作戦会議②
「ライサー殿、その報告に間違いはないのかね」
「どういう意味でしょうか」
上位貴族の問いにライサーが逆にききかえす。
「騎士達が逃げ帰ったという証拠が村人の証言以外であるのかときいているのだ」
「村人の証言では不十分だといわれるのですか?」
「珍奇な情報を得たというおのれの功を誇ろうとするがために、たかが平民ごときの話を鵜呑みにするのは少々浅はかなのでは。そう思ったのだよ」
上位貴族の一人が厭味ったらしく言うと、
「浅はか・・・というよりは、世間知らずというべきか。平民なんぞというのはたいしたことでないことを大袈裟に言ったりするもの。小さな子犬を見て、狼が出た、などと騒いだりするのが平民よ。おおかた騎士が奮戦する姿を見ていた者が自分の近くに盗賊が来るような気がして言った世迷言よ」
他の一人がそれに理由をつけて賛同する。
「おお、確かにそれなら筋が通りますな。全く、騎士が盗賊を目の前にして逃げ出すなど考えられぬ。報告をする前によく調べられよ。ライサー殿」
皆、一様にうなずきあってライサーを嘲笑する。事実を認めないでライサーの報告にケチをつける貴族たちにライサーは怒りで真っ赤になって今にも爆発しそうだ。
エイリアも表情こそ変わっていないが拳をぐっと握り締めると・・・。
「いい加減にしなさい!」
そう叫んだのはクーだ。
「どのような情報であっても、頭から否定するような事はするべきではありません。それ以前にあなたがたの態度は・・・」
「姫、そこまでで」
エイリアは手をかざしてクーの言葉を遮る。
「確かに情報は大事です。しかし、それがいい加減なものであった場合それを正すのもまた重要な事なのです。皆様がたはその事おっしゃりたかったのでしょう」
「エイリア?」
エイリアの上位貴族たちの肩を持つ発言にクーは驚いてエイリアを見返すがその顔は冷然としている。
その顔はクーが何を言っても受け付けそうにない。
「プロビオはどう思いますか。あなたは実戦経験が豊富ですからなにか思うところがあるのではないでしょうか?」
クーはライサーの報告が正しいと思っている。
エイリアが庇わないなら自分が正しいライサーの味方にならなくてはとクーは第二近衛騎士団副長のプロビオに助力を求めるが、
「いえ、団長の言うとおりですぞ。姫。不確かな情報は味方の利にならず、窮地に陥らせるもの。個人の感情でものを言うべきではありません」
とむしろクーが個人的にライサーを擁護しているとたしなめたくらいだ。
第二近衛騎士団で唯一実戦経験のあるプロビオの言葉には重みがあり、会議は一気にライサーの調査が不十分で盗賊たちの実力は微々たるものという貴族たちの論に傾いた。
しかし、この作戦会議の最終的な結論としては、今回の盗賊はたいした事はないだろうが、念のため盗賊たちがある程度の実力をもっている事も想定した編成を組む事になった。エイリアがそうなるように巧みに会議を誘導して、ベルトロッサ、ズース、プロビオがうまく立ち回ってくれたおかげだった。
表向きには「盗賊はたいしたことがない」という意見を認める事で貴族たちを納得させておいて、実際には貴族の意見など全く考慮していない編成を組む事にしたのだ。
だが、貴族たちはそんな事にも気付かないのか自分達の意見が通ったと大いに満足して、談笑しながら会議室を後にしていく。
その中で一人、エイリア達の目論見に気付いている様子の者がいた。
第一階位のイーズラ・ラスカだ。バカのように笑い続ける貴族たちの中にあってイーズラの目はまるで笑っていなかった。
―イーズラは気付いたか。まあ、こんな子供だましに全員がだまされるようでは、それはそれで頭が痛いか。
黙っているところを見るとなにか考えがあるのだろうが、エイリアにはイーズラをベルトロッサたちのように仲間に引き入れるつもりはない。
―イーズラには誠がない。
そう思っているからだ。
そしてイーズラ自身も仲間に入れてもらおうとは思っていないだろう。おそらくこれをネタに何か条件を吹っかけてくるつもりだろう。
エイリアはイーズラの端正ではあるが酷薄な感じのする顔に嫌なものを感じていた。




