8, 鉱山都市
のどかだね~
俺はタバコを咥えて周りを見渡す。勇者たちはゴブリンと戦闘中だった。勇者は相変わらず猪突猛進で一人奮起しているし、神官はボーっと突っ立ってるだけ。それを必死に庇っている姫騎士と、何か喚いている魔導師がいる。
魔導師の挙動がおかしい。
「お~い。火は禁止だぞ~。」
「うっさいわねー!」
「ギルドにチクるぞ~」
「クソォォォ!」
女性が出すような声ではないと思うが、みんな必死のようだった。
戦闘が終了してそれぞれ馬車へと戻って来た。勇者は嬉々として、女性たちは疲労困憊で。はっきり言ってチームとしての価値がない。
みんな馬車に乗り込んだのを確認し進ませる。次は鉱山都市ボイソルのはずが寄り道中だった。事の発端は途中の村でお願いされてしまったから。ゴブリンの巣の退治を。本来なら受ける必要はない。領主かギルドに依頼すれば済む話しだが、ポンコツ勇者が引き受けてしまった。それも無償で。
庶民に罵声を浴びせられたのがよっぽど堪えたのか、点数稼ぎみたいに無償で受けてしまった。ここ大事です。無償で受けてしまった。こんな前例を作ると需要と供給のバランスが崩れてしまう事に気がつかないポンコツたちです。
これね、冒険者だけでなくこの村にも悪影響なのがわからない、そんな勇者一行です。村の未来が見えた気がします。
簡単ですよ。まず村の態度は無償ありきで今後ギルドや冒険者に交渉するようになる。次にギルドは低料金の依頼は受理しないし、冒険者だって安い報酬だと受けない自由がある。結果、もし村の連中が依頼料の話しを出した瞬間に孤立することになります、っとこんな感じですか。
いやー、勇者は罪作りな存在ですねー。あいつほんとに勇者なのか?
それと気になるのがゴブリンの中に上位種が紛れているみたいなんですよねー。ポンコツたちで上位種が倒せるのか?甚だ疑問ですねー。
お?またゴブリンが出て来ました。お手並み拝見です。ーーーだって、手を出すなっ!とか言われちゃったし。俺はタバコに火をつけポンコツたちの様子を伺っていた。
「今日はもう休憩しようか?」
だって、みんな、満身創痍で魔導師なんか人目も憚らず大の字で転がってるし。最近、魔導師は女を捨てたみたいな行動をするようになった。たぶんこれが素なのでは?
「まだまだー……」
て勇者は言ってるけど、周りを良く見てよ、もうちょっと彼女たちに優しくしてあげて。誰も勇者を見ようとしてないでしょ。
「はいはい。今日はここで野営しま~す。」
パンパンと手を叩きながら言う。勇者以外は安堵した表情で準備を始めた。
翌日になって情報のあったゴブリンの巣がある洞窟を見つけた。いやー、最後まで馬車が来れてよかったー。馬を置いて行く訳にもいかないし、俺が残るのもまずい。なにせ護衛ですから。
取り敢えず勇者一行が進んで行く。って、もうちょっと警戒しなさいよ。なんで普通に固まって行くの?ゴブリンだけでなく上位種が居るかも知れないんだよ。見てられないよ。
俺は直ぐに後を追って行くが、やっぱりかー。ちょっとの間で勇者一行は蹂躙されていた。早いよ、やられるのが!
俺、最近思うんだけど、勇者たちって、テンプレの塊だと思うんです。今も……ありゃ?……勇者の腕、折れたね。魔導師も火使ったらダメって言われたのに、バンバン飛ばしてるし。意外と姫騎士は突撃はしなかったみたいだ。
もう限界みたいだ。
俺は上位種に向かって走る。以前遭遇した時は恐怖の対象だったけど、なんか、今更な気がして来た。まずは片足に切りつける。だって背が高いから首まで届かないし。バランスが崩れた上位種は地面に倒れる。で、首を落としたっと。
討伐証明部位の耳と魔核を抉り出して袋に入れる。
「みんな帰るよ~」
さっさと馬車まで移動した。全員が揃うまでかなり時間が掛かったが、まあ負傷した者の手当てなどで大変だったんだろう。
夜までには村に帰り着いた。討伐の証明を見せて完了した事を報告する。村の連中は厚かましく上位種の魔核を欲しがったが、渡す訳にはいかない。その様子を見るだけで、村の未来が見えた。クギを刺すか迷ったが、他人の事だから無視をした。欲を出さない事を祈ってます。
村で一泊して翌日、やっと鉱山都市へと向かう事が出来た。
鉱山。俺の目的の為にも必ずや情報を手にしてみせる!安直な考えで、鉱山なんだから、金山も知ってるのでは?みたいな事です。
そして、ついに、とうとうやって来ました鉱山都市。……の割には、なんか寂れてないかい?街も閑散としてるし、人も少ない。取り敢えず宿屋を確保してギルドへと走った。
驚愕の事実です。鉱山は何百年も前に閉山してました。今では街ではなく、村の規模でしかないのです。本来ならギルドも閉鎖するはずが、鉱山が負の遺産となり、魔物が巣食ってしまいその管理の為にギルドが残っている。
危険ではないか?と思うでしょうが、何故か魔物は奥へ奥へと入って行き出て来ないとか。まるで魔物ホイホイだよね。ーーーとなると、たまに居るよね。アホな奴。やっぱり居ました魔物に挑戦するアホがー。
結論から言うと、入った奴は二度と出て来れませんでした。なんでって、入り口と出口は一緒だよ。自分たちだけでなく、後から後から魔物が入ってくるのに、出て来れなくなるのは当たり前じゃないですか。
うちの勇者もアホでした。ビンタで止めましたよ、面倒な事になる前に。
俺は諦めずに情報を求めて街を奔走した。やっぱりおかしい。なんか記憶を消したみたいに、誰も知らない。クソは世界に変化を求めてるはずだけど、知識や技術が伝わって居ないのが理解できない。
10000年経って世界の在りようは変わった。でも、進歩はしていない。ーーーこれは関わり合いになるのはまずい気がしてきた。
そんな事を考えながら宿屋へと帰ると、テンプレが起きていました。
「大変です!ゆ、勇者様が、鉱山へ行ってしまいました!」
泣きながら姫騎士が言ってきた。その隣には神官の少女もいた。
まあよかったよ。姫騎士がアホな子でなくて。ギルドであれだけ口を酸っぱくして言い聞かせたから、姫騎士は残ったのだろう。ちらっと神官を見て、うん、コイツは置いて行かれたんだな。
俺たちはギルドへと向かう。どうやらギルドでも騒ぎになっていた。
俺たちが来る10日ほど前に5人の若手の冒険者チームが街へと来た。最初から鉱山が目的みたいで、ギルドの職員が散々止めたようだが何度か鉱山入り口付近に行ったみたいだ。結構危険な目に遭ってたようだ。そこに勇者登場だ。
いやー、バカだアホだと思ってたけど、とうとうやっちまった。
ギルドも普通の冒険者なら諦めるが相手が勇者なんで対応に苦労していた。早くしないと、どんどん奥へと押し込まれてしまう。
俺?俺には関係ないし、俺は姫騎士の護衛が仕事ですから。しかも、俺はDランクです。指名は受けれないのです。
鉱山を管理するだけの人員しか居ないギルドに、魔物の巣窟へと向かえる冒険者が居るはずもない。ハトや馬を飛ばして応援を要請したようだが、軍隊が来ても無理だろうね。俺たちに行える事はないので宿屋へと帰る。
神官は俺を見ては何か言いたそうだったけど、敢えて俺は無視した。冗談じゃない!迷惑だよ。
3日後、神国の王様から依頼が来た。救出要請だと。ギルドからも人が来て同じ事を言う。
俺はギルドへ向かい、報酬の話しをした。生きていても死んでいても、ギルドから金貨5000枚、神国に5000枚払うようにギルドから要請することを書類に残させた。だいぶ渋っていたが、結局了承していた。ーーーと言うより、約束を守る気がないのは見ていてバレバレだ。
まあそれならそれでいいさ。
俺は1人鉱山へ向かう。
「おーい、ポチー。出て来いよー。」
「なによっ!今までほっといたくせに。」
あー、機嫌悪いなー。ほっとくも何も自分で消えてたくせに。ウゼェなー。
「悪かったよ。ごめんって。」
ポチは目も合わさずプンプンしている。
「頼みがある。ガソリンを有りったけ出してくれ。迷惑な穴を吹っ飛ばす。」
「へー。なんか面白そー。」
ちょっと機嫌が直ったみたいだ。
「気化爆弾ね。いいわ、私がガソリンを撒いてあげる。」
「おー、頼むぜ。ド派手にやってくれよ。奴らが約束を守る気になるように。」
「まっかせなさいっ!」
そう言ってポチは鉱山内へと飛んで行った。
「さて行くか。」
俺も鉱山内へと足を踏み出した。
ヘッドライトを頭につけ鉱山を歩く。前方にはあまり魔物は居ない。その代わり、魔物は半端なく強い。後ろからはひっきりなしに魔物が入ってくる。取り敢えず、今は先に進む。
途中、喰われた冒険者の亡骸が転がっていた。まだ新しいので件の冒険者だろう。もう半日は進んだか、魔物は見つけ次第斬り殺す。
もう一日経ったか。だいぶ奥まで進んで来た。
「おまたー。」
ポチがやって来た。
「あっちに居たよ。なんと、まだ生きてました♡」
「まじかっ!?」
「マジマジ♡」
ポチに案内されて行くと、勇者がいた。もう一人冒険者がいる。だけど魔導師の姿は見えない。喰われたか。
勇者は虚ろな目で俺を見ていた。もう一人は右足がないし、出血量からして長くないだろう。
「おい勇者、立て。帰るぞ。」
無理矢理引き起こし立たせる。そして歩き出す。もう一人の冒険者は放置した。勇者はただ黙ってついてくる。
「ポチ、仕上げにばら撒いてくれ。」
「ホイホ~イ♡」
ポチはガソリンを撒きに行く。俺たちは出口を目指して進む。勇者がへばっているせいで、なかなか進まない。急がないとガソリンが気化して窒息する。
概ね一日掛けて鉱山から出て来た。もう魔物の数が煩いの何の、さすがに嫌になる。
鉱山の外にギルドの職員や軍隊に姫騎士たち総出で出迎えられた。神官の少女が勇者に抱きつき泣き叫ぶ。姫騎士はオロオロして右往左往していた。他の連中は俺たちが出てくるとは思ってなかったような顔をしている。
「はーい、みんなー。さがって、さがってー。」
俺は鉱山から退避させる。充分な距離を稼いでから、ポチが用意してくれた火炎瓶を取り出す。いい具合に穴から蜃気楼が立ち籠めていた。俺は火炎瓶に火をつけ入り口に向けて投げた。
ドッグワアァァァン!!!
山が潰れた。
俺たちは結局、神国には行かないで帰国することになった。勇者と神官は神国からの迎えが来るまで待機するようだ。魔導師の姉ちゃんは惜しい事をした、が責任は勇者が取るべきだ。ーーーもう勇者とは名乗れないだろうけど。
4ヶ月近く掛けてきた道のりも、帰る時は20日で済んだ。
姫騎士にとって、どの程度社会勉強になったのか、俺には分からんし、責任は取れない。今後に期待かな。
許せない相手が居る。ギルドだ。やはり反故しやがった。予想してたので鉱山を潰した。あれだけ集まって来る魔物の脅威を感じていなかったのは、鉱山に吸い込まれていたに過ぎず、これからは溢れる魔物の駆除に忙しいだろう。なにせ、産物のない地に予算を食う魔物退治。ご苦労サマ。
今回の旅の目的は半分しか達成できなかった。金山の情報はあぶない匂いがするので保留にする。ギルドは、黙っていても既に悪評が走り出していた。ざまーみろ!
ちらっと聞いた話しだと、Bランクを希望する冒険者が激減して、討伐オンリーしか受けない者が増えたそうだ。今、Bランク以上の冒険者はカスばっかりとか。また別の噂だが、ギルドの指名依頼の達成率に生還率が50%を切ったとか。まあいいんでないの?カスの冒険者が淘汰されて残るべき者が残れば。
そうそう、俺にCランクになるよう言ってきたが丁重に断った。しつこいよギルドは。
そして王都にたどり着いた。これで俺の仕事も終わりだ。