苦情③
エイリアが再び書類に目を向けてから五分もたたないうちに執務室のドアがまたノックされる。今度は誰だ。いい加減イライラしてきているエイリアは不機嫌な顔をするが、思い直してきちんとした顔を作ると「どうぞ」と声をかける。
入ってきたのは魔法兵団の見習いであるユニとミハルの二人だ。エイリアは嫌な予感がする。
―まさかとは思うがこの二人も自分達の所属について文句があるわけじゃないだろうな。
「私たちの所属する隊についてききたいのですが、よろしいでしょうか?」
ミハルがおずおずと切り出す。そのまさかなのだ。
「いいですよ。できる事なら所属を変えましょう。言ってみてください」
さすがにこの二人にはさきほどの三人のように強行に押し切る事はできない。あくまで援軍として来て貰っている立場なのでエイリアにも遠慮がある。
「あたしたちはエイリア様の隊に配属されていますが、あたしたちでは足手まといにならないでしょうか?フラハ様に代わっていただいた方が隊のためにはいいのではないでしょうか」
真剣な目でユニが訴えてくる。
―ああ、なんか感動的だな。はじめて個人的な理由じゃなくて、作戦上の理由で意見をしてきたよ。これだよ。こういう質問ならまだいいんだ。
そしてこの二人の誤解の原因もわかる。
どうやらこの二人は第一近衛騎士団の感覚で考えているのだ。第一近衛騎士団では王子にして団長であるレスタークスの所属する隊が精鋭をもって構成されているため、エイリア自ら率いる隊が第二近衛騎士団の主力だと思ったらしい。
実際はエイリアが率いる隊が第二近衛騎士団でも最弱の隊なのだ。
しかし、エイリアはその事は説明しないでおこうと思った。そんな事を言うと二人は自分達があてにされていないと思うだろうし、なにより第二近衛騎士団の恥部をわざわざいう事もない。
「私はお二人には力があると信じています。もちろん、無理強いはできませんが、できれば私の隊で力を貸してくださると嬉しいのです」
「そんな、無理強いなんてとんでもないです。ただ、私の力でお役に立てるかどうか不安だったのでお伺いしたのです」
ミハルが両手を振って恐縮すると、
「そうです。あたしも自分みたいな者がお力になれるかどうか心配だっただけですので、お気になさらないで下さい」
ユニも同じような動作をして、あわてて頭を下げる二人の謙虚な態度にエイリアは癒される。自分勝手な苦情どころか隊のためを思って意見をしてくれる二人はとてもかわいらしく素直に見えた。
―そういえば確認してなかったが、この子達は馬にのれるのかな。
ズースの事があるのでエイリアは不安になってきた。
「君たちは馬に乗れるのかな?」
「はい?」
ユニは不思議そうな顔をしている。馬に乗る事が出来ない者など見習いとはいえ魔法兵団にはいないので、エイリアの質問の意味をわかりかねているのだ。
一方ミハルの方は深く考えすぎたのか、
「一応乗る事はできます。しかし、騎士団の方のように馬を自らの足のように自在に操る馬術は習得していませんが、なんとか足手まといにならないように頑張ります。ですから私たちを連れて行ってください」
と頭を下げている。
それをきいてユニも「あ、そうか!」と誤解して、
「あ、あたしも頑張りますので置いていったりしないで下さい!」
と必死に言うので、今度はエイリアの方があわててしまう。
「いえいえ、普通に乗れればいいのです。単純に移動手段として使えれば問題ありません。馬に乗っての戦闘などは騎士だけで十分ですから。ただ、馬に乗れなければ馬車を用意しなければならないと思って尋ねたのですよ」
二人はホッとした表情になる。
「そういうことですか。でも、エイリア様、いくら魔法兵団の見習いといっても馬くらい乗れますよ。あたしたちだって一応騎士ですから」
「エイリア様っていがいとかわいいところありますね」
年下の二人にからかわれてエイリアは苦笑いだ。
―馬を自在に操る騎士団。普通はそうだよなあ。自在に操るどころか乗ることすらできない正騎士が騎士団にいるとはこの子たちは夢にも思わないだろうな。




