ベルトロッサ②
「あーあ。そこまで言っちゃいますか」
ベルトロッサは大げさに溜息をつくと、いつもの笑顔をおさめて真面目な顔でエイリアに忠告する。
「僕がやつらと同じ穴のムジナだったらどうするつもりだったんですか?いくら団長でもこのような暴言を吐いたことが他の騎士に知れたらただではすまないところですよ。それこそ団長の命令を全くきかなくなりますよ」
「そうだな。そうなるだろう。そして私は第二近衛騎士団長の役目をはずされるかな。そして他の上位貴族から新たな団長が任命されて見事な汚職騎士団の出来上がりだ。上から下まで一体になって不正に向って突き進むわけだ。盗賊退治の騎士団が盗賊以上に民から富を略奪して苦しめるのだ。私はここ数日で嫌と言うほど知ったよ。我が騎士団がどういうものか。その中にあってまともなものはその地位を追われるか、悪を見過ごすかどちらかだな。実際に私を追い払ってその後釜を狙っている者もいるだろうな」
そういってエイリアはベルトロッサの目をまっすぐ見る。今の君は悪を見過ごしている。そう言いたげだ。
―まいったな。こういう言い方されると積極的に汚職に加担してなかった自分も結構イヤなやつじゃないかって思えてくるよ。
ベルトロッサは自ら汚職こそしていなかったが、別に汚職をしている者を咎めるつもりはなかった。そんな事をしても無用な争いに巻き込まれるだけだし、この第二近衛騎士団では汚職は普通の事だと思っていた。自分は汚職をしていないからまあ、いいか。その程度の認識だったのだ。
ただ、こうして言われてみると「汚職は必要悪ですよ」と訳知り顔に答えられるほど自分は大人ではなかったらしい。
「・・・わかりましたよ。やりますよ。そこまで見込まれて引き受けなければ騎士じゃないですからね。その代わり危ない橋は一緒に渡ってもらいますよ」
「わかった。危険な橋を渡るときは君よりも私が先に渡ることを約束しよう」
エイリアはあえて自分をベルトロッサよりもひくい位置に置くが、
「団長の気持ちは嬉しいですけど、一緒に渡らせてください。僕は一人で犠牲になって先に危ない橋を渡る気はさらさらありませんが、団長だけを先に渡らせる事もしません。そうでなければこの話はなかったことにしてもらいます」
ベルトロッサはあくまでエイリアと対等であることを要求してくる。
「君らしいな。妙なところでひねくれて頑固だ」
「ええ。よく言われます。みんな今の団長と同じ表情で言ってくれますよ」
そういわれてエイリアは今の自分の表情を考えて、納得する。
半分あきれたような、半分感心したようなそんな表情になっているはずだ。
このあとベルトロッサの事をよく知ろうとエイリアは雑談したが、正直その人物の評価を判断しかねた。いいかげんなのか真面目なのか全く見当がつかない。つかみどころがないのだ。
「あ、そうそう。大事な事を言い忘れていました。今回の作戦であのフラハ嬢が参加してくれるらしいじゃないですか。僕にもちゃんと紹介してくださいね」
「そんなにいいもんじゃないぞ」
最後に〔女好き〕の悪名に恥じない事を示して去って行くベルトロッサにエイリアは苦笑したのだった。
ベルトロッサが出て行ってからしばらくして〔あの〕フラハが訪ねてくる。こちらはエイリアが呼んだわけではなく、自分から来たのだ。
「ね、ね。今度の作戦では私はもちろんエイリアの近くにいられるんでしょうね。だってリンクス物語の続きを書かなくちゃいけないもの」
「あれを書くのか。やめてほしいな」
リンクス物語はフラハが女性向け雑誌〔王宮の華〕に連載している恋愛小説でリンクスという上位貴族のプレイボーイが王宮の様々な令嬢たちとの恋愛をしながら宮廷遊泳術を駆使して出世していく物語で熱狂的な愛読者がいる事で知られている。
なんでもクー姫の母親である女王様や姉姫様まで密かな愛読者らしい。そしてそのモデルはどうやらエイリア・ワイトその人であるともっぱらのうわさなのだ。
そしてそのうわさが事実である事を証明するようにフラハはエイリアに取材によく来る。
「私はあんなに女ったらしじゃないぞ?」
「それはそうよ。あれは小説だもん。ちゃんと実際の第二近衛騎士団とエイリア・ワイトには関係ありませんって書いてるわよ」
悪びれずに言うフラハ。
「書くなよ。余計に関係があると思われるだろ」
―これのどこがいいんだ。
エイリアはそう思わずにはいられないが、一応ベルトロッサの事を頼んでおいた。
もっともフラハの反応は「あっ、そう」とあっさりとしたものだった。




