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踊る騎士団~騎士団長はツライよ~  作者: 東野 千介
第二章 なかまたち
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主従

真夜中になっていつもなら執務室には誰もいないはずの時間帯になっていたが、今日のエイリアはまだそこにいた。もっとも最近のエイリアの忙しさでは珍しい事ではなかったが、今日はエイリアの他にもう一人いる。


その人物は訪室の多かった今日の執務室において唯一エイリアが自分から呼びだした者だ。


「サスケ。ご苦労だったね」


「そのようなお言葉、もったいのうございます。エイリア様」


ねぎらいの言葉をかけるエイリアに対してサスケは地に平伏する。エイリアにとって信頼できる部下であるサスケのその態度にエイリアは困惑する。サスケは今までもエイリアと二人きりの時は十分すぎるほど儀礼を重んじた態度であったが、第二近衛騎士団が盗賊団討伐を受け持ってからはそれに輪をかけてへりくだった態度になっている。

いくさに出るという事がサスケに本来の身分をあらためて思い出させているのだ。

エイリアは浅く嘆息すると諭すようにサスケにいう。


「そのバカ丁寧な態度はやめてくれないか。君に私と対等に話せとは言わないが、そのような話かたでは時間がかかって仕方がない。それは私に対して返って不忠と言うものだよ」


「では、失礼して立たせていただきます」


そう断ってからサスケは立ち上がり報告を始める。


「ライサー殿が調べられていたように、やはり、人的被害が出ていないのは間違いないようです。しかし、食料を奪うのを目的にしていると言っていたのは少し違うようですね。食料を奪っていますがそれはカモフラージュのためだと思われます。彼らは何かを探しているようです。彼らが持ち去った物と荒らしまわった家を可能な限りリストにしておきましたのでご覧下さい」


エイリアはサスケが差し出した資料を黙って見る。


「ここまでの盗賊の行動範囲から考えますとおそらく次の標的はこの三つの村のどれかだと考えられます」


サスケは情報を集めるだけでなくある程度のめぼしはつけてきている。


「そうだな。たぶんここだろう」


サスケが地図の三つの村を示すとエイリアはすぐにそのうちの一つの村、ヤカ村を指差す。

サスケは「なぜその村なのか?」とはきかない。エイリアの考えを疑う事などサスケにはありえないのだ。

エイリアも説明しない。その必要がないというよりはその説明をするのが嫌だったからだ。自分の考えがあっていれば、それはエイリアにとって愉快なことではないのだ。


「ずいぶん詳細に調べることができたのだな」


「〔渡り鳥〕がよく働いてくれました」


エイリアの直属の部下はサスケしかいないといったが、サスケが一人で全てを調べたわけではない。サスケの下にいる半平民の〔渡り鳥〕と呼ばれる諜報員たちが動いている。

〔渡り鳥〕は普段はまったくの平民として暮らしていて必要があれば諜報員として働くことになる。ほとんどが行商人だが旅芸人や傭兵などもいて主な生計はそちらで立てていて副業として諜報員として働くのだ。

必要に応じて〔渡り鳥〕を新たに雇うこともあるがサスケは専属の〔渡り鳥〕を使っている。

その〔渡り鳥〕たちには臨時雇いの者とは違いそれだけで生計が立てられるだけの報酬を渡している。エイリアが情報を重視しているからだ。

エイリアは「それにしても」と前置きをして


「まさか初陣がヤカ村になるとは思わなかったな」


「はい。おなつかしゅうございます」


そこはエイリアとサスケが子供の時に平民として住んでいた村なのだ。

エイリアは両親がなくなった後はサスケの祖父に育てられていたので当然サスケもエイリアとともに暮らしていた。そのころはエイリアも出生の秘密を知る前で、サスケが幼かったのもあって主従というよりも兄妹のように暮らしていたのだ。


一人っ子だったエイリアは自分を慕ってくれたサスケの事をとてもかわいがっていたし、サスケも優しくて頼りになるエイリアが大好きだった。

ヤカ村では輝くばかりにうつくしい少年の後を小さなかわいらしい女の子がついて歩く姿がよく見られていて、それはとてもほほえましいものだった。


サスケはふとした瞬間に―あの頃のようになれたら。と考えそうになって、そんな風に思ってしまう自分を恥じている。まだまだ修行が足りない、と。


サスケがエイリアを主君として仰ぐようになったのはエイリアがバルス大学に入学して一年がたった時でサスケが六歳の時だ。

その頃サスケは祖父と供にヤカ村に留まって厳しい修行に耐えていた。その内容は六歳の子供には酷なもので、幾度か死を感じることもあったが、サスケは苦に思わなかった。その修行がエイリアのためだときかされていたからだ。


リサリア王家に仕える隠密は幼い頃に主君の子とともに育てられてそれによってつちかわれた親愛を修行のモチベーションに利用するのだ。


実際サスケの場合も、


―エイリアの役に立てる。


ただ、それだけで頑張れた。


そしてその力が身につけば、また以前のようにエイリアの側にいる資格ができる。それだけを励みに頑張ってきたのだ。

エイリアがバルスに行ってから一年。サスケはエイリアに会いたくてしかたなかったが、祖父からエイリアの役に立つための訓練を受ける事でその寂しさから抜け出すことができたのだ。


しかし、サスケが力を身につけてエイリアの側にいる資格を得た事でエイリアとの距離が兄妹から主従になってしまったのは皮肉だった。


エイリアも再会した当初は変わってしまったサスケを元に戻そうとしたが、今では好きにさせている。


もはやサスケにとっては現在の自分を否定される事のほうが、以前の関係にもどれない事よりも辛い事になってしまっているからだ。それが王家の隠密として育てられた結果だった。


エイリアはサスケの顔を見る。


きれいな金髪を短くまとめているが娘らしい丸くかわいい顔している。

そこにはあの頃のあどけなさをまだ残しているが、その中身はすっかり変わってしまっていた。


―この娘は私の命令のためならいつでも命を捨て、人も殺す。


そこにエイリアは王家の血を引く自分の業の深さを感じずにいられなかった。

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