会議の後で②
「ところであの報告は団長の指示通りだったのか?」
「いや、それがエイリアは村人の証言だけで騎士の証言は言うなと言っていたな。だけどよ、騎士の証言に加えてその矛盾を突くように村人の証言を言った方が効果的だと思ったからそうしたんだよ。せっかく調べた事だしな」
ライサーの主張は論法としては正しい。確かに効果的な報告のしかただ。
しかし、ベルトロッサは大きく溜息をつく。
「・・・ふー。バカだな。だからあんな事になったんだよ」
「バカとはどういう意味だよ」
「あのなあ、なんで団長が騎士の証言を言うなって言ったのかわからないのか?その逃げ帰った騎士たちの中には今日の会議に参加していた上位貴族の配下の者がいたんだよ。その配下の者が盗賊相手に逃げ帰っただけではなく、嘘の証言をしていたら立場がないだろう。ただでさえ気位が高いヤツは怒らせるとめんどうなんだから」
「それでも俺の少しは肩を持ってくれてもよかったんじゃねえか。それが友情ってもんだろう」
まだすねているライサーの言葉にベルトロッサは大げさに肩をすくめる。
「ホントわかってないんだな。団長があの場でライサーの顔つぶしてなかったら、被害を受けていたのは君自身だぞ。団長がライサーを庇うことに上位階位貴族たちが団長に腹を立てても団長自身にはおいそれと手は出せないけど、ライサー程度だったらどうとでもできるんだ。だったら最終的に被害を受けるのはライサーだろ。その時になって団長が庇っても庇いきれないくらいの事になるかもしれないじゃないか」
ベルトロッサの説明をライサーは一つ一つゆっくりと理解すると素直に感心する。
「なるほど。そりゃそうか。確かに上位貴族ってのはロクなもんじゃないしな。しかし、ベルトロッサ、お前ってすごいな。なんでそういうことがわかるんだ?たいしたもんだ」
「僕みたいに子供の頃から上位貴族の中で育ったら自然にわかるようになるのさ。上位貴族って言われている連中がいかに汚く、卑怯な事がね。初めはその不正義や悪辣さを憎んでいても、それが当たり前になってくるんだよ。僕は正直言って、ライサー、君がうらやましいよ。嫌な事をされたらその場ではっきりと怒りにあらわせる君がね」
「へえ、お前も苦労したんだな。あんな連中と子供の時から一緒にいたらそりゃ大変だ」
しみじみと言うライサーに、ベルトロッサは「あはははっ」と本当の笑い声を上げる。
「僕に苦労したなんて言ったのは君が初めてだよ。やっぱりライサーはすごいな。団長が見込んだだけはあるよ」
リサリア貴族の最高位である第一階位の貴族の家に生まれて何不自由なく育てられたように見えるベルトロッサに対して「恵まれている」とうらやむ者はいても「苦労した」と同情してくれた者はいない。しかもライサーは本心からベルトロッサが苦労してんだなと思っているのだ。
―偉そうにライサーに忠告したりしたけど、上位貴族として周りの顔色の伺い方ばかりうまくなった僕なんかよりよっぽど人間が上だよ。なるほど、彼はおもしろい。階位が低くても卑屈さが全くない。
さっきまでのすね方だって、自分が下位貴族だからというすね方じゃなく、完全にエイリアと対等の立場でのすね方だった。
「ベルトロッサ。お前には負けねえ。俺はお前以上にエイリアの期待に答えて見せる」
「僕だってライサー、君に負けるつもりはないよ」
すっかり元気になったライサーとベルトロッサはいいライバルを得た満足感にあふれていた。
「わかったら団長に一声かけときなよ。あれで結構気遣いの人なんだから」
「よし、行って来るぜ」
ドンドンドン!
乱暴にドアがノックされライサーが入ってくるが、その表情の変わりようにエイリアとプロビオは目を見張る。さきほど出てきった時のやさぐれた感じはいっさいなく、前向きな気力に満ちあふれた瞳を燃やすと、一呼吸で宣言する。
「エイリアー!俺は期待に応えるぜ!そんだけだ!」
そう言い捨てて入って来た時と同じように嵐のように部屋から出て行く。しばらくして
「俺はやるぞ!」という咆哮が廊下から響いてくるのが聞こえる。
「どうやら大丈夫のようですね」
いつの間にかベルトロッサが帰ってきている。ライサーのかわりようにあっけに取られてベルトロッサが帰ってきた事に気づかなかったのだ。
「ベルトロッサ、君はすごいな。どうやったらああなるんだ?」
「団長の人徳ですね。それにつきます」
目を丸くしているエイリアたちにふざけているような口調でベルトロッサは答えたのだった。




