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踊る騎士団~騎士団長はツライよ~  作者: 東野 千介
第二章 なかまたち
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ズース①

エイリアのぼやきをきいて、フラハはしばし視線を宙にむけると、


「そういえば第二近衛騎士団にも魔法が使える騎士がいるでしょう?」


「うちに?いや、いないと思うが」


「でも、私のところに本を借りに来るズースはたぶん魔法が使えるわよ。彼は魔法が使えない人間が研究用に読む本だけじゃなくて、実践的な本も借りていっているもの。彼が借りているのは全く使えない人が借りていくような本じゃないわよ」


王室図書館を管理しているフラハならではの情報だ。


「ズース・ヨサルクか。彼は確かにうちに席は置いているが入った当初から病気療養扱いで一度も騎士団としての行事に参加した事がないから盲点だったな」

「病気なの?元気そうだったけど」


フラハは本を借りに来る時のズースのちょっと太目で血色のよい顔を思い出している。


「・・・ヨサルク家は貴族の中でも上位の二等階位に属するからな。例え仮病であっても文句の言えるものなどほとんどいないよ。書類だって正式なものだったし、まともにやったら引きずり出すのは難しいかな。まあ、なんとかやってみるか。いろいろありがとな」

「どういたしまして」


魔法戦力を増やそうというフラハの気遣いに(一部フラハ自身の楽しみもあったようだが)にエイリアは素直にお礼を言ったのだった。


                  *


盗賊団討伐の準備で忙しいあいまをぬってエイリアはズース・ヨサルクを訪ねるために城下町に出ていた。

ズースは病気療養の名目で城下町にあるヨサルク家の別邸に住んでいるのだ。

ベルトロッサのように呼び出そうと思ったのだが、おそらくズースはなんだかんだと理由をつけてこないだろうと思い自ら行く事にしたのだ。

エイリアが訪ねるとズースは椅子に腰掛けて本を読んでいた。

 エイリアが形式どおりの丁寧なあいさつすると一応顔上げて眼であいさつをしてくるが、すぐに手にしていた本に視線を戻す。

ズースは騎士であるにもかかわらず髪がかなり長い。

騎士は兜をかぶる時に邪魔にならないように髪を短く切りそろえているのが普通で、第二近衛騎士団のように実戦をしないとわかっている騎士団に属する騎士も例外ではない。  

ただし、エイリアは少し長くしている。あまり短くするとクーの機嫌が悪くなるからだ。

病気で戦場に出る事がないからという理由だろうが、仮病でここまでするのはよほど騎士として働きたくないらしい。


―これは手ごわいぞ。


エイリアはそう思うが気持ちを切り替えてズースに声をかける。


「ズース。君の力を貸してもらいたいのだがどうだろうか」


エイリアは単刀直入に言う。


「私の力を借りたい?隊長は知らないんですか?私は体調不良のため長期休暇中です」


ズースは本から目を離さずに返答するという無礼な態度だが、エイリアは気にせず笑顔で言う。


「そのわりにはずいぶんと元気そうだ。外にも出ているのだろう」


「そりゃ、そうですよ。病人だからってずっとベッドにいなくちゃいけない法などないでしょう。だけど、私の提出している病気療養届けは適法なものですよ」


「ああ、これだな。確かに適法だ」


エイリアは書類を一枚取り出す。ズースはそれを見て話は済んだとばかりにまた本に集中し始めるが、


「だか、期限が切れている。更新しなければこれはただの紙切れだ」

「では、また後で更新しておきますよ。それでいいでしょう」


全く悪びれないズースの態度はおのれの特権に慣れた者がするもので、残念ながら第二近衛騎士団の騎士では珍しくもない事だ。


「私が更新しよう。幸い私は医師の資格も持っている」

「さすがは団長。なんでもできるんですね。・・・そんなに私を働かせたいんですか?」


ちゃかすように言っているがズースはエイリアの意図を悟っている。エイリア自らがこの場で医師としてズースは健康であると診断してしまえば、ズースがいかに親のコネを使っても実際は健康なズースが病気療養で通すことは難しくなる。


「私は見込みのある者にしか期待しないよ」

「そういうのはライサーやベルトロッサとやって下さいよ」


ズースはその手には乗らないとそっぽを向くが、エイリアにはズースの台詞がひっかかる。


―ライサーの事はともかく、ベルトロッサの事も知っているのか。私がベルトロッサに接触したのは一昨日の事なのに、その情報をもう持っている。見た目ほど周りに無関心なわけではないのだな。


しかし、この様子ではベルトロッサのように騎士としての誇りや倫理では説得するのはまず無理だろう。

悪い男ではないのだろうが、騎士としての誇りを持っているライサーやベルトロッサとは根本的な考え方が違っている。むしろ、騎士というものをはなから馬鹿にしてその存在を否定しているようだ。


―余程身近にいる騎士たちのレベルがひくいらしいな。騎士というものを軽蔑して、自分がその騎士である事を恥じている。だから、第二近衛騎士団に配属されても一度も顔を出さなかったのだな。こうなると難しいが・・・。

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