苦情④
魔法使い二人が笑顔で部屋を出て行ったのと入れ違いにまた一人入ってくる。
この執務室はまさに千客万来だ。
入ってきたのは馬に乗れない騎士、ズースだ。
ズースはしぶい顔をしてエイリアと向き合っている。もっともズースはしぶい顔をしているが苦情を言いに来たわけではない。報告しなければならない内容が困ったものだったからだ。
「魔法の才能のある者は約十名というところですね。しかし、今回の作戦に魔法兵として使うのは無理でしょう。訓練するには時間がなさすぎます」
「十名か。本人が魔法を使えなくとも魔法の媒体としては役立つのだろう?」
「魔法の種類にもよりますけど、可能でしょう。しかし、攻撃魔法を強化するための媒体には使えませんよ。訓練されていない者を使うには攻撃魔法は負担が大きすぎますからね。守備魔法もまた同様です」
ズースは結局その十名は今回の作戦には使えないと主張しているようだ。
「攻撃魔法に使うつもりはないよ。守備魔法にも。私が彼らを使うのは探索魔法の衛星として使いたいのさ。それなら可能だろう?」
「・・・それなら可能でしょうね。たいして負担になりませんから。しかし、団長は魔法の事をよく知っていますね。媒体とか衛星とか魔法兵でもないのにどうして知っているのですか」
ズースが探るような眼でエイリアを見ている。
ズースはエイリアが魔法を使えるのではないかと思っているらしい。そして魔法が使えるならエイリアも自分を手伝うべきだと言いたいのだ。
―ライサーほどではないが、こいつもわかりやすいやつだ。
エイリアはズースのかたくなな表情にうんざりしながらも誤解を解くことにする。
「最近の上級将官は魔法部隊をきちんと使いこなせるようにある程度の魔法知識を学ぶのが常識になっているのだよ。我がリサリア王国でも月に二度ほど魔法兵団長が戦場における魔法部隊の有効な使いかたを各騎士団の上位階位の者を集めてレクチャーしている。君は病欠していたから知らないだろうがな」
「ああ、そうだったんですか」
エイリアのちょっとした皮肉にズースはまったく他人事のようだ。
「ところでズース、君が馬に乗れないというのは本当なのか?作戦までには練習して乗れるようになってくれないかな」
「本当ですよ。でも、練習なんてしている暇ありませんよ。今だって忙し過ぎるくらいです」
そう主張するズースの顔は以前のふっくらとしたものに比べて少しやつれている。
忙しすぎてそうなったのだろう。
この姿を見てエイリアも口ごもるが、意を決してもう一度言おうとするその出鼻をズースがくじく。
「そうだ。団長が私の仕事をかわりにやってくれるなら考えますけど、無理でしょう」
「これ以上仕事が増えると私は盗賊と戦う前に過労で死んでしまうよ」
「それでも私は構いせんよ。団長が死んでくれたら私は仕事をしなくて済みますから」
「ズース、少し本気で言っているだろう」
エイリアがにらむと
「まさか。もちろん冗談ですよ」
ズースは珍しく歯を見せて笑うが、エイリアにはその顔は本気に見えたのだった。




