下劣な行為
エイリアに報告に来たプロビオは疲労で肩を落としていていつもよりも年老いて見えた。
プロビオはイーズラ隊の副隊長ではあるが、第二近衛騎士団の副団長の仕事もこなさなくてはならないのでその負担は大きい。
―プロビオも若くないからな。
エイリアはプロビオを少し休ませてから話を聞こうと思ったが、プロビオはすぐにちゃんとした姿勢になる。エイリアの気遣いがわかったのだ。
―まだまだ若いということか。まったく、あのデクノボウどもとは大違いだ。
エイリアはプロビオの強がりを無にしないためにプロビオの報告を聞くことにした。
「死んだ者や大きな怪我をした者はいなかっただろうな?」
エイリアはこの〔踊る騎士団〕おいてはもっとも気にしなくてはいけないことをまず最初にきいておく。
「その点はご心配要りません。戦死者はゼロ。怪我をした者はほとんどおりませんし、傷ついた者も後遺症はなくきちんと治る者ばかりです」
「そうか。それはよかった」
エイリアは大きくため息をつく。これで心の荷が少し落ちた気がした。
しかし、プロビオの次の言葉に表情をゆがませる。
「それから・・・イーズラが盗賊を四名ほど殺したようですな。申し訳ありません」
「なに?私は盗賊を生かして捉えるように言ってあったはずだぞ。プロビオ、君もイーズラの副官として一緒にいたから確かに聞いているな」
「確かに聞いております。ですから申し訳ありませんと言っております」
プロビオは珍しく揶揄するような引きつった苦笑いではなく、本当に苦々しい顔をしている。
それを見てエイリアも気持ちを切り替える。
「やってしまった事はしかたない。それでどのような状況でそうなったのだ」
「はい。大勢で囲み、剣を捨てていた盗賊を虐殺した、と」
「直接は見ていないのか?」
「団長に言われていたので気をつけていたのですが、なにぶん他にも目を離すことが出来ない者が隊内にいたので手が回らなかったのです。また、途中にちょっとした騒ぎもあったのです。今思えばあのさわぎも私の眼をそらすためにイーズラがおこしたのやもしれませんな」
「あのさわぎ?」
「団長が盗賊に討ち取られたと騒ぐものがいたのです。すぐに間違いだとわかったのですが、私がそれに気をとられている間に取り巻きのものどもを連れてイーズラが単独行動に移っていたのですよ」
「あいつのやりそうな事だ。イーズラが隊長と言っても隊の実権はプロビオにあることに気づいていたのだろう。それがおもしろくなかったから、私が死んだなどとあてつけのようなデマで気をひいたのだろう。とにかく、その死体のあるところへ案内してくれ」
プロビオに連れられてエイリアは四体の死体の安置してある場所に行く。
エイリアは一つの死体に近づいて傷口を仔細に点検する。傷だらけのその死体からなぶり殺しにされたのが明らかだ。
「プロビオ、君はどうみる?私は剣の事はよくわからないが、多少医学の心得はある。見事な切り口だと思うのだが」
エイリアの問いにプロビオは嘆息する。
「おっしゃるとおりですな。並みの腕ではありません。技もすばらしいですが人を斬り慣れているのでしょう。少なくとも人を斬る事にためらいなどまったくないのでしょうな」
「実戦がはじめての第二近衛騎士団で人を斬りなれている、か。あんまり想像したくないな」
「そういえばしばらく前に城下で辻斬りが流行っていたようですが・・・」
「それ以上言わないてくれ。事実だとしてもどうにもならないだろう」
第一階位であるイーズラなら平民を殺していたところでもみ消すのは簡単だろう。
仮にもみ消すのに失敗して事件が明るみになってもせいぜい十日程度の謹慎で済む。リサリア王国で第一階位にいるという事はそういうことだ。
大陸のなかでも比較的身分差が緩やかといわれているリサリア王国でも上位貴族にはこれほどの特権がある。
―貴族が嫌われるわけだな。無駄金を使うだけであきたらずやっていることが下劣なのだ。
とにかくイーズラの命令違反は見過ごすわけにいかないとエイリアは決意するのだった。




