6, 指名依頼
まーた偉そうな態度で……でも、待てよ?礼をしてくれるなら、お金がもらえる、かも?俺には金がいる。ならばと揉み手をするが如く、平身低頭で従う事にした。
偉そうなオッさんは俺の態度に戸惑い、不気味に思いながらも領主館へと連れて行ってくれた。
領主館は……まあいい、興味もないのでスルーです。中の応接間に、のじゃとオッさんとおばさんがいた。
「改めて礼を言う。妾はフレデリカ・バーレギオン。この王国の第1王女じゃ。」
ドヤ顔で自己紹介してくれたんだが、俺は今、お金の事しか考えていないので、反応が薄い。それが若干気に要らないようで不機嫌そうな表情を見せていた。
それを見て笑いそうなのを堪えて
「私はフランソワ・オーディよ。辺境伯でこの地の領主をしているわ。」
40代くらいのおばさんが自己紹介をしてくる。偉そうなオッさんは何も言わない。俺も聞く気がない。
「俺はソウタです。冒険者ランクはDです。」
ニコニコしながら愛想笑いを振り撒く。なんたってお金の為ですから。
俺の態度に違和感を感じたのか、訝しげに見てくるのじゃ姫。俺はそっと顔を背ける、がのじゃ姫はあからさまに視線を合わそうと身を乗り出す。俺は視線を合わさないようにあっちを向きこっちを向きと努力した。
のじゃ姫は諦めたのか座り直す。
「なんか変じゃ。」
変で結構、早く金をくれ!
「気持ちわるっ!?」
のじゃ姫はカラダ中を摩り嫌悪感剥き出しで俺を見てくる。俺はニコニコと笑顔を貼り付けたまま
「ほっとけ、のじゃ姫。」
つい、本音が漏れてしまった。そんな俺を見て領主様が「ヴフッ!」と吹き出した。後はお腹を押さえてコロコロと笑い、のじゃは唖然とし、オッさんは憮然と睨んでくる。
しまった、と思い言い直そうとしたが時既に遅しで、俺も椅子に座りなおした。
「あなた最高ー。王女を相手にのじゃ姫って。だよねー、のじゃって可笑しいよね。」
領主様は更に笑い転げて居た。ーーーどうすんのよ、これ……収拾つくのか?
ひとしきり笑い転げた領主様は、今だに思い出し笑いが止まらない様子で苦しそうにしている。のじゃ姫はそんな領主様をほっといて話し始めた。
「王国内に裏切り者が居るようじゃ。」
真面目な話が始まったが、横で「ヴフッ」とか「ヒハッ」とかされて締まらない。よっぽどの笑い上戸なのか、のじゃ姫は諦めた顔をして領主様を見ていた。
やっと落ち着いて話しが再開された。
「王国内に裏切り者が居るようじゃ。」
「ブッ」っと吹き出す領主。慌てて手で口を塞ぐ。別に笑いを取ってる訳ではないのに、いい加減にしろよおばさん!
更に仕切り直して
「妾が狙われたのは獣人連合の密偵じゃった。それを手引きした連中がおる、が証拠が無い。残念じゃ、あたら兵を死なせた。」
のじゃ姫がなぜ此処に居るのか。それは裏切り者を炙り出す為の行動だった。
そんな話は俺には関係ない。金だ、金をよこせっ!俺はニコニコと笑顔を作り、待った。報酬の話しが出るのを。
「そこでじゃ。お主に依頼がある。」
俺の顔がみるみる能面に変わる。
「妾の妹が勇者と行動を共にする。その護衛をしてほしいのじゃ。」
俺の視線が冷たくなったのを感じたのか、目の前の二人も、またオッさんも息を飲んで固まる。
俺はタバコを出して火をつけ深く吸う。そして溜息と共に大きく吐き出す。ーーーやっぱり面倒な事になった。天井を見上げ延々タバコを吸う。そんな俺をみんなはただ黙って見ていた。
タバコを吸い終わり王女を見て
「それはギルドへの指名依頼ですか?」
「そうじゃ、ギルドへは要請しておる。」
「俺はDランクだと言うのは知ってますよね?」
「ランクは知らんが、お主を指名したのは事実じゃ。」
あー、タチ悪いなー。ギルドの規約ではBランクから指名出来る事になってるのを、知ってか知らずか無視したんだな。これではギルドも断れないか。
「王家からの命令じゃ。」
更に地雷を踏んだかー。結局、上からしか見れない奴なんだ。もうこいつとは関わらないと決めた。王家の命令にギルドの指名だと拒否出来ない。めんどくさー、ほんとめんどくさい。
王都へは3日後に出発となった。
ギルドへ行くと、やはり指名依頼だと処理された。ギルドは理解してるのか疑問に思う。あれほどルールがと言ってた組織が前例を作った事に。まあ現代だと大問題なんだが、所詮異世界だし、気にもしてないのだろう。俺の中でギルドの信用度は無くなった。
王都へは馬車で移動する。王女と一緒に乗せられた。10日の移動だが、一度だけ盗賊に遭遇する。騎士団で対処したみたいで俺の出番はなかった。
王都へと到着し、後日迎えを寄越すと言われて宿屋に放り込まれる。まあいい、今は気持ちを落ち着かせる時間が欲しかった。見たくもない、話したくもない奴と10日間も一緒の馬車で過ごしたから、俺の精神が悲鳴をあげていた。
2日後に王城から迎えが来た。俺はそれに従いついて来た、が、着いた場所は訓練場のような所だった。
「君かい、護衛に任命されたのは。」
うわー、出たよ、テンプレ的な状況。
俺より年上に見える優男が木剣を二本持ってやって来た。取り巻きには白いローブを着た少女と杖を持った黒い服を着たちょっと年上の女性が居た。その横には王女とオッさんにもう一人鎧を着た少女もいた。
優男は木剣を一本、俺に投げて
「護衛としての腕を見せてくれるかな?」
とか言いながら、ハハハと笑っていた。俺は大きく溜息をつき、一応王女に視線を移して
「どこまでやってよろしいのですか?」
俺の冷めた、いや凍えそうなほど冷たい声でお伺いを立てた。王女は一瞬躊躇したようだが
「好きにしろ。」
と言った。了解は得た。好きにするさ。
俺は木剣には目もくれず、ただ真っ直ぐ優男に近づき左手で奴の剣を握っている右手首を掴んだ。そして顔面を殴る。掴んだ手首は離さない。更に殴る。ガードしようと腕を上げてきたので今度は足をかけてひっくり返す。宙を舞い背中から地面に落とし、直ぐに引き起こす。また顔面に拳を振るう。
もう涙と血反吐でベタベタだった。次に宙を舞った時にはうつ伏せに落としそのまま腕を決めて首の上に膝を落とす。ゴキッと音がして腕が折れた。
やっと回りの連中が止めに入ってきたが、既にことは済んだ。腕を解放してやり俺は後ろへ下がる。
「以上です。」
俺は冷めた目で王女を見ながら言った。
白いローブを着た少女は回復魔法を優男にかけながら俺を睨んで
「どうしてここまでする必要があったんですか!?」
と間抜けなことを叫んでいた。
「弱いから?」
俺はしれっと煽ってやる。
「弱いって、勇者様ですよ!」
「紹介されていません。勇者様がこんなに弱いとは知らず、申し訳ない。」
更に煽ってやる。
「なによアンタ、失礼ね!」
「どちら様ですかね?」
「私は魔導師のマーリンよ。調子にのるな!」
「それは申し訳ない。」
「このッ!」
と言って魔導師は火の塊を作る。回りが止めようとするが構わず火の塊を俺に投げた。
「燃えてしまえ!」
俺は次元刀を抜き振り払う。火の塊は霧散して消えてしまった。
「なっ!?」
とか驚いている魔導師の顔面を蹴り上げて吹っ飛ばす。
「そこまでじゃ!もうよい、止めるのじゃ。」
その日はお開きとなり、俺は宿屋へと戻って来た。いや~俺も容赦がない、と少し反省しようかなと思ったけど、思っただけで終わった。要するに後悔は無い!
それにしても、勇者って弱すぎ~、もうちょっと抵抗するかと思ったんだけど。あんまり弱いから見せ場を作る暇もなかった。そこは反省です。
それから5日後にまた王城へとやって来た。今度は応接室に通される。
部屋には勇者一行の3人と王女にオッさん、それと鎧を着ていた少女がいた。俺は部屋に入り勧められた椅子に座る。ーーーなんか、視線が痛い。俺を睨んでいる勇者一行。
仕方ない。もっと煽ってやろう。
「お怪我は大丈夫ですか?勇者様と知っていれば手加減できたんですけど。あっと言う間に終わってしまい、大変申し訳ないです。」
と言って爽やかな笑顔を見せた。ーーーおおお、いい顔してんなぁ、みんな睨む睨む。俺が勇者達と遊んでいたら王女が口を挟んできた。
「その辺にせよ。お互い遺恨を残すでない。」
俺に遺恨は無いですよ、ただ鬱陶しいだけです。と言ってやりたいが我慢した。なぜかと言うと、俺が口を開き掛けたら王女が睨んで来たからだ。仕方ない、黙っててやるよ、はっ。
それからは、無理矢理自己紹介が始まり、勇者がレオニード、神官のイルミナ、魔導師のフィアナ、そして第2王女で姫騎士のエスティリカが勇者パーティになる。
しかし勇者って、何と戦うんだ?魔王と言うか、魔族は存在しないんだろう?それに……勇者ヨワッ。とか思いながら勇者をチラ見したら、もう顔を真っ赤にして睨んでいた。そんなに力を入れると脳の血管が切れちゃうよ。
次に護衛内容の話し合いだが、依頼主が王女だから護衛対象もエスティリカ王女のみとなった。勇者達3人は自ら護衛を辞退していた。
「あのー、宿屋とかはどうすんですかね。」
「そこは出来る範囲で構わん。」
護衛期間はおよそ一年。神国への旅が目的っと。報酬額を聞いて呆れてしまった。一年で金貨100枚。
「あのー、桁を三つ四つ間違えてませんか?」
「100枚では足らぬか?」
そりゃ一般庶民なら多いかも知れないが、俺は冒険者だし、イノシシ一頭で金貨1枚だよ?
「俺、3日で金貨10枚稼ぐんですが……」
「なんと!?そんなにか!」
バカにしてんのか?
「断ったらダメっすか?あまりにメリットが無いんですけど……」
俺の稼ぎに驚いているが、俺だから出来る事だし、仕方ないのかなぁ。だけど、面倒ばっかりで美味しくない仕事をしないとダメなのか?溜息ばかりついている。
途中、財務の人が来て金貨300枚で決まった。
と、言う事で王都を出発しま~す。目指すは神国の首都、ヘテカで~す。
ヘテカまで行って帰るのに2ヶ月は要らないけど、社会見学を兼ねているので1年間の漫遊記になります。今は馬車での移動で御者に自ら志願しました。だって雰囲気悪いもん。村は避けて街に滞在しながら、のんびり旅を続けたいと思います。
最初の街では珍しい事がないとかで一泊しただけで通過しました。どう言う基準があるのか知らないけど、社会見学なんだから、もっと積極的にやれよ。と、この時は思っていました。ほんと、ウザいなー、コイツらっ!
王都からおよそ20日の距離にある、広大な穀倉地の街、ベンゼルに辿り着きました。次の街へは森を抜ける道しかない、ちょっと変わった地形です。
広大な平地と広大な森。その為、動物…はもう居ない…魔物が沢山いて冒険者の仕事には不自由しません。魔物の氾濫も偶に、結構、頻繁に起きます。冒険者だけでなく、大規模な軍も駐屯しているので王都の次に人口が多いです。
今から言います。ここでは散々な目に合います。頼むから勘弁してください。
それでは次回をお楽しみにね。