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踊る騎士団~騎士団長はツライよ~  作者: 東野 千介
第一章 はじまりのとき
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血筋

「エイリア様。これからどうされるおつもりですか」


 終わっていなかった。


エイリアが執務室から出ようとしていたら、現在唯一のエイリアが心許せる臣下といえるサスケが全く音を立てずに近づいてくる。


そんな歩き方をするときは表のサスケではなく裏のサスケとして現れた事を示している。


 しかたなくエイリアは執務室に戻ってサスケの話を聞く。


 サスケはクーと同い年で、女の子でもあり、幼い頃は自らの妹のように育っていたため、エイリアは臣下としては扱いたくはないのだがサスケ本人はエイリアを無二の主君として仰いでいる。


 エイリアはサスケには普通の貴族の女子としての教育を受けさせて、いずれは自分の養子(養子にするには年齢が近すぎるが)としてしかるべき貴族の家に嫁がせようと思っていたのだが、サスケは頑としてきかない。


 そしてそんな時にサスケが言うのはいつも同じセリフだ。


 「私の一族は代々エイリア様の家にお仕えしてまいりました。そしてエイリア様にお仕えするのが私の幸せなのです。私の生きる目的なのです。お願いします、私の生きる希望を奪わないで下さい。もし、私が無能で役立たずのためにどうしても臣下をやめろとおっしゃるのでしたら、どうかこの場で私を成敗して下さい。そうです、足手まといなら、必要ないならそうおっしゃってください。そうして私の幸せをせめて御自らの手で消し去って下さい。この首を切り落としてください。お願いいたします」


 と背をむけて膝まずいて、さあ、どうぞ。斬ってくださいと言わんばかりに髪を掻き分けてその白いうなじを出して頭をたれるのだ。

 これにはエイリアも辟易して、「わかったよ。好きにするがいい」とサスケの思うようにさせているのだ。


 しかし、仮にも騎士団長の身分にある者に信用できる臣下がサスケ一人しかいない事態は異常だといっていい。


リサリア王国の場合、成り上がり者でもなければ騎士団長クラスの上位貴族なら少なくとも100人単位で先祖代々の臣下を持っている者ばかりだ。貴族直属の臣下は王にとっては陪臣で、彼らは王の命令よりも自らの主である貴族の命令を優先する義務がある。

これは建前で、実際にはいざとなったら直属の貴族よりも王の命令を重視する騎士も存在するだろうが直属の臣下が多い貴族はそれだけで王国内の発言権が大きい。

そして上位貴族だけでなく、王もまた直属の臣下を持っている。もちろんその数はどの貴族よりも多い。


しかし、エイリアの場合は第二近衛騎士団の団長という重職にあるもかかわらずその配下の者にエイリア直属の者は一人もいなくて、全て王から与力としてつけられた者ばかりだ。しかもエイリアの血筋は成り上がりには程遠い。(何しろ王位継承権を持とうというくらいだ)


なぜこのような事態なっているのか、ここでクー姫やレスタークス王子が言っているエイリアの〔本来の身分〕について説明なくてはいけない。


エイリアの現在の身分は階位なしの状態だ。普通、階位なしの状態といえば最低の階位である十三階位ですら持たない平民、もしくは階位を超越した位置にいる王族もしくは王位継承権を持つ公爵だが、今のエイリアはどちらでもない。あえて言うなら〔王族扱い〕の公爵だろうか。エイリアがこんな中途半端な位置に置かれているには理由がある。

それを語るにはエイリアの父親の話をしなくてはいけない。


エイリアの父親はリサリア王国の南部にある小さな村の魔法医師だった。腕のいい魔法医師で遠くの村から患者が来る事もあったらしい。らしいというのはエイリアが物心ついた頃には父親は亡くなっていてエイリア自身は父親の事をよく覚えていないのだ。

おだやかな性格で村の人々に慕われていた。そんな父親が好きだったのはかすかに覚えている程度だ。


エイリアの父親がただの魔法医だったら問題はなかった。おそらくエイリアもそのまま平民として普通に、いや、エイリアの才からいってどのような道に進んでもそれなりの人物になっただろうが、リサリア王家とは無縁の者として生きただろう。


 しかし、エイリアの父親はただの魔法医ではなくもともとはリサリア王国の先代の王の一粒種であり、かつての第一王位継承者だったのだ。

それはまだ最後の正統なる皇帝が存命していた時代、エイリアの父親は帝国各地が乱れていた事を嘆いていた先代のリサリア王(エイリアの祖父)の命を受けて皇帝のために幾度か戦い、そして勝った。


 病弱だったため前線に出ることはすくなかったが、戦術で敵を翻弄し、撃破していた。英雄と言うほど勇猛でもなく、神算鬼謀というほど巧みな戦術ではなかったが、手堅く我慢強い戦いをして決して負けなかった。


 国民は皆、この王子に満足していた。必ず戦いに勝つ者よりも絶対に負けない者の方が王としては望ましい。勝つ王は勝つ事に夢中になってしまい、戦いをし続ける。それは国民にとっては嬉しい事ではないのだ。


 なにより内政の手腕がすばらしく、戦って領土を大きく広げているわけでもないのにリサリア王国は成長していた。


だからこの負けない王子が国を継げばリサリア王国が急激に繁栄することはなくとも衰退する事は絶対にないだろうと思っていたのだ。


しかし、彼はそんな期待を裏切ってしまう。ある時平民の娘に恋をして、かけおちしてしまったのだ。王はただひとりの子であり優秀な能力をもっていたので、その王子に期待し、溺愛していたが、それだけに裏切られた時の怒りも大きく、激怒した王は王子の王位継承権を剥奪した上で勘当してしまい、リサリア二大公爵家の一つ、黒眼の公爵家の第一公子で当時から俊才の名が高かったドゥーカスを養子にして王位を継がせたのだ。


 一方、勘当された王子は平民としてリサリア王国の一地方に住み、そしてその王子とかけおちした娘から生まれたのがエイリアだ。


 つまり、エイリアは平民の血が入っているとはいえ本来ならこのリサリア王国の王たる者の血筋なのだ。それはこの大陸には珍しい黒髪黒眼の男性である事からもわかる。

 皇帝の血を受け継ぐリサリア代々の王は、皇帝がそうであったように黒髪黒眼なのだ。

現在二つある公爵家はその黒髪黒眼のうち黒髪を受け継いだ黒髪の公爵家と黒眼を受け継いだ黒眼の公爵家(ドゥーカス王の弟が継いでいる)に分かれているが本当なら眼も髪も黒い者こそが真のリサリア王なのだ。

 そして現在偽帝と世間で言われている第14代皇帝は黒髪ではあるが、眼が翡翠の色をしているために皇帝の証を半分しかもっていない、すなわちニセモノの皇帝であると言われているのだ。


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