4, 1200年
ポチと言う女が拗ねた表情で話し始める。
「まずは自己紹介ですかね。私は神の使徒でポチと言います♡」
「元魔王のエリザベスです。」
「元エルフのマリアンよ。彼女はステラ、訳あって精神と肉体が離れてるけど……今は聞かないで。」
15,6歳の成人したての赤い髪に金色の瞳の少女が元魔王エリザベス。20代半ばの銀色の髪に青い瞳の女性が元エルフのマリアン。そして、金髪の外人がコスプレにハマってるような女が神の使徒のポチ。エリザベスより年上に見えるステラと言う少女は真っ白い髪に青と金色の瞳で左右が違う。
「えー前回は異世界転移でエージさんを呼んだんですが結果がイマイチでして、今回は転生物で攻めてみました♡どうです?楽しんでますか♡」
「……」
「前回の反省点で異世界への接点を増やす為に肉体を現地のものにしたんですが……やっぱりダメでした。てへ♡」
俺は唖然として身体が震える。怒りなのか呆れなのか、理解出来ずに頭の中から身体全身に至るまで震えが止まらない。他の二人は呆れた表情でポチを睨んでいた。
「いや~マナが定着しないんですよ。不思議ですねー、なんでですかねー……」
痛いほどの沈黙が空間を支配する。俺も、どんな顔をしているのかわからない。
「お、オホン。……」
俺の前にエージと言う人が転移してこの世界に来た。理由は淀んでしまったこの世界に変化をもたらす為。だがエージの性格か現代の価値観のせいか全体の流れを変えられなかった。また、彼女たちの境遇に感化されて思惑と違う行動をしてエージは消滅、ステラと言う少女は魂が剥離、現在に至る。
1200年前の話だ。この世界に変化はない。ただ状況が変わっただけ。
一番影響があったのは、魔法だ。この世界には精霊魔法がある。いや、あった。精霊の声を聴き精霊の加護の元、世界に干渉して精霊魔法が発動する。だがヒト種は精霊の加護を受けられなくなった。その為独自に魔法を開発した。それが独自魔法と言う。この世界に精霊魔法と独自魔法の二つが存在する事になる。
ヒト種が使用する独自魔法には精霊の代わりに触媒が必要になる。ここで1200年前に起こった悲劇、必然、その結末に至る話しが始まる。
精霊の声、精霊の加護を受ける事が出来る種族はエルフや魔族など魔核がある者たちに限られた。ヒト種も本来、魔核があったが精霊の怒りで失った。独自魔法の触媒の正体は魔核だ。
ヒト種は魔核を確保する為、エルフも魔族も狩り尽くしもうこの世界に存在しない、絶滅してしまった。
魔物の上位種。本当は存在しない。ではなぜ?簡単だ、精霊が変異して魔物に核を与えたからだ。もう誰も精霊の声を聴けない、加護を与える存在が居ない。その為精霊の存在意義が失われ膨大するマナを消費する為に魔物と融合し始めた。
精霊の加護を失い、また魔物が凶暴化する。全てヒト種の自業自得だった。
これが1200年後の状況だ。
神は誰も庇護しない。ただ変化する世界を望む。だから肯定も否定もしない。ーーー彼女たちの存在は?
エージのとった行動の影響で、エージは消滅しステラの精神は消滅を選択、マリアンとエリザベスは躊躇いこの世界に残った。その際に加護を受けていた精霊神と融合してしまい世界の理から外れる。4柱の精霊神が消えた為、精霊が暴発した結果とも言える。
「詰んでんじゃん……」
思わず声が漏れた。
欠陥商品を渡され、それをモニタリングしろと。どこのクソゲーだよ。
「そうなんですよ。もう滅亡しかありません。」
ドヤ顔で答える神の使徒。
「はぁー。もう帰ってもいい?元の世界に帰して。」
「無理です~。あなたは既に死んで……エッ?死んでなかった?……ん?」
神の使徒、ポチは手帳を取り出し中を見ていた。
「あー、死んでないです。……!?どうりで!あなたに干渉し辛いと思いました!」
なるほど、と一人納得して盛り上がる。
なんなん?神さまって……ポンコツばっかやん!!俺は帰れるの?これからどうすんの?ん?ん?
「あはは……結論から言いまして、その、転生してしまった為、新たな人生を、その、あの、……あはは」
「バカヤローっ!!バカだろ、ねぇっ!?ねぇっ!?ポンコツヤローっ!!」
はーはーと荒い息を吐きポチを睨む。
「ヒィィーッ!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
茹だった頭では考えがまとまらないぃぃぃ、クソォォ!!
「俺はなに!?狙い撃ちされたの?それとも特殊な能力でもあるの?」
「あ、それはないです。偶々ですね。宝くじにでも当たった、みたいな?」
「……ッ!?」
言葉も出ない。怒りが頂点を超えると人間って放心してしまう、みたいだ。あまりに力が入った身体は震え、痛くなり、悪寒がし始める。ふらふらと椅子に崩れ落ちる。
神は世界を存在させ継続させていくだけで、中身までは頓着しない。正にその通り。
俺はタバコに火をつけて思いっきり吸い込む。そして大きく吐き出す。そんな俺にはお構いなく彼女たちはポシェットからお菓子やジュースを出して賑やかだった。
「ポチが来てよかった~。アイテムBoxが使える様になってラッキー!」
「久しぶりね~、やっぱ美味しい!」
「そうですか?そうですか?だったら繋げときますんでご自由にどうぞ~♡」
どうすんだよ……こんな終わった世界で、しかも同族も居ないのに。犬や猫みたいな感覚しか持てない連中しか居ない世界で生きていく自信も覚悟も持てない。ゲームやアニメの世界では当たり前なのかも知れないが、現実的にはあり得ないです。
喋る犬と恋愛したり交尾するか?俺は嫌だ。絶対嫌だ!目の前の女性たちは人間に似た感じはするが、既に人間辞めてる存在だし。ーーーあーどうすんだよー……
「ウマッ!?何これ?新作?」
「エヘヘ♡自慢の新作ですよ~♡」
「ちょーだいちょーだい!」
「…!…!?」
こめかみがピクピクと血管が浮き出るほどに痙攣する。
「お、ま、え、ら……」
言葉にならないほどの怒りが滲み出る。そんな俺に気づいたのか彼女たちの動きが止まりジーッと俺を見ていた。
「ま、まあまあ……これ食べますか、ソウタ、くん?」
ポチがお菓子を俺に渡してくる……が、その手は震えていた。俺はそのお菓子を受け取り口に入れる。なに?ウマッ!これ食った事ないヤツだ!ーーーって、そうじゃないだろ!?
「これからどうすんだよ!?それに、アンタラはどうすんだ?」
「どうもしない、かな。」
元エルフのマリアンは言う。
「このままでいい。」
元魔王のエリザベスも関心がないみたいな態度だ。
「もう私たちの種族は存在しないから、この世界がどうなっても関係ない。滅ぶなら私も滅ぶだけ。」
マリアンの言葉にエリザベスもウンウンと首を縦に振る。
「それにこの娘もほっとけないし。」
彼女たちは、既に完結している。それは、そのまま尊重するしかない。だけど俺は?俺はどうする?ーーーだよなー。どうしようもないな。見たくもない連中の中で生きていくなんて御免だな。
「俺も此処においてくれないですか?」
俺を優しく見てくれる二人と……そうでない一人。
「えー、それは、無理?かな……」
俺は神の使徒、ポチを睨んで
「なんで、もう終わった世界だろう。最後くらいほっといてくれよ。……頼むよ。」
「ソウタさんには次に行ってもらう事になりました。」
俺の意思を無視して空間が歪む。なにを言っても、どんなに抵抗しても利用されるだけなんだな。……やっぱり異世界なんてクソだ。こんなものに幻想を抱いてるヤツに声を大にして言ってやりたい。ーーー現実を見ろ!!
あの大木の下にいた。
森の先に壁で囲われた街がある。
「おいっ!……別の世界じゃないのか!?」
「えー、次のせ、ヒィィーっ、やめて、やめて、説明しますから!待って待って。」
俺は次元刀を振り回した。
「こ、此処は10000年後の世界です!」
俺は木の根に腰を下ろしタバコに火をつけて……森の奥を見て溜息をつく。もう彼女たちの元には辿りつけない事が分かってしまう。どんな森でも奥に行くと漂っていた不思議な感じが無くなっていた。マナと言うのを理解してないが、マナが薄いのが感じられた、から。
「一応ですけど、エリちゃんたちは存在しますよ。目に見えない感じるだけの世界として、永遠に存在し続けます。」
業の深い事だ。彼女たちはこの世界の一部となることを、望んだのか、強制なのか俺にはわからない。どうせ神とやらの仕業に違いないが、それよりも、なんで10000年も経ってるんだよ。滅んじまえよ!なに生き残ってんだよ!
「ま、街へ行ってみましょう。なん…」
「嫌だっ!!」
「えー、どうして?」
「お前らの言いなりにはならんっ!!」
俺はポチを睨みつけ
「俺は一生引きこもる。なにが異世界だ。奴隷少女100人でウハウハハーレムか?俺はラブドール100体でハーレムを作る。だからラブドールを出せっ!引きこもってオナニー三昧だっ!!ヒャハハハァー!」
虚しい……虚しすぎる。なんだその目はっ!そんな目で俺を見るな!
トボトボと森の中に入り良さげな場所にテントを張る。その夜はスマホを弄りながら眠りについた……結果、朝を待たずに魔物の襲撃でテントは破損。魔物は殲滅したが匂いが気になり場所を移動する。
次は洞窟を発見。調査の結果何も居ないのは確認した。確認したんだ!……だが、洞窟は放棄した。だって蜘蛛が、虫の化け物が沢山……
次は川のほとりの林の中でプレハブ小屋を建てる事にした。プレハブの承認に2日もかかったが、大丈夫。気にしない。一人だから3日もかかったプレハブ小屋建設。ついでに風呂を作ろうと僅かの間留守にしただけで、野盗の群れに占拠され使用不能になる。
また、あの大木の下、根に腰を下ろしタバコに火をつける。
「おいっ!」
「はい♡」
ドスの効いた声が出る。
「ワザとやってるだろう。」
「えー、そんな事は無いですよー。ただレポートは提出してますけど……」
溜息をつくが、更なる悲劇が俺を襲う。
「それと~、予算が尽きたのでBox内の商品が入荷しません。今あるもので終わりになります♡」
「……」
食べ物も服も依存していたが、特に食べ物は困る。マナの関係でこの世界の食べ物には味がしない。
「ラブドールは……?」
「まだ言ってんですか?あんな高額商品、予算が通る訳ないでしょ!」
ポチはジト目で睨んでくる。ーーーいや!マテマテ。予算って、お前のコスプレ衣装にも金掛かってるよね?
俺がジーと見つめると、ポチは目をそらした。
「やっぱりか!?お前も予算を食い潰してんじゃん!」
「えー?お互い様ですぅ。」
「ふざけんな。だいたいお前、生き物じゃないやんか!食う必要あんの?」
「ひっどー!なになに、自分だけ美味しいもの食べて満足ですか?そうですか?サイってぇー。」
ーーー罵り合いは一時間は続いた。
「それで、どうすんだよ?」
「えーと、通知がきまして、この世界の通貨で対応可能だそうです。頑張って働きましょう♡」
「襲うか、街一つ滅ぼせば結構な額になるだろう。」
「ぐへへへ、何処を襲いやしょー。……なんて言う訳ないでしょ、まったく、却下です。却下っ!」
「……お前、ノリ良いよな。俺の方が恥ずかしいよ。」
ポチから目を逸らしながらボソボソと言う。
「何ですか、何ですか?扱いが酷すぎます!もっと優しくしてください!」
「なんだよ。だいたい生き物じゃないやん。それにクソの手先だし。」
ーーーまた一時間は罵り合った。
「仕事と言えば冒険者ギルド。なんと安直な……」
だが、マナがないから俺は登録出来ないはず。どうしよう……
「あ、これを渡しときます。」
そう言って、ポチがペンダントを渡してくる。それを受け取り
「何、これ?」
「それは擬似核でこの世界の住人と同じになります。……あー、言うの忘れてましたけど10000年でヒトも魔物も体内に魔核が存在するようになりました。」
しれっと重大な事を言ってくる。
「それって、全部魔物じゃん!」
「そう、とも言います……?」
結局、マナの濃度と精霊の暴走で全ての生き物に魔核が出来た。魔核の大きさで強さが変わる。
「よかったじゃん。しっかり変化して。神さまもバン万歳だ!」
「うわー、何ですか、イヤミですか?ちっちゃー、器のちっさい男は嫌われますよー。」
「やかましいぃわ。ほっといてくれ。」
他にも変わった事で、魔法が魔法になった。ーーー要するに、精霊魔法や独自魔法みたいな触媒を必要としない、体内の魔核の大きさや質で威力が影響する、普通の魔法になった。それでもマナが影響するから、俺には通じない。
あとは実地調査しろって言うけど、どうでもいいや。
「行くぞ。」
「はいはい。一緒に居てあげますよ♡」
壁に囲まれた名前のわからない街へと歩き出した。