魔法戦力見習い
三時間ほどしてクーとの話がやっと終ったと思ったらすぐにライサーたちにさらわれたフラハが二人の少女を伴って戻ってくる。
「この子たち魔法兵団の見習いなんだけど、実戦経験を積みたいから今回の作戦に参加したいんだって。エイリア、いいかな?」
フラハの後ろには十五、六歳くらいの少女二人が緊張した面持ちで並んでいる。フラハがエイリアに話したかったのはこの子たちのことだったらしい。
「もちろんかまわないよ。いや、こちらからお願いしたいくらいだな。ええと・・・」
エイリアが名前を尋ねようとするのを察して少女達は口々に名乗る。
「魔法兵団所属、ミハル・タバタです」
みつ編みにした髪を紅いリボンで結んでいるのがかわいらしいミハルが丁寧に挨拶する。
「同じく魔法兵団所属、ユニ・ムースです」
黒髪のショートカットがよく似合っているボーイッシュなユニもそれに続く。
『よろしくお願いします』
最後に声をそろえて頭を下げる二人にエイリアはやさしく微笑むと、
「わが第二近衛騎士団には魔法戦力がほとんどありませんからお二人の力、当てにさせてもらいます。お二人は魔法兵団の見習いとのことですが、どの程度の魔法が使えるのですか?」
「あ、あの・・・それほどは」
エイリアの丁寧な言葉遣いにユニが恐縮したように小さくなっていると、フラハが、
「見習いって言っても、術のレベルは実戦に十分耐えられるわよ。ひととりの術は使えると思ってくれてかまわないわ」
「そうですか。それは助かります。貴重な魔法兵に二人も加わっていただけると千万の味方を得た思いです。期待させてもらいますよ」
「は、はいっ」
エイリアの微笑みに少女達は顔全体を真っ赤にして心ここにあらずといった感じになる。
「どうかしましたか?」
エイリアが優しくたずねると二人はわれにかえって、
「い、いえ、なんでもありません。それでは失礼します」
同時に頭を下げて逃げるように退出する。
その様子をエイリアはほほえましく見ていたのだが、フラハの次のセリフに苦虫を噛み潰したような表情になる。
「こうしてリンクスは二人の少女をまたたくまにとりこにしたのであった。まる」
「・・・おい、フラハ。何書いてんだよ」
「リンクス物語の原稿に決まっているじゃない。今回はなんとリンクスの初陣なの。きっと今まで以上にロマンスが起こると思うわ。これまでの女性達と新しく出会う女性達との間でゆれるリンクス。いいわ~。これ」
「だから、やめろってそれ書くの。だいたい今のどこがとりこになった、だ」
「え~でも、ほら」
フラハが空中に魔方陣を描くと部屋から遠ざかっていったはずの二人の声が聞こえてくる。
『すっっっごく、綺麗だったね!エイリア様』
『うん。近くで見るのは初めてだったけどあんなに綺麗な人女の人でもいないよね』
『そうよね~。あたし、今までフラハさんがリサリアで一番綺麗だと思っていたけど、エイリア様にはかなわないわね。あの黒い瞳で見つめられたらもう、私死んでもいい!って思えたもの』
『もう、ユニは大げさなんだから。でも、確かにそうだな。あ~、エイリア様―』
『なによ、ミハルだって思い出して興奮しているじゃない』
『あら、私とした事が、恥ずかしい』
と二人の笑い声がしたところでフラハは魔法をやめる。
「ほら、とりこじゃん。エイリア様~だって。サイコー。あははははは」
苦い顔をしているエイリアに対してフラハはお腹をかかえて「い、息ができない」と笑いころげている。
―この姿をライサーやベルトロッサに見せてやりたいよ。
エイリアは苦々しく思うが、気を取り直してフラハに問いかける。
「まさかこれが見たいがために適当に選んだ子を連れてきたわけじゃないだろうな」
エイリアはユニとミハルの実力に不安を感じたのだが、フラハが猛然と反論する。
「何言ってるのよ。ちゃんと性格も含めてかわいい子を厳選してきたんだから。適当なんかじゃないわ」
なにかがずれた答えが返ってきたがエイリアはもう気にしないことにした。
「・・・まあ、いい。これで魔法戦力はなんとかなりそうだよ。本当はもう一人くらい欲しいが贅沢な悩みと言うものだな」
ここ三十年くらいで使われだした魔法という新しい技術を習得している者は少ない。
本来なら盗賊団退治くらいで貴重な魔法兵を使うのはありえないのだが、第二近衛騎士団の場合は所属する騎士を誰一人死なせてはいけないという制約があるため、魔法兵がいないと不安なのだ。
魔法による治療は決して万能ではないが少なくとも外科については通常の医術をはるかに超えている。戦傷を治すにはもってこいだ。




