ヤカ村
今回エイリア達が盗賊討伐に訪れたヤカ村は山間にあるわりには栄えている。
人口も多く、農業に適した肥沃な土地に加えて、俗にヤカ織と呼ばれる伝統的な織物がある。そしてその色彩の見事さは世間に知れ渡っており、高値で取引されている。豊かな村なので盗賊に狙われる理由は十分だ。
このヤカ村の現在の領主はエイリアで、エイリアが育った村をドゥーカス王がその領地としてくれたのだ。ヤカ村の発展は近年著しいが、それは〔エイリアの領地〕という事が大きいのだ。
エイリアが道路や農地の整備を積極的に行ったのも影響したが、なによりも税制面で優遇されている。初めて領地を持ったエイリアに対する王の好意でヤカ村は領主に対しての税だけで国には税を収めなくていいようになっている。この優遇政策はいずれ正さねばならないとエイリアは考えているが今はまだ王の好意を断れないでいる。
もっともこの優遇政策はリサリア王国においては特別な事ではなく、平民から貴族に取り立てられた者が初めて領地を持つ時には数年間行われているものだ。
第二近衛騎士団がヤカ村に着くとエイリアはてきぱきと指示を出す。
ベルトロッサなど使える人材が増えたが相変わらずこの〔踊る騎士団〕ではエイリアのやる事は多い。
そんな忙しい中イーズラが上位貴族を引き連れてエイリアのところへやってくる。
「我々にテントで寝ろとはどういうことですかな。村人を追い出してそこに泊まればいいではありませんか。犬小屋のような家だが、我慢します。こんなちっぽけな村では全員は無理ですが上位貴族だけでもそうすべきです。なに、平民などどこであろうと平気で生きていけるものです」
エイリアが騎士たちは全員村はずれにテントを設置してそこに待機するように命令したことに対して意見をしにきたのだ。いや、意見と言うよりはほとんど騎士団長であるエイリアに命令するような口調だ。
しかもその態度はエイリアがすぐに命令を改めるだろうと思っているのがあきらかだった。
しかし、エイリアの返答は彼らの予想もしないものだった。
「君達は本当に騎士か。実戦では常に宿泊できる村が近くにあるとは限らないだろう。それに慣れるためにも野営をするのは当然の事だ。それから言っておくが、村人と不用意に接触することは許さん。必要な物は全てまかなえるようにしてあるはずだからな」
エイリアはここにきて初めて王宮では見せなかった厳格な態度で騎士達に接する。
今まではイーズラ達上位貴族が無茶苦茶な要求をしてもあくまで低姿勢でやんわりと訂正したり、妥協したりしていたのだが、今回はまるで別人のようにするどい眼で見据えている。
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それがただの視線ではない。
黒眼の視線がイーズラ達の身体を縛り付けるのだ。
皇帝の血筋だけが持つ黒眼。
その視線を避けるように皆いっせいにうなだれる。とても顔を上げていられず、嫌な汗が体中から噴出する。
その場の空気が重くにごったものになり、息苦しくて呼吸の仕方がわからなくなりそうだった。
普段のエイリアからは全く感じられなかった威圧感と、それに恐怖を感じてしまっている屈辱にイーズラは握り締めた右手をぶるぶると震わせている。
―くそ、口を開く気すらおこらない。これが皇帝の血筋、黒髪黒眼の力か。
しかし、反発を覚えても反論する気力がおこるどころかなえるばかりだ。
上位貴族であるがゆえに幼い頃から言い聞かされてきた皇帝や王の姿、黒髪黒眼が刷り込まれているのでエイリアの姿に気後れしてしまうのだ。
黒髪黒眼は従わなければならない絶対者であると上位貴族であるイーズラ達の身体にその畏怖が刻み込まれているといっていい。
「まだ、なにかあるのか。私は忙しい。何もないなら立ち去ってもらおう」
冷たく突き放すように言うエイリアのダメ押しに、
「ふ、ふん!この事は父上に報告させていただく」
とやっとの思いですて台詞をはいてイーズラ達は出て行く。
イーズラ達の気配が完全にテントから遠ざかると、傍らにいたサスケがエイリアにささやく。
「・・・よろしいのですか」
「ああでも言わないと、勝手な事をするだろうからな。村人を守りに来たのに虐待しては本末転倒だよ」
もういつものエイリアに戻ってサスケに答えている。
「もし、ご命令があれば・・・」
「私の許可なく一人でも殺めたら君を私の臣下として認めない。以前から言っている通りだ」
邪魔者は消すというサスケをエイリアは厳しくいさめる。
エイリアはこれから先もサスケに暗殺をさせるつもりはない。サスケにさせるくらいなら自らやる。サスケの手を血に汚したくないのだ。それをどこまで守る事ができるかわからないが、ぎりぎりのところまでそうしていくつもりなのだった。




