ベルトロッサ①
第二近衛騎士団が王から正式に盗賊討伐の命令を受けてからのエイリアは多忙だった。
盗賊討伐のための騎士団の編成準備はもちろんのこと、それ以上に初陣のあいさつ回り、ひいては高位の貴族たちに子息の安全と無事を約束しつつ、戦いでは手柄を立てさせることを依頼されるということに忙殺された。
くだらない作業だがこの第二近衛騎士団においては騎士団の編成準備以上に重要なことだった。
その合間にたずねてくるクーの相手もおろそかにできないし、第二近衛騎士団の中でも能力のありそうな者をなだめたり、その気にさせたりして使える者を増やすなど、まさにいつ寝るのかと思われるくらいの働きぶりだ。
そんな中かねてから頼んでいたベルトロッサ・リベルがエイリアの執務室を訪ねてくる。
エイリアの意図を知らないベルトロッサはにこやかに会釈をして入ってきた。
もっとも、ベルトロッサはいつも微笑んでいる。怒っている姿を見た者はいないだろうし、ちょっとでも嫌な顔をしているのを見た者すらまれだ。それはベルトロッサの心には常に余裕があるからだろう。名家に生まれ何不自由なく育った者の典型的な表情をしている。
ベルトロッサはいわゆる二枚目ではない。絶世の美女と間違えられるほど美形のエイリアはもちろんのこと精悍な男らしさがあるライサーと比べても一段落ちるだろう。しかし、例の〔王宮抱かれたい男〕ではライサーよりも上位の2位だ。上品さの中にもするどさを感じさせる不思議な魅力のある男だ。
一通りの挨拶をかわした後、エイリアは本題に入る。
「ベルトロッサ。君には今回の盗賊討伐の任務において一隊の指揮を任そうと思っている。受けてもらえるな?」
「僕よりも適任なやつがいると思いますがね。リシューとかどうです?あと、団長と仲のいいライサーとか」
団長の言葉であってもこの第二近衛騎士団では簡単に反論する。直臣をもたないエイリアには形式的な敬意を払っていても、エイリアは自分たち騎士団員の機嫌を損ねれば身動きがとれない事がわかっているので、強気に出ることができるのだ。
もっともベルトロッサの場合はそんな事は関係なく、したくない事はしたくないと言うだろう。そういう男だ。
「私は君に頼んでいるんだ。確かにリシューはわが騎士団のなかではまともなほうだが、今はまだ無理だ。ライサーは見込みがあるがまだ、実績がないからな」
「僕にも実績はありませんけどね」
ベルトロッサが反論するように彼にも実績はない。というよりも副団長であるプロビオ以外の団員は皆、実戦経験が一度もないのだ。実績などあるはずがない。よくよく考えてみればとんでもない騎士団である。
「だが、君には家柄がある。それと一隊を率いる能力もな」
「家柄はありますけど、能力なんてありませんよ。からっぽのスカスカです。団長は僕の事を買いかぶりしています」
のらりくらりといい逃れをしようとするベルトロッサにエイリアはしつこく食らいつく。
「あるさ、なくては私が困る。だからあるんだ」
「そんな無茶苦茶な。一体どんな理由で僕の事を買いかぶっているんですか」
笑顔が売りのベルトロッサもエイリアの無茶苦茶な屁理屈に少し嫌な顔をする。
「『女性にもてる』からだ」
「団長に言われたくないですね、それ。だいたい理由になっていませんよ。うちの騎士団の者で女の子にもてないヤツなんてほとんどいないでしょう?」
ベルトロッサの言うように第二近衛騎士団の騎士はみんな女性に人気がある。〔踊る騎士団〕と呼ばれているだけあってダンスが巧みで、女性のエスコートもお手の物、お金もあるし、高い階位を持っているので第二近衛騎士団に所属する騎士というだけで結婚を望む貴族の令嬢は多い。
「君がやるしかないんだ。それとも君は本気でこの第二騎士団に君以外の適任者がいると思っているのか?」
「それは・・・」
急に真面目な顔になって問いかけるエイリアに、ベルトロッサも言葉につまる。
その隙をついてさらにエイリアはたたみかけるように続けた。
「君も知っている通り、わが騎士団にはろくな者がいない。使えないだけならまだしも、何かにつけて権益、権益で不正をする事が仕事のように思っている輩が大多数だ。今回の盗賊討伐の件でもどうやって盗賊を討伐するかを考えずに、これを機会にどうやって汚職をしていかに自分が儲けるかを考えはじめている者が多くいる。私に賄賂を贈ってくる者もいるし、作戦に必要と思えない物資を手に入れるための資金をよこせと言ってくる。そんなに予算が出ないといえばやつらはこういうだろうな。民から搾り取ればいい。民を盗賊から助けるためだから当然だ、と。金が無限に沸いてくるとでも思っているのだよ。そんな連中に任せる事ができるのか?」
自分の騎士団の事をここまで悪く言わなくていけないのはエイリアも複雑な気持ちだが、ベルトロッサをその気にさせるには自分の本心を包み隠さす言う以外にないと考えている。
「私は平民の中で育ったから、彼らの気持ちがわかる。そして今の立場ではろくでもない貴族が多くいるのもわかる。不当、卑怯、愚劣、無知、無能、臆病、驕慢それらの言葉が私の騎士団の騎士の代名詞だ」
エイリアは腹にたまっていたものを吐き出すようにつづけた。ここまで言うつもりはなかったが、ここ数日の貴族達の機嫌をとるというくだらない作業がよほど頭にきていたらしい。
普段見せない勢いでしゃべり続けた。




