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キセキの価値  作者: 字書きHEAVEN
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Ed

『それで、彼女を帰してしまったというのかね』

「ああ、悪いか」

『いや、良い悪いという話ではない。彼女が君以外のところで本物と言われてしまったらどうするんだ』

「ありえない。絶対にな。なぜなら私という頂点を屈服させずに木端な鑑定士に認められたとしても、彼らは何の満足感も得られないからだ」

『そうか、なら何も言わないよ。だがこれだけは言わせてほしい。私は何も判断を諦めたことはない。ただ、立場上次善の策に甘んじるしかないこともある。理解してほしい』

「私を見くびってもらっては困る。そんなことはわかりきっている。だがな、そんなことをわざわざ私に言うお前に、私は頭に来ただけだ。それに御堂、お前は彼らに対しチャンスを与えたんだろう。あそこまで大々的にアピールしたのは、宝石を作っても無意味だということを特定の人間たちに知らしめるため。違うか」

『さあ、何のことだか』

「まあいい。だが、今回の件で自家製品であることに気づかなかったのはお前の落ち度だ。事態を大きくしておきながら自家製品でしたとは公式発表も難しいだろ」

『心配してくれるとは有り難いね。だがまさか宝石に含まれる不純物の有無で判断する方法とは思いつかなかったよ。重心が中心にあったのもそういうことだったんだね。我々も宝石の成分のみに目が行ってしまっていた。宝石も地球という大地が作ったもの、不純物のない物はあり得ないはずだ。古い文献にも不純物に関する記載を見つけたよ。私たちはもっと過去に忘れている物を知るべきだね。勉強になったよありがとう』

 そう言って電話は切れた。

 一仕事を終えた鑑定士は自分で淹れたコーヒーを飲みながら今回のことを思い出す。

 宇宙開拓時代、人は多くのものを失った。

 それは地球での生活であったり、これまでの住居、宗教、価値観、国家等の空に持っていけないもの。

 美術品への価値観と情報もその一つだ。

 開拓のために必要な科学技術等は空と地上で多く共有されたが、美術品等の嗜好品の情報は二の次だった。

 そして結局全てを持ち出すことができず、また開拓のさなか何処かに落としてしまった。

 だが現実に人々は美術品を求めている。

 忘れてしまったものを思い出すため、その記録を忘れないため。

 それを守る自分たちの鑑定士としての価値はなんと偉大なものなのか。

 人々が生きる限り、我々は求められるだろう。

 それが空に移民までしながらも過去を忘れられない人々が選んだ現実なのだから。

 コーヒーをもう一度口に含む。

 元気と設計図のカタログを暗記する事だけが取り柄の下っ端が淹れたコーヒーよりもずっとおいしい。

 だがやはり自分で淹れた物は慣れてしまったのか味気ない。

 毎回味が違うコーヒーの方が刺激があっていいと感じた。

 明日は、コロニーの修繕のため大型プリンタが破損箇所にドッキングするらしい。

 印刷時間は一日足らずだが、コロニーに直結した大型プリンタの騒音は社会問題の一つだ。

 明日は仕事にならないだろうから休業にしよう。

 そう考えて、明日は休業とアルバイトである我妻に連絡を入れ彼は床に就いた。

 次にやってくるだろう新しい刺激を待ちながら。

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