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TS兄貴!  作者: ヒロメル
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scene1 TS兄貴!息子消失事件

 見慣れた天井。

 俺はまだ覚め切っていない瞼を擦りながら、閉ざしたカーテンの隙間から外を見やる。

 外ではちょうど通学時間なのだろう、大小様々な女子が登校しているのが目に見える。


「フヒヒ、これがあるから早起きはやめれねぇんだよな」


 通学時間に起きてる時点で早起きという訳ではないが、それはそれだ。

 眼福眼福、と言葉にしようとした所で、何か違和感を感じる。

 いつもなら通学中の女子ソムリエをする所だが・・・なんだかそんな気分にならないのだ。


「熱でもあるのかな、声の調子もいつもと違うし・・・?」


 カーテンを閉め、ベッドから起き上がる。

 そろそろ弟の宗太が朝食を作ってる頃だろう、いつもより少し早いがリビングまで取りに行こう。


 そんな事を考えながらベッドからジャンプ、シャツの裾を踏み顔面から盛大にコケる。


「いってぇぇぇぇぇ!」


 しばらく顔を抑えながら転がり回っていると、ズボンやらトランクスがスポスポ脱げていく。

 どうにも昨日寝た時よりサイズが大きいような・・・というか俺が痩せた?

 そう思いながら天井を見て瞑目。

 

 そういえば昨日からダイエットサプリを使い始めたんだっけか。


「ほほう、アマゾンで買ったダイエットサプリ、効果抜群じゃないか!」


 俺は嬉々として立ち上がり、改めて自分の体を確認する。


「・・・あれぇ?」


 そこで何かがおかしい事に気が付く。

 少し気になってたお腹周りは・・・うん、見事にへっこんでるだが・・・。


 お腹をさわさわ、そのまま手を少し上に持っていく。

 もみもみもみもみ


「ふむ、大きくもなく小さくもない、見事なおっぱいだな86点」


 内から溢れ出る汗を隠すように、深呼吸を一つ。

 スタンドガラス・・・なんて洒落た物はないので、電源の切れたPCモニタに自分の顔を映し出す。


「うお!なんという美少女!」


 モニタに映る美少女に驚愕の表情を浮かべながら自分の頬をつまむ。

 なるほど、俺と同じ動きをするし痛みもある、つまり夢じゃない。


「ほああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 次の瞬間、自分でも驚く程の叫び声を上げていた。

 そして叫び声が収まると同時に部屋の扉が蹴破られ、更に硬直する。


 扉を蹴破って入って来たのは、我が弟宗太。

 頭脳明晰、容姿端麗、スポーツ万能、完全無欠の弟が伊達眼鏡を上げながらこっちを見ている。


「そ、そうた・・・あの、その」


 何を言えば良いかわからずしどろもどろになっていると、宗太が待てといったように手のひらを向けて来る。

 頭の回転の速い弟の事だから、もしかしたら事態を察してくれるかも?

 そんな淡い期待を求めながら、見られていると何故か少し恥ずかしい気持ちになり、必死にお気に入りのシャツで体を隠す。


 そんな俺を容赦無く宗太は見つめると、ボソボソと何かの数字を呟く。

 そして俺のお気にいりシャツを食い入るように見ると、鼻をスンスンならしながら本棚に視線を移す。


『やべ!そういえばこの前少女監禁物のエロ本買ったばっかじゃん!』


 バレては無い筈だが、俺は心の中で悲鳴をあげながら成り行きを見守る。

 尚もボソボソと何か呟いていた宗太は、ふと何かに気が付いたように口を開く。


「まさか兄貴か?」


 え?気づいてくれるのに期待はしてたけど、実際そんな非日常的現象を言い当てられると気持ち悪い。

 若干引きながら首を縦に振ると、宗太は天井を仰ぐ。


「そうか・・・兄貴は・・・姉貴だったのか」

「なわけあるかー!」


 思わず宗太が修学旅行のお土産で買ってきてくれたハリセンではたきつけてしまう。


「しかし実際ワタシの目測では、おおよそ男とは思えない体つきをしているぞ」

「へ?っは!」


 今の体格にしては大きすぎるシャツのせいで、もう何から何まで見えそうな状況だった事に気が付き、俺は慌てて体を隠す。

 顔が物凄く熱い、何でだ?確かに普段から肌を見せるのは好きじゃないが、今まで以上に羞恥の感情が芽生えている。

 まるで・・・本当の女子みたいな・・・。


 困惑しながらも、宗太から目を逸らし、モニタに映る自分の姿を眺める。


「それは・・・俺もよくわからないけど・・・」

「よくわからないで胸が増幅し、かつ背が縮んだと?」


 自分で言ってて意味不明なのはわかってるが、何か問い詰められているようで怖くなってきた。


「・・・そうだよ」


 俺が拗ねたように呟くと、宗太はアゴをさすりながらふと動きを止める。


「いや待て、兄貴はそもそも本当に兄貴なのか?」

「え?は?それは今お前が言った通り・・・」


 こいつさっき自分で俺の正体に気付いたのに・・・もしかして今頃になって不審に思いだしたのか?

 やばい、このまま見ず知らずの子認定されたら俺どうなるの?

 証明できる物もないし、少年院?刑務所?どちらにせよどこかに連れていかれる?


 顔から血の気がひいていくのを感じながら震えていると、宗太はそうではないと首を横に振る。


「いや、そうではない、生えているのかどうかだ」

「はえ・・・て?」


 一瞬何を言ってるのかがわからなかったが、何を言っているのかすぐに気づいた俺は、腰の愛刀を探すように手でまさぐり・・・。


「・・・ない」


 我が人生、ずっと共に過ごしてきた戦友が、息子が、恋人が、いなくなってしまっている。

 見事なつるつるのすべすべである


 本日何度目かのショッキングな出来事に目を白黒させていると、宗太が目をギラつかせる。


「よし兄貴、ワタシにも見せてくれ」

「ほあ!?」


 何言ってるんだこいつ!?

 身長が俺よりもかなり高くなった宗太を見上げる。


「これからワタシが兄貴を兄貴と呼べば良いのか、姉貴と呼べば良いのか重大な所なんだ」

「へあ!?」


 え!?そこ大事な所なの!?

 だが宗太の目は本気の本気、ここだけは譲れないといった様子。


 俺は宗太の勢いに飲まれ、Tシャツの裾を掴み・・・。

 宗太の聖剣が天高くそびえ立っている事に気が付く。

 こ・・・こいつ!


「で、でてけー!!!」

「っち!」


 再度ハリセンを振り上げると、舌打ちする宗太を部屋の外に追いやり、何か言おうとしているのを無視して問答無用で扉を閉める。


 まずは施錠!次に南京錠!その次にパスワード式の鍵に!

 最近アマゾンで買い漁りまくったありとあらゆる鍵を掛ける。


 あいつはどうやってるのか知らないが、多少の鍵なら簡単に開錠してしまうのだ。

 どうやっても開錠してくるので、最近は諦めてリビングまではご飯を取りに行くようにはしているが・・・今回は別だ!


 俺は威嚇するように扉にフーフー言うと、足音が遠ざかっていくのを確認。

 溜息を吐きながら、モニタに映る自分の姿を見る。


「何がどうなってるんだよぅ・・・」




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