不正①
ライサーとサスケがダンスを踊っていた日の午後、エイリアの執務室ではその主人が難しい顔をしていた。
ここ数日の間エイリアはこの部屋ではいつも同じ表情だ。
それだけ〔踊る騎士団〕には問題が多いのだが、今日は一段と厳しい顔だ。
「イーズラに任せていた物資調達の件だが、無茶苦茶だな。調達ルートもそれにかかる費用、人、時間、全てが自分達の利益になるようにしている。それが簡単にはわからないように色々と細かい細工もしている。ここまでくると不正をするのも一種の才能だと思えてくるよ」
イーズラから提出された見積もりの書類をエイリアが机の上に投げだすと、プロビオはそれを手にして丁寧にめくっていく。
「我々は盗賊退治をすると思っていましたが、どこかの大国と大規模な会戦をするようですな」
プロビオが苦笑いする。それほど予算の額が多すぎるのだ。
「これがしつこく輸送隊長の役目をよこせと言っていた理由ですな。彼の身分から言ってなんらかの役目につけなければいけませんが、もっとも権益の多い輸送隊長の役目を狙ってくるあたりさすがは、といったところですか。ははは。なかなか面白いですな。盗賊討伐祝賀記念パーティの衣装代まで計算して請求しておりますな。気の早いことで」
プロビオは声をあげて笑っている。
「笑い事じゃない。第二近衛騎士団の名で提出すればバカどもの父親が手回しをするからこんな無茶苦茶な要求だって通るんだぞ。やつらは国の金は無限にあっていくらでも民から搾り取れると思っている。リサリアは豊な国だがそのおかげで働かなくても金を得るバカな貴族が増えすぎているんだ」
「まあ、笑ったのは不謹慎でしたな。それにしてもこれはひどいですな。ここまでくると芸術的でもありますな。ありとあらゆる汚職の教本にできますな」
プロビオは謝りながらまだおかしそうにしている。
―このじいさんは・・・。
プロビオにはこういう人をくったところがあるのだ。
エイリアは小言を言いたくなったが気持ちを切り替えて話すことにした。これからする話はプロビオに無理をしてもらう事になるからだ。
「それで、だ。イーズラを輸送隊長の役目から外そうと思っている」
「よいお考えだとは思いますがそれは難しいのでは?何か重要な役職を与えないとイーズラの親である一級階位ラスカ卿がどんな難癖をつけてくるかわかりませんぞ」
「だから別の役職につけることにした。言いにくいがイーズラをあなたの隊の部隊長にする。プロビオ、あなたには悪いがイーズラに隊長をゆずっての副隊長になってくれ」
「・・・イヤですが仕方ありませんな。隊長を譲るのがイヤではないのです。アホのめんどうを見るのがイヤなのですが、それが一番よいようです」
「すまない。本当にすまない。いろいろ考えたんだが他にイーズラが納得するような高い役職でヤツをつかせてもよいものが思い浮かばなかった。何か他にないだろうか?」
「ありませんな。私ではイーズラを私の隊の隊長にするという奇抜な思いつきすら考え付きもしませんでしたよ」
「イヤミを言うなよ。人材をうまく使うのが団長の仕事なんだろ?イーズラを抑えられるのはあなたくらいしかいないだろう」
「いえ、感心しているのです。本当に私の事も少しの無駄もなく使ってくれておりますからな。団長の節約術には驚かされるばかりです。しかし、かわりに輸送隊長を任せる人物は決まっているのですかな」
イヤミを言わないといいながらしっかりイヤミを言うプロビオにエイリアが答える。
「負担が増えるがベルトロッサに頼もうと思っている」
「それがよろしいですな。あの男は拾い物でしたな。私も推薦しておいてこんなことをいうのもの何ですが、あれほどの男は第一近衛にもそうはおらんでしょう。善は急げといいますな。呼んできましょうかな」
プロビオは早速ベルトロッサを呼びにいく。
やがてベルトロッサが一人で入ってくる。プロビオは他の用事を思い出したからまた後でくると伝えてほしいとベルトロッサに伝言を頼んでいた。
エイリアはすぐに本題に入る。
「ベルトロッサ、君に輸送隊長を任せようとおもうのだが、どうだろう」
ベルトロッサは仕事が増える事に露骨にいやな顔をする。
「団長が呼んでいるってきいていやな予感がしたんですよ。・・・物資調達は確かイーズラの担当ではなかったのですか」
「これを見てくれ。やってくれたよ。まったく」
エイリアは不正を指摘して真っ赤になった物資調達の書類を苦々しく差し出す。
「・・・この赤いのが全部不正ですか?へえ、たいしたものですね。今度裏金を作る時に教えを請いにいきますか」
その赤さに目を丸くしながら、ベルトロッサはのんきな事を言っている。




