レックスの訪問①
エイリアと腹心の者たちとの話が終わった時、すっかり夜も更けていた。
プロビオたちと別れてエイリアが執務室で作戦会議のまとめを作成していると、レックスが訪ねてくる。
レックスはエイリアが執務室に戻ってきたのを見計らってやってきたようだった。
どうやら今日の作戦会議の事が気になったらしい。それはレックスの最初のセリフからも明らかだった。
「大変だったみたいだな。今日の会議」
「予想通りでしたよ。クー姫から聞かれたのですか」
「ああ。怒っていたぞ。貴族たちがあんなめちゃくちゃな事を言うなんて許せないって。あいつもまだまだ子供だな」
その幼い怒り方がおかしかったのか、レックスは思い出し笑いをしている。
「私の事は何か言っていましたか?」
「ん?そう言えばエイリアの事はなにも言っていなかったな。いつもならなにかにつけて『エイリア、エイリア』なのにな」
「クー姫は失望されてしまったのかもしれません。私はそのめちゃくちゃな貴族に迎合していたのですから」
エイリアは申し訳なさそうに言う。
「それは大丈夫だろう。あいつは君が好きだよ。貴族の悪口は言っていたが君の事は言っていなかったよ。それよりも君がクーの機嫌をとるために貴族たちに反対しなくてよかったよ。少し気にしていたんだ。君は正義感が強いから彼らの言い分を全て突っぱねるかもしれないとね」
「言い分は聞きますよ。聞くのはただですから。そのかわり要求は通さないようにするつもりです。予定通りにいきましたよ」
エイリアの言葉にレックスは笑顔でうなずいているが、心は少し曇った。
エイリアはあらかじめ作戦会議の行き着く先を自ら決めておいて、その結論に行くように会議を導いているらしい。この点レックスのする作戦会議は違う。
レックスが作戦会議をする時、自分はまず黙っておいて、部下に意見を言わせる、そうしないと王子のレックスに反対するような意見は言いにくいと思っているからだ。ただ黙っているだけでなく、会議の決定事項の方針についても自分ではまったく考えないで空の状態にして意見をきくように心がけているのだ。
少しでも自分の意見があればそこに作戦会議の結論を導いてしまう恐れがあるからだ。そして、この〔自分を空の状態にする〕ことこそレックスを黒眼王子という英雄にしている最大の理由なのだ。
部下の意見から適切なものを選ぶことこそが、指揮官の本来の役割だとレックスは考えている。
エイリアは天才だが人間一人の考えには限界がある。それではいつか限界がきてしまうだろう。人の意見がきけないのはエイリアにとって不幸だと感じてしまう。
だが、人材に乏しい第二近衛騎士団においてはエイリアのやり方をするしかないのがわかっているのでその事には触れなかった。
「うまくしないと気づかれるぞ。なにしろ相手は不正をすることにかけては芸達者な者ばかりだ。表面的には機嫌を取りながらやらないと勘付くだろうな」
「第一近衛騎士団でも不正をするものがいるのですか?」
やけに実感がこもっているレックスの言葉をエイリアは疑問に思う。第一近衛騎士団に入れなかった貴族の残りカスが集まった第二近衛騎士団と違って、第一近衛騎士団は上位貴族でも優れた者が所属しているはずだ。
「君のところほどではないが少なからずいるな。もっとも本人たちは不正とは思わないで当然の事だと考えているようだがな。エリート意識が強すぎると周りの迷惑など考えられなくなるものだ。もっとも私のところは不正もするが、仕事も出来るからまだましかな」
「私のところにもできる者もいますよ」
「例のライサーとかいうやつか?クーがたまに名前を口にするな。そうそう、あのベルトロッサを働かせているんだって?さすがはエイリアだな。ベルトロッサの兄のルピスが私の騎士団にいるが驚いていたぞ。あの弟がまともに仕事をしているとな」
「不思議な男ですよ。ちょっと底が見えないですね」
「リベル家の者は優秀なものが多いからな。もっとも私のところのルピスのように皆ひとくせあるらしいが」
ルピス・リベルの〔ひとくせ〕を思い出したのかレックスはくっくっくと忍び笑う。
「確かにそうですね。ベルトロッサにもあります。ひとくせ」
ベルトロッサのひとくせ、女好きをエイリアも思い出して、こっちは苦笑いだ。
「その様子ではエイリアも苦労しているようだな。おっと本題を言うのを忘れていた」
「本題?」
レックスは少しためらいながら、本題を話し始める。




