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在りし日

第一話です。ダイジェスト版で書かなかったところまでゆっくりのったり書いていきたいです。



笑い声が外からして、私は窓からこっそり外を窺います。

家の庭では同じ年頃の子供たちが声を上げて楽しそうに遊び、笑い合っている。

その中心にいるのは、母譲りの波打つ金髪と碧の瞳の美しい少女です。


彼女は私の姉、アーミア。

明るくて、友達が多くて、綺麗で優しい人。

私に1番歳が近い、唯一の外との繋がりです。


何故私は部屋の中で本を読み、こうして時々窓の外を見るだけで、あの場に行かないのかといえば、余りに地味すぎて、姉と比べられて笑い者にされたからです。


姉はお母様に似て明るい容姿なのに、私は夜の闇のように黒い髪に紫の瞳。お父様曰く、お祖母様似なだけと言いますが、子供たちにとってはそんな事関係ありません。すぐにからかいの対象になりました。……はじめは、平気だったんです。

容姿は違っていても、姉妹なのは事実。私は姉が好きだし、姉も私を嫌っていないし、親から冷遇もされていない。「姉妹じゃないみたい」とか言われても気にしていませんでした。

……倉庫の中にあった、祖母でも私でもない女性の肖像画を見るまでは。そこではまだ疑念でした。けど、それを見つけたショックは大きくて、次第に私は、子供たちからの心ない言葉に耐えられなくなりました。

部屋に篭り気味になりました。


でもお父様たちや使用人の皆は心配するので、親が自主性を重んじる傾向にあるのを利用して、勉強がしたい、書が読みたいから部屋にいるということにしました。

もちろん、暇つぶしのために沢山本を読みました。屋敷にある本は全部。

ですが、ある日、図書室の端にあった貴族の家系図を見つけて、……私は、あの肖像画の女性の事を知りました。


お祖母様とお祖父様の間に生まれた女性で、お父様の妻だったひと。前妻です。そしてお父様は子爵家からの入婿。私はお祖母様似。つまり、私は、前妻とお父様との娘だという事でした。


取り乱すことはなく、穏やかで、妙に納得してしまいました。通りでお祖母様が現在の母親を見る目が苦々しい訳です。

……ただ、それがわかったことで、私は少々気分が塞ぎました。


流石に私の様子がおかしい事にお父様達が気付き、私は両親に、自分が知った事を話し、そして自分はどうすれば良いのかと尋ねました。後妻と姉を溺愛している父の事ですから、前妻に似過ぎている私が側にいるのは苦痛なのではないか、領地で隠居している祖父母の所に行った方が良いのではないかと。


……結果、両親は、前妻である母の事を嫌っていないし、私の事も同様に可愛がってくれているのだと分かりました。……冷遇されていないし、母親は姉が友達と遊んでいる間、私に付きっきりで本を読んでくれたり一緒に刺繍をしてくれたので、嫌われているとは元々思っていませんでしたけどね。

寧ろ黙っててごめんと泣いて謝られました。私がもう少し大きくなってから話をするつもりではいたようですが、この機会ですからと話してもらいました。

どうやら前妻である母は、父親が平民の女性と子供を作った事を知ったうえで結婚して、私を生み、儚くなったらしいです。その時父親は後妻のところに居たとか。


貴族の妻なら、愛人の1人や2人黙認する事や、お飾りの妻になる覚悟はあって然るべきですよ。本当に好きな相手なら、その幸せが壊れないように振る舞います。旦那様の愛人とその子供を、旦那様の子供として認知する許可の為に、旦那様は私と結婚したけれど、私はそれで良かった。だってお飾りでも、大好きな男性の妻になれたから。


父親の不在に憤る乳母や侍女たちに、母はそう言って、本当に嬉しそうに、笑っていったそうです。

現在の母は泣きながら、私の事も娘としてもちろん可愛いのだから、遠くに行くなどと言わないでと言ってくれました。

そして私たちは、その事実を知りながら今まで通りに過ごす事を選択しました。姉はこの事実を知りません。……両親曰く、正しく理解するほどの知能レベルでないとの事。まあ、普段勉強している様子もありませんし、ひたすらお友達と遊びまわっているので、納得といえば納得ですが。


お父様達は、私をこの家の跡取りにと考えているそうなので、折角なので期待に応えるような令嬢になるべく、自主的にマナーレッスンなどにも精を出しました。勿論、外で友達を作ったりする気にはどうしてもなれなかったので、引きこもりは改善しませんでした。

ただ、外の世界に興味があったのは事実です。姉はこの頃お友達の家に行ったりする事が増えてきて、その時の出来事とか、そういった話を私に聞かせてくれました。


姉が生き生きと語れば、私もその場にいたような気分になりました。家の中から出ないのに、姉のおかげで私は疑似的にでも外に出られたような感じがして、嬉しかったのでしょう。


そんなある日、姉が困ったように私に一輪の花を見せてきました。

つい最近、お父様が登城する際に、姉もついていったそうで、その際に可愛らしい男の子に目をつけられて、以降毎日、花やお菓子がその子から送られてくるようになったそうです。

ですが姉曰く、どこの子息かもわからないし、自分より可愛い見た目だし、なにより今、想いあっているいい人がいるから、困っていると言われました。何とかならないか、とも。


私はシスコンでしたので、何とかして見せようと息巻いて、その少年について調べ始めました。


……といっても、我が家に仕えている執事や侍女達に、姉に贈り物をしてきている相手について尋ねただけですが。


すると、その贈り主はなんとこの国の第二王子だという事でした。そんな大物を引き付けるだなんて流石姉と思いましたが、第二王子様の評判は宜しくありません。既に次の王座が決まっているのをいいことに、少々好き勝手が過ぎる我儘少年だそうで……。性格に難ありというべきでしょうか。お陰で人が寄ってこなくて、側近として宛てがわれたお友達が1人、たまに側にいてくれるくらいだそうです。

それに、第一王子の事が大好きで、彼に王位を渡すべく計画を立てていた事もあると聞きました。不安要素しかありません。


これは、姉にとっていい相手にはならないでしょう。恐らく初恋であろう王子には申し訳ないですが、その恋心を粉々にする事を決めました。


私は贈り物を届けにきた従者に姉からだと伝えて、こっそり王子を呼び出し、姉とその相手との逢引現場に連れて行きました。

幸せそうにダンスをしている2人を、私を通して茫然と見つめていました。


美少年というより美少女な彼の中で、ガラガラと音を立ててその初恋が壊れていくのを感じました。少し、申し訳ないなと思いつつも、姉を諦めてくれるならと心を鬼にしました。

そして罪悪感から、私は言いました。


「道連れが欲しいなら私をお使いください。独りが寂しいと仰るなら、地獄の底までお供いたします」


よろしくお願いします。

読了ありがとうございます。

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