苦情②
女好きはこれで片付いたのだが、今度は剣術バカが苦情を言ってくる。
「エイリア。ズースが俺達の隊なのかよ」
「ライサー。まさか君まで華がないとかいうつもりじゃないだろうな?ズースはあれで魔法兵としてのレベルは高いぞ」
「はな?なんだそりゃ。俺が言いたいのはズースのやつは騎士らしくないから好きじゃねえんだよ」
ライサーは思った事をオブラートに包まずにはっきりと言う。個人的な理由で苦情を言っている点はベルトロッサと変わらないので、エイリアはうんざりだ。
「それくらい大目にみてくれよ。確かにズースは騎士らしくないが、魔法兵の貴重さはライサーだってわかっているだろう。いるだけでもありがたいことだぞ」
最新鋭の兵種である魔法兵の重要性がライサーにはあまりわかっていないらしい。
「そりゃそうだけどよ、あいつ馬にも乗れないんだぜ?そんな騎士聞いたことねえよ」
ライサーはふてくされてそっぽを向く。
「馬に乗れないのか。それは知らなかったな」
エイリアも頭を抱える。いくらお飾りの騎士団とはいえ正騎士で馬に乗れないものがいるなんて話にならない。
「とりあえず今回は馬車でも用意しよう。そのうち馬に乗れるように指導を・・・そうだな、ライサー、君がやってくれ」
「なんで俺が」
「残念ながら我が騎士団には馬に乗ることはできても、馬術を人に教えるほどの技量を持った者は驚くほど少ないんだよ」
一瞬、ライサーはエイリアの言葉の意味がわからなかったのか、呆けた顔になるが、
「なあ・・・本当に騎士団なのか?うちは」
なんとも情けない声を出す。
「私も時々自信がなくなるよ。ともかく、ズースの件はライサーに一任するから好きにしてくれ。ぶつくさ言うようだったら力づくでもかまわん。いくら頭脳労働しかしないと言っても馬にも乗れないなんてひどいにもほどがある」
ライサーは「しかしなあ・・・、ここまでひどいとは・・・」と首をひねりながら出て行く。
「これでもう、隊の編成について苦情を言ってくる者はいないかな。しかし、苦情を言ってくるのが心許せる仲間と思っている者ばかりとはどういうことなんだ。まったく、人の苦労も知らないで好き勝手言ってくれるよ」
エイリアが独り言を言いながら頭を抱えていると一人の美女が髪をなびかせながら執務室に入ってくる。
「ちょっと、私がどうしてエイリア達の隊じゃないのよ」
バン!と部隊編成が書かれた書類をエイリアのデスクにたたきつけてくるのはフラハだ。
「イーズラを隊長にしたからしょうがないだろ。ズースではケンカになるだけだし、ミハルやユニではイーズラに意見する事もできない。フラハ以外ではあのバカを止める事などできないだろ」
ベルトロッサとライサーの相手をしていい加減疲れてきているエイリアはつい投げやりな言い方をしてしまう。
「そういう事じゃないでしょう。私がエイリアと一緒にいなかったら、リンクス物語が書けないじゃない!どうしてくれるの!」
エイリアからすればかなりどうでもいい理由なのに本気で怒っているフラハに、今までの苦情で一番の精神的疲労をエイリアはおぼえる。
「誰も書いてくれって頼んでないだろう」
「じゃあ、私は何のために今回付いて行くのよ?」
―盗賊討伐のためじゃないのか?
エイリアはそう思うが、黙っている。すっかり逆上しているフラハにそういう常識的な事を言っても無駄だ。小説に関してのフラハは人が変わったようになる。
―いや、もともと変わっているが、さらに扱いづらくなるよな。
エイリアは自分が譲歩するしかないとあきらめる。
「作戦中はフラハの知りたい事にはなんでも答えてやるよ。そうすれば一緒の隊でなくても書けるだろう」
「なんでも?」
「なんでもだ」
「それなら我慢してあげる。でも、できるだけエイリアの近くで取材するからね」
エイリアにしてみれば悪魔に魂を売るつもりで破格の条件をだしたのに、それでもフラハは完全には納得していない。まだ、ぶつぶつ言っている。
「もう、いいかな?まだ仕事があるんだ」
先ほどから邪魔されっぱなしのエイリアはくたびれている。
「まさか、エイリアは私にリンクス物語を書かせないためにこういう編成にしたんじゃないでしょうね?」
「そんな事を考えるほど人材に余裕があったらどんなに嬉しいかと思うよ」
フラハはエイリアの目をじっとみつめると
「本心みたいね。なんか忙しいところ悪い事しちゃったみたいね。でも、なんでもは約束だからね。ま、頑張ってよ」
あっけらかんと言い捨ててフラハは去っていった。




