侍女
エイリアの執務室は盗賊団討伐の任務を受けた日から千客万来といったおもむきだった。
今まではクーやライサーくらいしか訪れる者がいなかったのが嘘のようだ。
そのライサーがエイリアの執務室に入ると、エイリアはいなくてクーがエイリアの椅子にちょこんと座って足をぶらぶらさせているのが目に入る。
「お、クーじゃねえか。どうした?」
「私はエイリアに会いに来たの。でも、エイリアったらいないんだよ」
執務室にエイリアがいないことに問題があるようにクーはふてくされている。
「ああ。今度の盗賊退治の準備で忙しいからな。執務室にいないこともけっこうあるってことだな。俺もあんまり会ってねえよ」
ライサーは主のいないデスクを振り返る。
「あ~あ。余計な事しちゃったな。エイリアがこんなに忙しくなるなんて思わなかった。もう、だいぶエイリアに会ってないのよ」
クーはたった二日の事を「だいぶ」と表現する。
「その点ライサーはいつも暇そうでいいわねえ」
いいわねえ、を強調して言ってくるクーにライサーは憮然として、
「何言ってんだ。俺だってエイリアに言われて盗賊団に関する情報を集めたりして、忙しいんだぜ。今だってその報告にここに来ているだけで遊びにきているわけじゃあねえんだからな。ここ数日忙しくしていただろう?」
「そうだっけ?」
エイリア以外の事に関心はないのか、クーはどうでもよさそうだ。
「おいおい、ひでえな」
クーとライサーがそんな話をしているとドアがノックされる。
「どうぞー」
クーが部屋の主でもないのに答えている。
「失礼します。・・・あの、エイリア様は?」
一礼して入ってきた少女は部屋の主がいない事に気付いてライサーに問いかける。
「あいつ、今留守にしていてな。もうしばらくしたら帰ってくるだろうから、待っていろよ」
「そうですか。急ぎの用ではないのでまた出直します」
少女はまた一礼して去ろうとするが、
「待って。あなた見ない顔ね。エイリアの何なの?」
「そういやあ、見た事ねえな」
クーが引き止めると、ライサーも疑惑の目を向ける。
盗賊団退治をするからといってさすがに盗賊団の関係者がスパイを王宮にまで送ってくる事などありえないが、それ以外、例えば第二近衛騎士団の内部の者がエイリアにスパイを送ってくる事は十分考えられる。
今回の盗賊退治の準備でエイリアの指揮に不満を持つ者は少なくなく(それはエイリアができるだけ不正がおこらないようにしているからなのだが)、彼らがエイリアを失脚させるためのあらさがしをする事は十分に考えられるのだ。
少女は言われてびっくりしたような顔になるが、やがて微笑んで答える。
「私はエイリア様のお屋敷で働いている侍女でサイと言います。お城にくる事はあまりありませんのでお二人にお会いした事ないのは当然ですわ。お忙しいのか三日ほどエイリア様がお屋敷に戻られていていないでなにか不足している物がないのか様子を見に来たのです」
「ふ~ん、そういえば『最近はうちに帰る暇もない』ってエイリアのやつがぼやいていたな」
「じじょ~?ホントに?」
ライサーは納得しかけるがクーは容易に納得しない。少女を足の先から頭のてっぺんまでじろじろと観察する。
―な~んか怪しいのよね。ホントの自分を隠しているって言うか。私ほどじゃないけどけっこうかわいいし、エイリアとの関係をはっきりさせとかないと。
このクーの直感はなかなかするどい。このサイは実はサスケなのだ。




