譲れないもの
「ところでその性格的にも女性の事ばかり考えている騎士団の団長さんも誰かに付文しているのかしら?あ、答えないのはダメよ。作戦中はなんでも答えてくれるって約束したのは覚えているでしょう」
急に話題をエイリアにふってくるフラハに、
「なんだ?リンクス物語の取材か?この際だから言っておくが、私は誰とも結婚しないつもり、いや、誰とも結婚できないだろう。してくれる相手がいない」
エイリアは伏し目がちに答える。
「どうして?エイリアはもてるでしょう。『王宮で抱かれたい男ナンバー1』なのよ。全然説得力がないわ」
フラハは口を尖らせて反論するが
「だけどそれは『王宮で結婚したい男』じゃないだろう?それでやったらたぶん私はランク外だよ」
「そんなことないわよ」
「そうかな?冷静に考えれば本気で私と結婚したいなんて考える者はすくないんじゃないかな。仮に本人がその気になっても親が止めるさ。娘が不幸になるのをむざむざと見過ごす親がいるはずがないからな」
「どうしてエイリアと結婚すると不幸になるのよ。そう思う理由を言ってもらいたいわね」
フラハはメモ帳にペンを走らせながら追求してくる。
「私たち貴族の結婚には少なからず政治が関わってくるだろ。それが問題なんだ。私と娘が結婚したら現王派の連中ににらまれるからな。まともな政治ができる貴族ならまず私を避けるはずだよ」
エイリアはたんたんと言っているがその内容にフラハは息をのむ。
「・・・エイリアはリサリア王になるつもりなの」
「まさか。そんな事は思った事もないよ。だが、私がそう思わなくても私がリサリア王の座を狙っていると考えている貴族は多い。また、この黒髪黒眼の姿から私をリサリア王にしようと画策している貴族もいる。少なくともリサリアの貴族で私の血筋をまったく意識しない者はいないよ」
「そうかしら。うちのお父様はそういう事を気にしないと思うわ。なんなら私がエイリアをもらってあげようか?」
冗談ぽく言うフラハにエイリアは真面目に受け答えする。
「リント卿だって考えているさ。事実、以前君が言っていたお見合い相手に私には声がかからなかったからね。恋愛感情はともかくとして、君が親しくしていて身分も釣り合う年頃の男なのに話すらないのは変だろう?」
これはエイリアの言うとおりだとフラハも思う。貴族の結婚はほとんどが政略結婚だったのは昔の話でリサリア国内ではそれなりに身分釣り合っていれば後は当人同士の意志を尊重する傾向が出てきている。
エイリアとフラハの仲がよいのはフラハの父親も知っているし、その上王家の血を引く男なのだから当然娘の結婚相手として考えるのが普通だろう。それをしていないのはやはりフラハの父親もエイリアの血筋に思うところがあるのだろう。
フラハはなんだか悲しくなってしまった。自分の小説の中の自由気ままなリンクスと違いすぎるエイリアの不自由な境遇に涙が出そうになってしまったのだ。
「それじゃあ、エイリアは一生結婚しないつもり?自分の結婚が国を乱す可能性があるから、だから結婚しないっておかしいよ。そんなの物分りがよすぎるよ。エイリアはそうやって国のためになにもかもあきらめて捨てていくつもりなの?それでいいの?」
エイリアと話す時はいつも斜めに構えているフラハが必死の表情だ。他人の事でここまで必死なフラハは珍しいなとエイリアは思う。
だから、ちゃかすことなく正直に答えることにした。
「なにもかも捨てていくつもりはないよ。私にだって譲れないものくらいあるさ。ただ、私には父が国を捨てた事に対する責任がある。その責任を果たすためにあきらめないといけない事はあるし、それは一生私について回ると思っているんだ。この答えで納得してくれないかな」
何もかもをあきらめたわけじゃない。譲れないものもある。そういうエイリアの言葉には嘘はないようだった。
フラハはエイリアにその〔譲れないもの〕がなんなのか聞きたかったが、やめておいた。
なんでも答えてもらう約束をしているので聞きたい事はきけばいいのだが、フラハはなんでも答えてもらう約束をしているからこそ聞けなかったのだ。
いろいろな物をあきらめているエイリアが〔譲れないもの〕をそんな簡単に聞いてはいけないと思ったのだ。
フラハはそのかわり別の事を言った。
「エイリア、一つ訂正しておくわ。親達の思惑はどうあれ、うちの王宮の令嬢たちに結婚したくないと思っている相手に抱かれたいとは思うほど節操がない者はいないわ。そこはわかっていてね」
フラハは取材としてではなく、友としての言葉でエイリアに語りかけたのだった。




