第一話 TS兄貴!少女と化した兄貴
突然だがワタシには引きこもりの兄貴がいる。
中肉中背の19歳、身長は173cm、髪はボサボサの黒、趣味はネットサーフィンと登校中の女学生観察。
高校1年の時から続く引きこもり生活の中、両親は精神を病み別居。
辛抱強くワタシが世話をし続けた結果、ここ最近では部屋とリビングだけは行き来するようになった兄貴なのだが・・・。
早朝、兄貴の部屋から聞こえてき甲高い悲鳴を聞きつけ、ワタシは急ぎ兄貴の部屋を蹴破る。
そして、部屋の隅でうずくまる少女を見て眼鏡をクイッと上げる。
「そ、そうた・・・あの、その」
ぶかぶかのシャツで体を隠し、オロオロする少女に少し待てと言わんばかりに手の平を向ける。
まずは視認できる情報から確認しよう。
シャツ越しかつうずくまっているので詳しい情報はわかりづらいが、身長は141、上から73.52.74、体重は35といった所か?
少し幼い顔に腰まで伸びたツヤツヤの髪。
部屋の中にはそんな少女一人、兄貴はどこだ?いや・・・
少女が着ているぶかぶかのシャツは兄貴がよく来ている、〖アイアムニート〗と書かれた糞ダサTシャツ。
ズボンやそこらは地面に落ちてしまっている。
ワタシは更に視線を兄貴の本棚に向ける。
巧妙に隠してはいるが、少し前に少女監禁物のエロ本を通販で買っているのは知っているし、兄貴のエロ本の60%はそっち系だ。
「となると・・・」
ワタシは未だオロオロし、言われるがままに押し黙る少女に視線を向ける。
1、兄貴がどこかの少女を拉致し、監禁し始めた。
2、兄貴はいつの間にか整形手術を行っていた。
3、いつのまにか少女が部屋に上がり込んでいた。
4、そもそも兄貴はワタシの空想上の存在だった。
まず第1、そもそも兄貴は外に出る事すら出来ない、よって不可能だ。
次に第2も同じ理由で否定。
第3に関しては有力候補だが、そもそも家に見知らぬ人間が入ろうものなら、ワタシの部屋の監視モニターがとらえている、よって否定。
第4に関してもかなり有力候補だ、最近は勉強のしすぎで疲れていたし、空想上の兄貴を作りだしていた可能性はある。
だが・・・さっきこの子はワタシをみてなんと言った?
そうた・・・このワタシの名前、宗太と口にした。
距離があるから詳しくはにおえないが、あのクソダボシャツからは兄貴特有の匂いがまだこびりついている、少女からは少し甘い匂いが感じられるが、今の今まで着ていたといった感じだ。
それに長年世話をして来たワタシだからわかる第六感的な物が、ワタシの口を勝手に動かす。
「まさか兄貴か?」
少女は少し驚いたように目を見開くと、コクコク首を縦に振る。
その反応を見て、ワタシは天を仰ぐ。
「そうか・・・兄貴は・・・姉貴だったのか」
「なわけあるかー!」
ここに来て我に返ったのか、少女(兄貴)から修学旅行土産のハリセンではたかれる。
「しかし実際ワタシの目測では、おおよそ男とは思えない体つきをしているぞ」
「へ?っは!」
兄貴は急に動いたせいで少しズレたクソダボTの合間から双丘が見えそうになってるのに気づき、裾を抑え赤面しながら恨みがましい目を向けて来る。
胸を見られたぐらいで・・・とも思ったが、よくよく考えたら兄貴だった時から肌をあまり見せようとしなかったな。
「それは・・・俺もよくわからないけどさ・・・」
兄貴はPCのモニタに映る自分の姿を見て、恥ずかしそうに身を縮める。
「よくわからないで胸が増幅し、かつ背が縮んだと?」
「・・・そうだよ」
なるほど、ワタシが昨日部屋越しに確認したバイタル上問題は見受けられなかったが・・・。
「いや待て、兄貴はそもそも本当に兄貴なのか?」
「え?は?それは今お前が言った通り・・・」
兄貴が眉をひそめ、怪訝そうに、不安そうにワタシを見上げる。
「いや、そうではない、生えているのかどうかだ」
「はえ・・・て?」
ポカンとした表情を浮かべていた兄貴は、ふと何かに気付いたように自分の股の間に手を滑り込ませる。
そして、白を通り過ぎた青い顔で呟く。
「・・・ない」
やはり無いのか・・・本当に?
ワタシはしばし逡巡し、兄貴の下腹部を注視する。
いくらT大入学間違いなしと言われるワタシでも、万能ではない。
実際に見た事がない物は、わからないのだ。
「よし兄貴、ワタシにも見せてくれ」
「ほあ!?」
兄貴は何言ってるんだこいつ!?という表情で俺を見上げる。
「これからワタシが兄貴を兄貴と呼べば良いのか、姉貴と呼べば良いのか重大な所なんだ」
「へあ!?」
ワタシは勢いに任せ兄貴の前でしゃがむ、未知の事象にいささ興奮している為か、腰の聖剣が邪魔だが致し方ない。
兄貴はワタシの勢いに押され、おずおずとクソダボTをたくし上げようとして・・・。
ふと我に返ったように再びハリセンを構える。
「で、でてけー!!!」
「っち!」
兄貴の貧弱タックルを受けても、正直まったく押される気はしないがここは大人しく引き下がろう。
ワタシは押されてるふりをしつつ廊下までムーンウォークするように後退し、兄貴をみおろ・・・。
「ふむ」
そうとした所で、バタンと扉が勢いよく閉じ、何重にも鍵やセキュリティがかけられる音が聞こえてくる。
この程度の開錠なら造作も無いが・・・。
「兄貴・・・いや、姉貴も今は気が動転しているだろう、少し様子を見てみるか」
ワタシはこれからの事を考えながら、自室に戻るのであった。