揺れない心
エイリアはその様子を見てさらに続けた。
「心配しなくてもリサリアで〔ケットの炎〕の事を知っているものなんてほとんどいない。レナがレスタークス殿下にこれを渡さなくても不審に思うことはないよ」
「そういう問題ではない。どうしても渡してもらえないのならそれなりの覚悟をしてもらおう」
エイリアの弁解など関係なしにカルマは〔ケットの炎〕の始末をするだけを考えている。
―かたくなだな。いい騎士だ。
エイリアはカルマの頑固な態度に好感を覚えるが、だからといって〔ケットの炎〕を渡す気にはならない。
「私を殺してでも奪うかい。だけど、ケットの騎士である君にはそれはできないよね。
君達がリサリアの騎士や村人を殺さなかったのは君達の素性が発覚した時に大きな問題になるのを防ぐためだ。
王女との婚約がととのっている国ともめ事を起こすわけにはいかないからね。
しかし、盗賊のまね事をするなら騎士や村人を殺すべきだったな。
事が発覚した時のことを考えて行動するなんて現実的じゃない。
こんなくだらない事で人死にを出したくないという考えには共感できるけど、実際にこういう行動をするのはまるでおとぎ話だな。やるなら徹底的にやるべきだった」
エイリアの言う通りでリサリア王国の高官であるエイリアをケット王国の騎士であるカルマは殺す事ができない。もし、そんな事が発覚したらそれこそレナ王女とレスタークスの婚約は破談になりかねない。
このように相手を貶めるような言い方をする事はエイリアには珍しいが、さらにカルマを追い詰めるような事を言う。
「決定的なことを言わせてもらうと、我らが陛下は君達の目的はわからなかったみたいだけど、その素性にはある程度は気付いていたようだよ。だからこそ君達が傷つける事のできないリサリアの上位貴族である〔踊る騎士団〕を派遣したのさ。
そのことからもわかるようにリサリア側も今回の件は大きな騒ぎにしたくないんだよ。このまま大人しく帰るのが得策なんじゃないかな」
―そして第二近衛騎士団が派遣されたもう一つの理由は私を王子の結婚式に出席させないためだな。まあ、間に合いそうだが。
エイリアはそう感づいていたがそれは言わなかった。
リサリア王がすでに盗賊団の正体に感づいているという事実はカルマを立ち去らせるには十分な理由だ。
エイリアはカルマの反応を見るが両目を閉じているようなそ細い目からはあせりは見えない。
「このまま大人しく帰ったとして、私の部下たちはどうなる」
カルマの静かな問いにエイリアは、
―心変わりしてくれたかな。
と期待するがカルマの声が和らいでいない事に気付いて考え直す。
―とりあえず部下の安否を確認しておこうってことか。今度は優しくしてみるかな。
「普通の盗賊なら縛り首だけど、今回は人的被害がないし、陛下からも出来るだけ生かして捕らえるように内命があったからおそらく国外追放処分かな。王子の結婚の恩赦もあるし、ケット王国方面に放たれるだろう」
とエイリアはことさら明るい声で言う。
「そうか。それはよかった」
そう言うカルマの声はさほど嬉しそうではない。
―やっぱり、いい騎士だね。ぶれない。
エイリアはため息をつく。
カルマは〔ケットの炎〕の奪取という任務以外の全てを捨ててここに来ている。部下の事も捨てて来ているのでエイリアの揺さぶりにも大きな感情の乱れはない。




