。
「お、お、お主は中々話がわかるようだな!特別に今日は我が部屋で休むことを許そう!」
うお!眩し!
まさかそこまで喜ばれるとは思わなかった。
恐らく普通の女子がこっち方面の厨二病を発症する事は滅多にないんだろうな・・・。
元男だからそっち方面の理解は深くて助かった。
「あはは、流石に部屋を片付ける時間が無くてさ!もういっそ引かれるの覚悟で暴露しちゃえー!って感じだったんだけど、よかったー」
さとちゃんは嬉しそうに眼帯を外すと、せっせと布団と寝巻の準備をしだす。
あ、流石にその恰好のまま寝る訳ではないのか。
とりあえず俺もさとちゃんに続いて寝巻に着替えていると、視線を感じる。
「あの・・・さとちゃん?」
「桜ちゃんって、大人っぽい寝巻なんだね」
「ふぁ!?」
俺が現在着ているのは簡素なワンピース型のネグリジェなんだが・・・。
そもそも女子の寝巻ってどんなのか知らんから普通に宗太から渡されたの着てた。
ジーっとこっちを見るさとちゃんを、今度は俺がジーっと見返す。
ああ!中学生だと寝巻に関しては女子も男子も左程変わらないのか!
納得したように首を縦に振る。
「いやー、俺寝巻ってこれしかなくてさー、やっぱそっちの方が安心するよねー」
「それしかないの!?」
何か驚かれてしまった。
さとちゃんは何か考えるように両手を組んで首を傾げると、タンスの中を漁り出す。
「よ、良かったらこれあげる」
「え?良いの?」
そう手渡されたのは、さとちゃんが着ている寝巻と全く同じ寝巻。
このワンピ型はワンピ型で、スースー開放感がパナいからお気に入りではあったが・・・。
着替え直してなんだかホッと一息、やっぱ寝巻はこっちの方が落ち着くな!
そしてJCの寝巻ゲットだぜ!・・・じゃなくて!
俺は邪な思考をブンブンと振り落とす。
「ありがとうさとちゃん!へへ、お揃いだね」
「お、おそろ!?」
今更になって気づいたのか、さとちゃんの顔が真っ赤に染まる。
全く、見ていて飽きない子だ。
俺がニヨニヨしていると、階下から真衣ちゃんの声が聞こえてくる。
『二人とも~あんまり夜更かししちゃだめよ~』
「「は~い!」」
俺とさとちゃんは再び二人で笑い合い、他愛もない話をしながら眠りにつくのであった。
なんか百合百合してきてしまった。
まぁシリアスよりこっちが執筆したかったから良いんだけどね!




