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踊る騎士団~騎士団長はツライよ~  作者: 東野 千介
第二章 なかまたち
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レックスの訪問②

「・・・その、あれだ、あの、あれだよ。あれ。俺は今度結婚することになったんだ。急な話でな、明日には公式に婚約を発表する。今日はそれを伝えにきたのだ」


「そうなのですか。ご婚約おめでとうございます」


エイリアの祝福の言葉にレックスは少年ように顔を赤らめる。この王子は戦場ではどんな騎士よりも勇敢で、どんな将軍よりも有能なくせに色恋沙汰になると臆するところがあるらしい。


「それでどなたと結婚なさるんですか」


「ケット王国のレナ王女だ」


「ああ、あの美貌で有名な。レックスもやるじゃないですか」


エイリアはちゃかすように言うが、その表情はわずかに険しいものになっていた。

 しかし、照れているのか下を向いていたレックスはそれには気づかない。


 「いや、俺が選んだわけではない。父上が強引に決めてしまわれたのだ」


 「つまり、国と国との結婚ですか。レックスの立場ではそれも仕方ないでしょうね」


「そうだ。ケット王国とは隣国でありながら同盟もせず、敵対もせずの不干渉を貫いてきたのだが、ここらで仲良くしておこうという事らしい。言ってしまえばあからさまな政略結婚だな」


政略結婚を強調するレックスにエイリアは尋ねずにはいられない。


「レナ王女では不満なのですか?」


エイリアの言葉には少しとげがあるが、それはささいなものだったのでレックスはきづかない。


「まさか。何度かお会いしたが俺の知っている姫君では一番美しくて、性質もいい方だ。いい意味で貴族らしくないし、不満なんてないさ。俺が心配しているのは姫の方が俺の事を嫌がってないかと言う事だよ。何しろあまり話もした事がないのだからな」


とんでもないとレックスは首を振りなからも顔は紅いままだ。どうやらレックスは本当にレナ王女のほれこんでいるようだ。

 そんなレックスの様子を見てエイリアはからかうように言ってしまう。


「それなら大丈夫ですよ。レックスはこのあたりの王子では一番男ぶりがよく勇敢で聡明ですからね。他の国の王子よりはずっといいですよ」


「それは褒めているのか?もっとも俺達の意思なんて関係のないことだからな。ただ、結婚する以上は必ず幸せにするさ」


「そうして下さい。政略結婚だから不幸になったなんていいわけにすぎません。幸せにできるはずです。少なくとも自らの欲望に負けて自由な恋愛をしなければ女を幸せにできないなどというのは一国を担う者としては最低です」


エイリアの表情が静かな怒りに満ちていく。それはレックスに対してのものではないがエイリアが自分の国を捨てて駆け落ちした父の事を考える時はいつもこうだ。レックスはこういう時のエイリアに戦場で出会ったいかなる強敵よりも畏怖を感じる。

―これが王の血。いや、平民の間で育った王の血なのか?しかし、俺はそれに圧倒されるわけにはいかない。そうならないと俺は真の王になれないだろう。

レックスはエイリアに対して感じた恐れを隠して、


「まだ、君の父上の事を気にしているのか?あんまり深く考えすぎるな。正直に言うと俺は君の父上の自由さがうらやましいと思う時があるくらいだ」


レックスはわざと簡単に言うが、


「いえ、父の所業は恥ずべき事です。私はたとえレックスでも父と同じ事をすれば許すことができません」


エイリアの真剣な表情は重たく冷たくなっていく。それにあわせて周りの空気も黒く濁っていくようにレックスには感じられた。


「いやいや、怖い顔するなよ。冗談だよ。俺はこの婚約に満足している」


レックスはこれ以上この話に踏み込むのをやめて、話題を変える。逃げるようで嫌だったが、このまま続けるとエイリアの事を本当に恐れてしまいそうだったからだ。


「そう言えばレナ王女はバルス大学で学んでいたな。エイリアは彼女の事を知っているのか?」


「はい。学友でした。レナ王女は当時からその美しさと賢さで有名でしたから、よく知っています。私もある意味有名でしたから親交がありましたよ」、


「〔バルスの天才〕か。あまり気にするなよ。名前にこだわると君が小さく見えるぞ。レナ王女が我が国に来られたら知っている者も少ないからさびしい思いをするだろう。気にかけてやってくれ」


「はい。そうするつもりです」


そう答えるエイリアにはもう威圧感を感じない。

もともとのエイリアは人に威圧感を与えるような性格をしていない。

ただ、怒りの感情が表に出てきた時だけ、黒髪黒眼の皇帝の姿がそこに重なって畏怖を人に感じさせるのだ。

―黒い髪、黒い眼か。


「殿下・・・?」


「いや、少し君の姿に見とれてしまったのさ」


レックスの言う意図をはかりかねてエイリアが怪訝な顔をすると、レックスはエイリアにもわかるように続けた。


「君のその姿はリサリア王家の証だからな。俺にはないものだ」


リサリアでは黒髪黒眼の男性は王家の者にしか生まれない。それゆえに黒髪黒眼は王の、各地の王が皇帝の子孫から成り立っている事を考えると、さかのぼって言えば皇帝の象徴だ。


「知っているか?俺は幼い頃に髪を黒くしようとインクを頭からかぶった事があるんだ。伝記に出てくるリサリア王の肖像は全て黒髪黒眼だったからな。ずいぶんバカな子供だったんだ」


レックスは金色に輝くその髪を左手でいじりながら、黒い眼でエイリアをうらやましそうに見ている。


「私はこの髪と眼の色が女性のようで嫌でしたよ。王家の証というよりは女男と村にいた頃はではからかわれていましたからね」


「君はうつくしいからな。女性に間違われるのも無理はない。おそらく世界で一番うつくしい騎士団長だろう」


「それが世界で唯一の踊る騎士団を率いているのですからまるで物語ですね」


そういったエイリアの言い方がおもしろかったので、二人は声を上げて豪快にわらったのだった。

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