不正①
「くそっ!なんなんだ、あの態度は」
家来の一人が用意した椅子を乱暴に蹴っ飛ばして苛立ちを隠さないのはイーズラだ。
エイリアに逆らえず結局テントを張って、その中に引っ込んだものの怒りが収まらないらしい。
「まったくです。あのような態度を団長がとるとは許せませんな」
「いくら王宮から離れたとはいえあの変わりようは無礼極まりない」
取り巻きの上位貴族たちが機嫌をとるように同調するが、その笑顔がカンにさわったのかイーズラはその端正な顔を醜くゆがませてさらに机をひっくり返し、あたりの物を壊して回る。
―今の言葉を団長の目の前で言ってみよ。目の前にいない時にだけ威勢がよくなるバカモノどもめ。
しかし、エイリアに叱責された事で顔面蒼白になって心ここにあらずといった様子になっていた騎士たちの不甲斐ない態度からはとてもそんな事は期待できないだろう。
エイリアの圧力の前ではそれなりに胆力のあるイーズラでさえようやく一言捨て台詞を言えただけだ。
やがてひとしきり暴れて気が済んだのか、イーズラは呼吸を整えると、
「団長のあの変わり様、貴公はどう思う・・・ベルトロッサ殿」
取り巻き達の輪から少し離れた場所でいつもの笑顔を浮かべていた男―ベルトロッサに問いかける。
「あれがもともとの団長の姿だと思うね。普段は僕達上位貴族に遠慮をしていても王家の血を引いているってことさ。それにしたってあの態度はないよね」
「ない・・・とは?」
「少し張り切りすぎってこと。団長が王宮を出たらああいう態度に出ることは予測できたけど、もうすこし穏便にすると思っていたんだよね。あそこまで強硬な態度にでるってことは団長には今回の件に関してはかなりの権限を与えられているんじゃないかな。それこそ、僕達の親の権力をもってしても団長をどうこうできないくらいのね」
「ふむ・・・。そうかもしれんな」
―この男、やはり考えているな。ただ騒ぐだけのバカどもとは少し違うな。それだけに怪しいが・・・。
イーズラはベルトロッサの言葉に納得しながらもかねてから思っていた疑問を口にする。
「しかし、ベルトロッサ殿、貴公が我らと同じように団長に不満を持っているとは思わなかったな」
三日前にベルトロッサとイーズラ一派はつながりを持ったのだが、接触してきたのはベルトロッサの方からだ。しかし、エイリアの腹心と思われていたベルトロッサに簡単に心をひらくほどイーズラもバカではない。
「僕は楽がしたくて第二近衛騎士団に入ったんでね。僕を無理やり働かせる今の団長のやり方には不満があって当然でしょう。イーズラ殿たちのほうがよほどウマが合いますよ」
ベルトロッサは疑われるのは心外だとおおげさなみぶりで答える。
「しかし、私から輸送隊長の役目を取ったのはなぜだ。表向きはリシューになっているが実質的にはあれは貴公が受け持ったのだろう」
イーズラはしつこく根に持っているが、ベルトロッサは落ち着いて答える。
「イーズラ殿の不正が団長に気付かれていましたからね。しかたなかったんですよ。そのかわりちゃんと儲けさせてあげたじゃないですか」
「確かにな。ベルトロッサ殿のおかげで我々は安全に儲けることができた。しかし、あのような不正を考えるとは貴公は我々よりもたちが悪いな」
イーズラはベルトロッサに渡された金貨の袋を思い浮かべて、底意地の悪い笑顔を浮かべる。
エイリア自身が言っていたようにベルトロッサがした不正は見抜かれていなかった。




