ズース②
ふとエイリアはズースの机の上に無造作に広げてあるゲーム盤を見る。青と赤のコマが兵士や騎士の形をして並んでいる。
「それは戦戯だな」
「ええ。団長も知っているんですか」
「ああ、若い騎士の間で流行っているみたいだな。正直あんまり感心しないな。中にはこれが強ければ実戦でも通用すると思っている者もいるみたいだ。実に嘆かわしい事だよ」
エイリアはわざと意地悪な言い方をする。
ズースにはそれがエイリアの挑発だとわかっていたがつい言い返してしまう。
「団長は年のわりに頭が固いですね。確かにこれが実戦に役立つなんて考えているやつはマヌケそのものですが、なかなか面白いですよ」
「それはどうかな。こんなものはコツさえつかめば負ける事はないよ」
「へえー、ここで私が怒って団長に勝負を挑むとでも?『そこまで言うなら私と一局勝負してもらいましょう!』という感じですか」
ズースは声色を変えてバカにしたように言う。
「いや、こんな安い挑発だけで君を動かせるとは思っていない。ちゃんと君の得になる条件を考えている」
「条件?」
聞き返してしまった時点でズースはもうエイリアの術中にはまってしまったといっていい。
「戦戯で勝負して私が勝ったら君は今回の作戦に参加してくれないか。私が負けたら君の病気療養を私が第二近衛騎士団長である限り永久に認めよう」
「つまり、私が勝てば団長が仮病の片棒を担いでくれるって事ですか?」
ズースは自分で仮病であることを認めてしまっている。
「そういうことだ。これから先、君が休んでいても問題ないようにありとあらゆるところに手を回しておく。どうかな、悪くない条件だろ?」
エイリアの挑戦的な言い方にズースはゆっくりと本を閉じる。どうやらやる気になったらしい。
「言っておきますが私は強いですよ」
ズースは自信たっぷりに言い放った。
*
「ここまでですかね」
ズースは苦々しくつぶやく。
勝負はあっけなくついた。終始ズースのペースで一方的に押いつめていたのだが、たった一手の失敗でエイリアに大将軍をとられてしまったのだ。負けるはずのなかった展開でつい心に油断が生じたのだろうが、あまりにも鮮やかにカウンターが決まったため初めからエイリアはこれを狙っていたかのようにしか思えなかった。
「まぐれでも勝ちは、勝ちだな」
遠慮がちに言うエイリア。
ズースはゆっくりと溜息をつくと、
「さすがは〔バルスの天才〕ですね。まさか本当に私に勝つとは思いませんでしたよ」
「その言い方はやめてくれないか。好きじゃないんだ」
ムッとするエイリアに
「ふっ。やっとあなたを嫌な顔にさせられましたよ」
一本取ったという顔をするズース。
「嫌な顔をする程度で君がやる気になってくれるならいくらでも嫌な顔をするよ」
そういうエイリアは嫌な顔どころか笑顔だ。
しかし、ズースはもうエイリアの顔に興味がなくなったのかどうでもよさそうだ。
「・・・一応言っておきますが、私は頭脳労働しかしませんからね」
「それでいいよ。そのかわり頭脳労働はしっかりやってもらう」
「おてやわからに頼みますよ。そうそう。負けっぱなしなのは趣味じゃないんで再戦してください。今度は賭けなしでね」
こうしてエイリアはまた一人、第二近衛騎士団の騎士を得たのだった。




