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それは後世にも残る伝説(笑)



家に戻ってきてから3日ほどでマルク様が帰ってきてくれたので、私は何とか無事役目を終えて安心しました。


私がしていたことといえば手紙の翻訳と計算くらいですが、それで良かったのかと今でも心配です。マルク様が翻訳の終わった手紙を見て大喜びしてくれなかったら私は後悔しまくっていたことでしょう。王子からの命令とはいえ、何で手伝ったんだ私、と。何はともあれ無事に帰れたので、問題はなかったのでしょう。


あれ以降、私が意外に使えたのか、翻訳などを頼まれる事が増えました。順調に他国語をマスターしています。

そして何度目かの春を迎えた頃には、王子はいつのまにか美少女顔から中性的で優しい風貌の美少年(……いえ、身体もいつの間にか大きくなってましたし、もう青年でよいでしょうか?)になっていました。


「リトリス嬢は今年デビュタントか?」


もう慣れた執務室での休憩中、焼き菓子を齧っていたマルク様が思い出したように尋ねてきました。


この国では成人が16と決まっていますが、貴族の社交界デビューはもう少し早めで、14から夜会に参加可能なんです。

姉は14になるや否やお父様にくっついて夜会に出かけまくって、規模や主催者問わずパーティーに出まくり、その度ドレスや装飾品を新しくするものですから普段温厚な父が珍しくブチ切れて、お父様が選んであげたパーティー以外でのドレスの新調を禁止されました。我が家の財政はそう簡単に崩れるものではありませんが、限度があります。それに、シーズンに開催される夜会にいつも出てその度に違う新作のドレスを着ている令嬢など、どう考えても浪費家です。余程の事がない限りお声などかからないでしょう。


貴族令嬢は自分が出たい夜会、出るべき夜会を数あるうちから選別してドレスを仕立てるべきですし、そもそも既存のドレスを再度着てはいけないなんて決まりはありません。私の普段使いのドレスなんかは、姉が一度着て飽きたものの中から選び侍女たちに手直し(無駄に多いフリルやレースや宝石を取り外し、必要ならば破いて形を変えるなどのリメイク)をさせたものです。


……姉の話はさておいて、マルク様がわざわざ聞いてきたのは、私が今年15になるのに未だデビューしないからでしょう。


王子は昨年から社交界に出入りしていますよ。見合いの話が舞い込みすぎて辟易どころか、捨てても捨てても送り込まれる婚約の打診の手紙を、貴族たちの前で笑顔で破り捨てて暖炉の火にくべた話は後世にも残る伝説となった事でしょう。

普通、ありえないので。王子がそんな事をするのは。


「……父は今年を予定しているようです」

「……気乗りしないのか」


私の言葉に反応したのは王子の方でした。

気乗りですか、しませんねぇ。


「……出たところで、地味な私に誰が注目しますか。可愛らしい花々が咲き誇る中に花も咲かない枝があったところで、とは思いませんか?」

「……私は徒花も好きだが?」


そうそう、王子ですが、一人称を私に変えたんです。口調も固くなりました。最初にあった頃は僕とか、素直な話し方をしていて、あれはあれで可愛かったのですが、まあ王子ですし、普通なことかもしれません。少しさみしいです。


「ご冗談を。物珍しいものが混ざったところで、気を引けるのは一瞬ですよ」

「……まあいい。目立つと困るからな」

「大丈夫ですよ。目立つ以前に嫌われていますから」

「それのどこが大丈夫なの、リトリス嬢……」


姉はどうやら奔放すぎるようで、社交界では少々有名です。……悪い方に。今はお友達になってくれた方々も、最初は私の事もよく思っていませんでしたから。デビューしたところで、世間様が私に向けるのは、嫌悪でしょう。地味な見た目も相まって、馬鹿にされるのがオチです。


「……リトリス嬢って、どうしてそう……」

「マルク、お前の妹の……サシェル嬢だったか?彼女も今年?」

「ん?あー、はい。多分?本人はリトリス嬢に合わせたいって言ってます。リトリス嬢を守るって息巻いてます」


はて。私は友人に守られないとまずいくらい嫌われているのだろうか?一体どこまで教養なしな事をしたんだ我が姉は。……呆れはするものの、やはり嫌いだとは思わない。これが家族愛によるフィルター効果というやつでしょうか。不思議。


「王子、散々黙ってましたけど、リトリス嬢の自己評価の低さは是正されないと、変な虫が付きますよ」

「……ここで言わなくてもいいだろう」


虫?……虫は嫌ですね。怖いです。いえ、彼らも生きていて、彼らなりに生きていて、それは人間と同じように一個体に一つの立派な命なので、そこを否定する気は無いし、駆除しようとは思いませんが、……見た目が怖いので、なるべく近づきたくないです。


「リトリス嬢、大丈夫。その虫じゃないから」

「……怖くないですか?」

「ものによっちゃそれより怖いけど王子の近くにいる分には安全(この王子より強い虫居ないし)」

「マルク?私を虫除け剤のように言うな」

「似たようなモンだろ。効果は局所的だけど」


虫怖い。という思考の私にとって、どうやら王子が頼みの綱らしい。普段尽くしてる分その恩恵に預かっていいだろうか。


「……王子、もしデビューの夜会に王子が参加しているようでしたら、邪魔にならない程度に近くにいても?」

「…………挨拶回りが終わったら近くにいてやる」

「ありがとうございます……!」

「リトリス嬢、"居たら"でいいのか?どの夜会に出るか言っとかなくていいのか?」

「はい。そこまでご迷惑はかけられません。王子にも都合がございましょう。ハルバートン侯爵令嬢と良い仲とのことですし、邪魔にならないよう、ある程度の時間まで居たら帰りますから」


既にデビューしてる方が教えてくださいました。と付け加えると、全力で否定されました。……侯爵令嬢自ら、婚約者候補筆頭を名乗っているのをしらないんですか?


「……そう、なのですか?

もし意中の方がいらっしゃるなら早めに教えてください。カモフラージュにするには私は地味ですが、盾くらいにはなれますから」


自信を持ってそう言ったのに、二人揃って微妙そうな顔をされました。おかしいですねえ。

読了ありがとうございます。

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