応援
「で、応援を引き受けてくれるのか?」
「う~ん。正直悩んでいるのよ。そりゃあなたやライサーの頼みは聞いてあげたいけどねえ・・・」
「無理にとはいわないけどな。ただ魔法戦力が決定的に足りないんだ。フラハなら力もわかっているし、気心も知れているから私としても作戦に組み込みやすいと思ったのだがな」
「作戦?」
フラハが怪訝な顔をする。
「いや、だから私たちの作戦の手伝いを頼みたいのだが、それを悩んでいるのだろう?」
今度はエイリアが眉をひそめる。
「え~と、整理するわね。私はライサーに初陣の〔応援〕を頼まれて、あなたも応援を頼みに来た。そしてあなたは私に魔法戦力として作戦に参加して欲しいと」
「なにか変なことがあるのか?」
「あのね。ライサーは私に〔応援〕を頼みに来たの。盗賊との戦闘で戦うあなたたち側で『ガンバレー!』って応援。ミニスカートとかはいちゃったりしてさ。正直私そういうのガラじゃないから断ろうと思ってたんだけど」
フラハの説明にエイリアは思わず「はー」と大きくため息をつく。ライサーが悪いんじゃない。ライサーに期待した私が馬鹿だった。そう自分を責めながら。
「もうわかっていると思うが私の言う応援は戦力として参加してもらいたいってことだ。どうだ、頼めるか?」
「そういうことならね。いいわよ。戦いは好きじゃないけど、他ならぬエイリアとライサーの初陣だしね。でも、私の所属する魔法兵団長の許可はちゃんと取らないといけないでしょうね」
「それなら心配ない。君の父上の許可はすでにもらっているよ」
フラハが魔法兵団長といったのをエイリアがフラハの父親といいなおす。魔法兵団の長はフラハの父親、ゼロウ・リントなのだ。
「兵団長の許可をすでにもらっているならわざわざ私のところに来なくてもいいのに」
フラハは口をとがらせる。
「一応直接来ておかないとな。リント卿が嘆いていたぞ。『兵団長であっても、父親である私にはあの子に命令を強制する事はできない。情けない父親だよな。エイリア君』ってさ。もうちょっと父上を大事にしてやれよ」
ゼロウの声色を使ってエイリアが言うと、
「もう。エイリアにまでそんなこと言うことないのに。ちょっと嫌な任務を受けた時に『父様とは口きかないから!』って三日間筆談しただけなのに」
フラハはちょっとすねたように言う。彼女がこんな表情をみせるのは珍しい。それだけエイリアには気を許しているのだ。
「まあ、そういうなよ。リント卿も男手ひとつで育ててきたんだ。フラハがかわいくてしかたないのさ」
「それはわかっているわよ。私だって別に嫌いじゃないし」
もう機嫌の直ったフラハに、エイリアは真剣な顔でたずねる。
「話は変わるが、ライサーもここに来たんだよな。あいつどんな様子だった?」
「どんなって、すごく嬉しそうだったわよ?ライサーが戦いに出たがっていたのは周知の事実でしょ」
「・・・あいつには私の騎士団に配属されたことで貧乏くじをひかせてしまったからな。他の騎士団に配属されていれば今頃とっくに初陣を果たして、大きな手柄をたてているだけの実力をもっているやつだ」
「そんなに気にすることないと思うわよ。『俺は第二近衛騎士団に配属されたために初陣は遅れたが、エイリアと言う男に会うことができた。俺はこの第二近衛騎士団で強くなる。あいつの下で働けるなら間違いない。あっこれはエイリアにはいわねえでくれよ』って言ってたわよ。・・・って全部言っちゃたわね」
まったく悪びれた様子もなくフラハは「失敗したわね」と舌を出している。
「そんな風に言ってもらえるのは嬉しいけどな。でも、言うなって言われたことを言うのは感心しないな」
「そうなのよね。気をつけないと」とフラハはまるで人ごとのようだ。
エイリアはフラハのそんな様子には慣れているのか、もうあきらめたように、
「それじゃあ、私は戻るよ。まだ、仕事があるしな。応援の件はよろしく頼む」
とドアに手をかけて、ふと思い出したように振り向いて、フラハにたずねる。
「そういえばリント卿からの嫌な指令ってなんだったんだ?」
「・・・お見合いよ」
とフラハのちょっと不機嫌な声がエイリアを見送ったのだった。