scene7 TS兄貴!課金欲に屈する
課金。
それはオンゲ、ソシャゲをするにあたって避けては通れない道。
期間限定ガチャ。
その名の通り、期間限定でのみ回せる特別なガチャ。
ゲームにもよるが、大抵はレア物だったり、超強力なアイテムが実装される。
俺はそんな超ツエー装備のラインナップを見ながら溜息を吐くと、オンラインゲームの広告を閉じる。
「はいはい、無課金ゲーマーの俺には関係無いアイテムですよーだ」
顔晒し事件以降、何故か色んなアイテムを貢がれる事が多くなった俺だが、今やっているゲームでは課金アイテムのトレードは出来ない、そして俺は引きこもり、特にお小遣いとかも貰ってないし、そもそも外に買いに行くのが嫌だ。
例え他のギルメンが「何々当てた~」とか「これで姫を守るぞー!」とか言うのをうらやましく思ったり等断じてしない。
無課金廃人ゲーマには無課金廃人ゲーマーの意地がある、それゆえに中堅所に収まっている俺には無縁のアイテムだ。
・・・と、思っていた時期が俺にもありました。
現在俺は震える手で諭吉三枚を手にしている。
本来であればゲームにお金なんてとんでもないという宗太だが、今回は俺が自分で買いに行く事を条件に特別に恵んでくれたのだ。
宗太の思惑はわかる、どうせ俺の引きこもりを治そうとかそんな魂胆だろう。
正直思い通りに動かされるのは癪だし、引きこもりには引きこもりのプライドという物がある。
だが一度くらいはガチャを回してみたい・・・しかも仮にハズレを引いても、今回は天井分の課金が出来る・・・。
「っく!例え課金欲に屈したとしても・・・心まで屈したわけじゃないからな・・・!」
誰に言うでもなく俺は一人部屋で叫ぶと、ポケットに諭吉をつっこみ部屋の扉を開け放つ。
俺の心は今まさに戦場に向かうかの如く燃え滾っている、誰にも止める事は出来ない!
「いってくる!」
「まぁ待て兄貴」
しかし意気込んで走り出そうとした所を、宗太に首根っこ掴まれ捕獲されてしまう。
「な、なんだ宗太!?邪魔をするな!」
宗太はヤレヤレと首を横に振ると、色々と小道具を取り出す。
「まさかポケットにいれたまま行く気か?せめてこれを使え」
そう言いながら取り出されたのは、子供用の可愛らしいデザインが入った財布。
こいつは俺をなんだと思ってるんだ?
「あとはこれも履いていきなさい」
そう言ってとりだしたのは・・・女物のタイツ。
こいつ・・・いつの間にそんな物まで買って来たんだ。
ゲンナリとした表情で宗太を見上げる。
「そんなの履かなくたって別にそのままで良いだろ?」
「馬鹿をいうな!兄貴のような可愛い女子が太ももを晒していたら、攫われてしまうに決まっているだろう!良くて痴漢に会うぞ!」
んな馬鹿な・・・。
確かに女子観察をしていた俺から見ても平均よりは上だと思うが、それでも俺の心の奥から溢れ出る漢気オーラは隠れていない、それが原因かは知らんが、現に一度も自分で興奮した事などない。
だがまぁ宗太の顔が怖いし言う事を聞いておこう。
俺は手渡されたタイツを吐こうとソファにもたれかかり・・・。
「おい宗太、向こう向けよ」
「何を馬鹿な、もし兄貴が履かずに行ったら大変だからな」
「いや、んなもん履いた後に見れば良いだろ?なんで履く瞬間を食い入るように見てるんだよ、良いから向こう向いてろ」
「断る、兄貴は何を恥ずかしがっているんだ?昔はよく見せ合いっこしてたじゃないか?」
諭すように、優しい目を向けて来る宗太。
しかしその目の奥には怪しい光が見え隠れしている。
その光を見て、俺の女の勘が警報を鳴らしている・・・いや、男の勘だ、男の勘。
俺はタイツを持ったままスッと立ち上がると、無言で自室に入り、履いてからリビングに舞い戻る。
「・・・何故だ兄貴」
何か相当悔しそうな顔をする宗太を尻目に、俺は玄関に向かう。
しかしふむふむ、フィット感には慣れないが、これならスカートでもすーすーする事は無さそうだ。
まぁ若干、外での爽快感がどんな物か味わえないのは残念ではあるが。
「というか履ける靴が無いぞ」
俺が何年引きこもってたと思うんだ?そもそも男だった頃のはサイズがデカすぎるし。
「そんな事もあろうかとブーツも買っておいた」
宗太がそう言いながら靴箱を開くと、これまたサイズがぴったりそうなブーツ。
準備良すぎだろ・・・どんだけ入念に準備してたんだよ。
とりあえず玄関に座り込み、ブーツに手を伸ばすが・・・。
「え?何これ?すげー履きづらいんだけど?」
「そうなのか?」
興味深げに俺を見下ろしていた宗太が、何かを思いついたかのように手を叩くと、俺の前にかがみこみ・・・。
「どれ、ワタシが履かせてやろう」
「どんだけマニアックな趣味なんだよ!!」
俺は宗太の息子を蹴り上げ、悶絶している変態を無視してなんとか履き終える。
「じゃあ行ってくるけど・・・はぁ、大丈夫かなぁ」
「安心しろ、兄貴に何かあればすぐに駆け付ける」
こいつ何かと忙しいとかいう建前忘れてないか?
「というかもし宗太がついてきてるのを確認したら俺は即部屋に戻るからな?」
「そんな・・・なぜだ兄貴!?」
俺は背後で男泣きする宗太を無視して扉に手をかける。
この前だって、真衣ちゃんを見送る為に門前までは出れたんだ・・・大丈夫、大丈夫。
深く深呼吸をして、扉を強く押す。
「俺の戦いは・・・ここからだ!」
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