姉離れ
主人公視点で暫く進みます。7話くらいで主人公視点は完結予定。
あの日以降、姉に贈り物が届くことは無くなりました。姉にはものすごく感謝されました。
そんなある日の事、私宛で手紙が届きました。第二王子からです。呼び出しですね。
……そういえば私、家の外に出るのは本当に久しぶりの事だわ。とはいえ呼び出しは呼び出し。自分で言った宣言を反故にすることは考えていませんでしたから、きちんとお伺いしました。
「……お前地味だな」
「申し訳ございません。生まれつきのこの容姿です。姉のような華やかさは持っておりません」
「違う。……ドレスの事だ」
「……私などに煌びやかな装飾品の類は勿体無いでしょう。これで良いのです」
地味と言われたことに少し胸を刺されたような気もしましたが、どうやら王子は私の容姿を言ったのではなく、ドレスの方を地味と言ったようでした。私自身を嘲ったわけではない。それが少し嬉しかった。
「……ふん。そうだな。お前にはそのくらいが似合いだろう」
前言撤回。やっぱり地味だそうです。知ってるからいいですけど。言われなれてるし自分でも思うし、王子が性格悪いのも知ってるので、嫌味の一つや二つや三つや四つ、平気です。
この王子が以降どのようにするのかは知りませんが、せいぜい役に立ってみせましょう。
王子に呼ばれるのは多くても週に二度ほどでした。呼ばれたら呼ばれたで、話し相手をさせられたり、同じ年頃の令嬢たちのお茶の誘いを断る口実にされたりするせいでものすごく睨まれ、私自身がお友達を作るなんて状況ではなくなっていきましたが。
「リトリス、これは僕の側近のマルク」
「はじめてお目にかかります。リトリスと申します」
「はじめまして。マルクだ。やっと会わせてもらえたよ。ほー、あのアーミア嬢の妹かぁ」
「……申し訳ございません。姉のように華やかさは持ち合わせておりません」
ある日側近のマルク様を紹介されました。マルク様は私の発言に驚いてそういう意味じゃない!綺麗な黒髪だと思う。と、とってつけたように言ってくださいました。王子、ただのお世辞です。王子と同じように、地味な女だなと思ってらっしゃるだろうから、貴方の意見との不一致では在りません。睨まないであげてください。
「あー、リトリス嬢。あまり友達がいないって?」
「はい。私、容姿はこんなに地味ですし、お姉さまのように社交性がないし、……なかなか、お友達と呼べる方には巡り会えません」
「いや、別に地味痛えっ!蹴るな王子だろうが!!分かったわかった。
……はぁ。
もし良ければ、うちの妹とか友達にどうですか?」
「……マルク様の妹様ですか?……私は嬉しいですが、妹様は大丈夫なのですか?」
「もちろん。最初は邪険にされるかもしれないけど、リトリス嬢なら大丈夫だろう。打たれ強そうだし」
どういう意味ですか。それ。
理由はすぐに分かりました。何せ、出会って第一声が
「何であの慎みのない方の妹なんかと仲良くしなくちゃいけませんの?」
でしたから。
その時はまだシスコンでしたので、妹さんと言い争いをしてしまいましたが、冷静に妹さんの言った事が事実かを確認して、実際に姉は以前お付き合いしてると言った人と別れて、商家の息子と子爵家の嫡男の二股が判明したので、事実と受け止めそれについては謝罪のお手紙を送り、後日改めて会い、彼女の友人も含めてお茶をして、仲良くなりました。彼女は彼女で、私がその二股女の妹だからふしだらだっていう思い込みがあったらしいです。そこについては謝罪をいただきました。
彼女たちとお友達になり、お茶会や読書会をするようになって私の世界が広がったからでしょうか。偶にですが私は自分から外に出るようになりました。といっても、目立たない格好で自分の目で領内を見て回ったりとか、そういった……あまり人とは関わらないようなお出かけでしたけど。
その頃からですかね、姉離れしたのは。もちろん家族ですし、男遊びが激しい事や社交のためのマナーはともかくとして、教養などは全く無い姉でも嫌ってはいませんでした。
ただ、あの日、王子の初恋を粉々にしておいて良かったと改めて思いました。
「リトリス様は知識が豊富ですのに、少々浮世離れというか、情勢に疎く在りませんか?」
「……やはりそう、でしょうか。その、世間知らずなのは、分かっているのですが……」
「責めているわけではありませんのよ。ですが時には実習というか、……現場を見る?というのが、必要だと思いますの。それで、ですね……」
マルク様の妹のサシェル様の伯父様にあたる辺境伯には娘がおり、そこに泊まりがけで一緒に遊びに行かないかとのお誘いをいただき、一週間ほどそちらで楽しく過ごしました。
どうやら一人で行くのは寂しかったようなのです。それを聞いたのは行きの馬車です。帰りの馬車は別でしたから。……迎えがきたので。
「私の我儘でお付き合いいただいて……ごめんなさい……」
「いいえ。誘っていただけて嬉しかったです。……お友達と、思ってくださってるから、……だから誘ってくださったのでしょう?」
「はい!」
辺境伯の屋敷ではお茶会などもありましたが、私が薬草の本に興味を持ったので、辺境伯直々に薬草について教えてくださり、なんと調合師の方に、回復薬を一緒に調合させていただきましたの。
そこで香油の調合もさせてもらいました。とても楽しかったです。
そろそろ一週間、と思ったら、マルク様と第二王子が揃って辺境伯邸に来て、少しパニックになりました。
「……花の匂いがする」
「お昼に調合師の方と、香油をつくりましたの。匂いが移ってしまったのでしょう……」
「……そうか。いい香りだな」
「!はい。気分を和らげるお花の香りだそうです。普段使っている香油と似た香りなので、慣れない土地でも落ち着いていられます。お気に召したのなら分けますか?」
「…………なるほど。だからここ数日、落ち着かなかったんだな。お前が暫くいなかったから、香りが消えたのか」
「……え?」
……私は少々理解に苦しみましたが、聞かなかった事にしました。動悸が凄いです。一週間ほど見なかっただけなのに何故か王子がものすごく変わった気がするのはきのせいですか?気のせいですよね。そうだと言って。じゃないと、……ちょっと、期待しそうなので。
私はその日を最後に、王子と一緒にお家に帰りました。マルク様が入れ替わりでお世話になるそうです。
あ、マルク様がいない間私が執務の手伝いですか。そうですか。マルク様の休日の為に連れ帰られる。と。なる程。
マルク様の代わりですか……。まあいいです。出来ることはやってのけてみせましょう。女に二言はありません!
読了ありがとうございます。