ユニ
この日は第二近衛騎士団にとって初めての実戦だったのだが、夜が明ける頃には戦いの混乱も落ち着いていた。
盗賊団を壊滅できなかったが、騎士団に死者も大怪我をした者もいなかったことは〔踊る騎士団〕においては成功だったといえる。
夕方になるとエイリアも少し時間が出来たので自らのテントに戻っていた。
このテントで配下の騎士達をさんざん叱り飛ばしたエイリアだったが今は逆に怒られている。
「エイリア様は本当に無茶をなさいます」
サスケはエイリアが罠魔法の爆発からユニを守った事を怒っているのだ。
「悪かったよ」
何度目かわからないサスケの愚痴にエイリアは律儀に謝っている。
「本当にわかっておられるのですか」
―サスケも結構しつこいな。こういう子だったのか。
「エイリア様。きいておられるのですか」
「あ、ああ。きいているとも。おや、あれはなんだ」
小さな黒い頭がテントの隙間からのぞいているのを幸いにエイリアは話をそらす。
「誰だ!」
エイリアの護衛としてサスケが厳しい声を上げるが、
「ユニ嬢だろう。入っておいで」
エイリアはその頭の主を察して優しく言う。
「エイリア様。さきほどは助けていただきましてありがとうございました。あたしの不注意であんな事になってしまって、本当に、本当に申し訳ありませんでした!」
ペコリ、と頭を下げながらユニは早口で言う。その顔は緊張のあまりに蒼くなっていてエイリアの方がいたたまれないくらいだ。
ユニは罠魔法に気づく事ができなかったどころかエイリアに庇われた自分のうかつさを恥じている。
「いいよ。そんなに気にしなくても。君に怪我はなかったかな」
普段は友人以外にはたとえ目下の者でも丁寧な話し方をするエイリアだが、くだけた感じで微笑む。
―罠魔法に気づかなかった事をずいぶん気にしているみたいだ。ここは気軽に励ましておこうか。
エイリアはそう考えている。
「あ、はい!あたしは大丈夫です。エイリア様にお怪我はなかったでしょうか?その、よろしければあたしに回復魔法を使わせてください。せめてそのくらいはさせていただきたいのです」
「そのために来てくれたのか。ありがとう。心配をかけたみたいだが、私に怪我はないよ。マントでうまくガードしたからね、見ての通りピンピンしている」
大げさに喜んでみせるエイリアだ。
「あ、あの、でも・・・」
ユニはまだなにか言いたげだ。「どうしたんだい?」エイリアは促されて
「お顔にキズが・・・」
ようやくそう言うが、すぐにユニは余計な事を言ってしまったとうつむいてしまう。
確かにエイリアの頬には一筋の赤い線が出来ているが、ほんのかすり傷でまったくたいした事はない。
しかし、エイリアはにっこり笑うと
「ではお言葉にあまえて治療してもらおうかな?実は少し痛かったんだよ。顔の傷は小さくても痛みが大きいからね」
「は、はい!」
ユニは嬉しそうにエイリアに近づくと呪文の詠唱を始める。
「それではお顔をこちらに・・・」
言いながらユニは自分でわかるほどに赤面する。
エイリアにこんなに接近したのはこれが初めてだと気付いたのだ。
―ち、近いっ。エイリア様のきれいなお顔がすごく近くにある。あっつー、あたしの顔あっつーい。
エイリアの端麗な顔が近くに来すぎて緊張のあまりにユニはパニックになる。思わず視線をエイリアからそらして魔法をかける指先もぶるぶると震えている。
「どうしたのかな」
「い、いえなんでもありません。お、終りましたから」
エイリアに問われてユニは我に返ると、パッとエイリアから離れる。自分の心臓の音がエイリアにきこえていないかと心配になったのだ。
「そう言えばミハルがエイリア様にご相談したい事があるって言っていたのですが呼んできてもいいでしょうか?」
「ああ。かまわないよ」
「それでは呼んで来ます」
ユニは真っ赤な顔のままで脱兎のごとくその場から立ち去ったのだった。




