3, 山脈を越えて
クライミングをするのか?と思っていたが、どうやら人が通った痕跡がある。しかも歩き易い。道は古そうだが馬車も通れそうだ。
テクテクのんびりと山道を登っていく。
いろんな生き物がいる。空にはでっかいもんも飛んでいた。
さすがに異世界ファンタジー。って感じてしまう。スマホを取り出しパシャパシャ撮りながら山道を歩く。
身体強化スキルのおかげで疲労は感じない。が、もう飽きた。3日も山を登っているが珍しさも見飽きた。道はならされたように、歩き易いが蛇行しながら延々続く。
ーーー今日で10日目だ。かなり標高が高いはずだが寒くないし息苦しくもない。不思議に思いながらも歩く。
ーーー今日で17日目だ。今の道は下っている。前方にも立ち塞がる山は無い。やっと折り返したようだ。
「おおおお、スッゲェェェ!」
大ジオラマのように上から俯瞰した世界が広がっていた。山脈はどこまでも続き、広大な森が侵食するように存在する。その森の向こうに開けた土地があり壁に囲まれた街があるが、その小ささに自然の雄大さが現れていた。
進む道は決まった。あの街を目指す。ーーーとは言え、山を下りるのに7日もかかった。さらにこの森を抜けなければならない。溜息が止まらない。
「方向はあってるはず……とにかく真っ直ぐ行こう。」
森の鬱陶しさに思わず声が出てしまった。森を進む事6日、なんか集落に出た。良く見れば、オークの群れだ。
どうするか、と思案し始めた時に見つかってしまう。なぜかオークは小さい、子供か?蜘蛛の子を散らすように逃げて行く、その姿を見送った。
「なんなんだ?」
不思議に思いながら集落を素通りして森を進むと、大人のオークが前方にいて目が合ってしまう。しかも沢山。オークが雄叫びをあげて突っ込んで来る。それに呼応するようにあっちもこっちも吠えていた。
突っ込んで来るオークを端から斬り伏せ薙ぎ倒すが数が異様だ。まるでオークの前線基地みたいにワラワラと湧いてくる。ーーーキリがない。オークの集団の中を突っ切るように走り切り抜けて森を進む。
どの位オークを切り走ったか。森を抜けて森を飛び出すと
「っ!?」
そこには別の集団が陣形を整えて待ち構えていた。
森の異変に集団も騒がしくなっていた様だが俺の姿を見て一瞬静かになり動きが止まった。お互い見つめ合う。ーーーと、俺を追ってオークが突っ込んで来るので俺も走るが、オーク達と別の集団との事で止まる。オークも集団を目にして森を出たところで足を止めていた。
どうすんだ?これ……
「突撃ーーっ!!」
「ブモォォォーーッ!!」
オークも集団も走り出しお互い激突し始める。俺は身を躱しながら集団の中を抜けその後方へと出て一息つく。
集団がオークを圧倒し始める。まあ俺が大分片したからオークの数はしれていたが。
「何者だ、貴様はっ!?」
騎士の格好をした10人ほどの集団が俺を囲んできた。
「ン?」
騎士に囲まれる様子を見回していたら、目の端で魔導師らしい女が杖を突き出し魔法を放ったのが見えた。
「おおおお、魔法だ。火の魔法だ……魔法?」
ファイヤーボールよろしく火の玉がオークへと飛び燃える。……が燃えてもオークは気にしてないようだ。
え?なに?弱!チョー弱すぎ。魔法は奴隷に対する隷属の魔法を見た、と言うか掛けられたがそれしか見た事がなかった。初めて魔法らしいのを見たけど、なんかがっかり。
興奮と期待で目を輝かせたかと思えば、嘆息して首を振り溜息をつく俺を訝しげに見ていた騎士達だったが、1人の騎士が俺を掴もうと手を伸ばして来た。
「おい!貴様、聞いて、あっ……」
その手を掴んで捻り地面に倒し首に膝を乗せる。そうして周りを見回して
「なに?」
俺の行動で騎士達は距離をとり剣を抜き構えた。
「あー、殺しちゃうよ?」
と言いながら膝に力を入れへし折ってやろうとしたら
「待て!双方引け!」
別のところから騎士がやって来て止めに入ってくる。
「双方?引くのは俺か?」
さらに力を入れたら押さえつけられた騎士からうめき声が漏れる。
「ま、待て!待てと言っているだろう。」
なんだ、コイツ?偉そうに。一匹二匹殺してもなんとも思わない。だって、コイツらも人間じゃないし。姿かたちは人間っぽいが、なんか違う気がする。まったく、やっぱり異世界には人間は居ないのか?ーーーそれに、魔法を見てがっくりきてイライラしてるのに、なんなんコイツら。
盛大に溜息をついて押さえつけた騎士を解放してやる。そのまま俺は集団から離れるように移動しようとしたら
「貴様!待たんか!」
「うるせぇーんだよっ!さっきから貴様、貴様。やかましぃぃわ、ボケっ!」
「なっ!?」
偉そうな騎士を睨みつけ恫喝する。
「なんだ!貴様はぁぁぁ!」
声をあげた偉そうな騎士を囲っていた普通の騎士の顔面にメガトンパンチを喰らわせた。後ろにいた騎士を巻き込み吹っ飛んでいく。
この世界の生き物がどれだけ死んでも俺には関係ない。だって、俺はこの世界では異物だから。今までは生きていく為に我慢したり協調する為に努力したが、俺を拒む世界に興味が失せた。それに、こんなクソみたいな世界で生きたいとも思ってない。ただ殺されてやるのが我慢ならないから先に殺す。それだけだ。
異世界、異世界、異世界。みんな異世界に幻想を抱き過ぎ。実際はとんでもなくつまらない。俺は現代人でコイツらは異世界人。全然違うのは当たり前だった。
「もう良い。その方らは引け。」
また別の騎士が近づいて来る。今度は豪華な鎧を着た女騎士で周りを囲っている騎士も女だけだ。
「はっ!……剣を収めよ。」
偉そうな騎士の号令で騎士達は剣を鞘に収め整列する。
「失礼をしたな、御人。」
「……」
俺が無視した態度を見せたものだから、偉そうな騎士が何か言いかけたのを女騎士が止める。その様子を見て溜息をつき集団から離れようとしたら
「待たれよ。状況が状況だけにこのまま行かれると困る。話しだけでも聞かせてくれぬか?」
女騎士の方を見る。
「森からはどうやって出てきた?オークの群れとの関係は?聞かせてもらえるか?」
「森を彷徨っていたら集落を見つけ、そのあとオークの集団を突っ切って出てきた。」
「ほう、そんな奥から……この森は入ったら出られないはずだが?」
「なんだ、それ?」
「迷いの森と言って奥深く入ると方向が分からなくなる、と言う話だ。まあ実際、帰ってきた者が居ないのだから真実かは分からん。」
「ふ~ん。」
ドゴーーンッ!!
デカイ音と地響きが襲う。
「デッカ……」
オークの大きさは2~3mだが、コイツは一回りデカイ、5mは超えてる。オークのくせして角も生えてて、なんかカッコイイ。
「あーあーあー……」
オークだろうが人間だろうが見境いなしに暴れてる。ーーーまるでゴミのように舞い散っている。
「騎士団、密集隊形!」
偉そうな騎士が大声をだして騎士達が固まっていく。
「前へ!!」
騎士達が密集して盾を前面に押し出し化け物に向かって行く。オークも他の連中も一目散に離れて行く。人間側はわかるけどオークも逃げるんだ、と感心する。
「姫様、後方へ下がりましょう。」
「よい。」
騎士の盾持ちが数人で一撃目を耐えると他の騎士が囲んで攻撃を仕掛ける。ーーー無理だね。剣の刃がたたない。槍で突いてもめり込まない。魔導師が火を飛ばす、燃える、それだけ。
どうすんだろうね。
難癖つけられるのも鬱陶しいので騎士達から離れて、それでも結果が気になり距離をとって眺めていた。
「おー」
何人か飛ばされる。それでも諦めず立ち向かう騎士達。ーーーあ、また吹っ飛ばされた。騎士達は満身創痍で退き始める。
この世界の戦闘力って弱過ぎる。アレどうすんだ?もうオークの姿はない、逃げたようで人間達も遠巻きにしてただただ狼狽えていた。近くにいた奴を捕まえて
「どうすんの、アレ?」
「……無理かなぁ。」
やっぱり。
なんか魔物って、上位種、1ランク上がるだけで桁違いに化ける。ゲームみたいに段階を踏んでレベルが上がると言う事はない。だったらこの世界の人間はどう対処するんだろう。
「え~、じゃあどうすんのよ?」
「いやぁ、上位種はマナの濃い森からは出てこないんだけど……」
あーそう言う事。前にゴブリンの上位種も森からは出てこなかったし。でも今回はなんで?
「多分、森が騒がしかったから、かな?」
「うっ……」
それって、多分、俺が森を突っ切ってきたから……あー結構暴れたし、やっぱり俺のせいか~。
騎士達は崩壊寸前で退却したくても逃してくれないみたい。周りを見ると騎士以外の者はてんでバラバラに逃げだしていた。
見捨てても良かったが、なんか俺のせいみたいだし、仕方なく化け物に近づいていく。化け物が右腕を地面に叩きつけた先には潰された騎士がいる。その腕を戻そうとしたところを肘から切りとばす。返す刀で右足の膝を切りつける。飛ばす事は出来なかったが体制が崩れて膝が地面につく。左手を地面ににつけたから、ちょうど首が目の前に現れそのまま刀を振り下ろした。
ゴト。
化け物の首が落ちて血飛沫をあげた。
「ふー、やれやれ。」
終わった、終わった。と思いながら刀を鞘に収め見渡す。
30人ぐらいいた騎士団も立っているのは3人ほどで、半分は死んだか重症を負っている。もうちょっと早く手助けすれば良かったが、偉そうでうるさい連中だからザマァぐらいにしか思わない。視界の端に女騎士連中が近づいてきているのが見えたので、さっさと撤収しよう。
足早に移動してこの場から立ち去る。なんか叫んでいたが、無視無視。
叫びながら追っかけて来てる。ーーーあーメンド臭い!俺は全力で走り出した。道には逃げていた連中がチラホラ居たが、その横をすり抜けるように走って通り抜けて行く。
しばらく走ったら追って来る者が居なくなり、安堵しながら歩みを緩めて、逃げていた連中の中に紛れて俺も歩いて移動する。そのうちに壁と門が見えて来た。
街があるのだろうが、また面倒な事になりそうだと思い門には近づかず脇へと外れ進む。森の端を掠めるように進み、樹齢何千年だ?見たいな大きな木の下にたどり着いた。
さすがに疲れた。木の根に腰を落ち着け、缶コーヒーとタバコを出して一服する。
「森が騒がしいと思えば、異邦人…か……エ、エージ……」
森から女が現れて声を掛けてきたが、様子がおかしい。しかもエージって誰よ?
「違うのか?……それに、しても…雰囲気が似ている。それはタバコだな、エージもよく吸っていた。」
だ、誰?
「え、えーと、エルフさん?」
初めて人間っぽい綺麗な女性を見た。しかも耳が長い、って事はエルフだよな?異世界だし、ファンタジーだし、やっぱエルフだよね。
「わたしはマリアン。エルフだったものよ。もうこの世界にエルフは存在しないけど。」
「はじめまして、俺はソウタ。ちょっと意味わかんないだけど……」
「いいわ、家にいらっしゃい。そこで話しをしましょう。」
女性は森へと入っていく。俺もそのあとをついていく。
だいぶ森の中を歩いたらぽっかりと空間がひらけ、こじんまりとした家があった。その家へと入っていくと、少女が椅子に座っていた。どこか虚ろで存在感がない。もう一人少女が近寄ってくる。
「お帰りマリアン。ん?誰?」
「ただいま、エリ。彼はソウタさん、懐かしい匂いがしたから連れてきたわ。」
「そう、よろしく。まぁ座って。」
薦められるまま椅子に座る。
「それより、コーヒー出して甘いやつ。あるんでしょ?」
えー、なんで知ってんの?……まぁいいか。缶コーヒーを人数分出したら躊躇わずプルタップを開け飲み始める。
「あ~懐かしい~、やっぱり美味しい~。」
「わたしもわたしも。」
えーと、なんで知ってんのかな?どう言う事?
「気にしないで。エージも同じ物をくれたから。それにしても、貴方もこの世界に連れて来られたのね。」
「えーと、話しが見えない、んだけど……」
マリアンが片手を上げて遮り
「居るんでしょ、ポチ。出て来なさいよ。」
「は~い、呼ばれて飛び出てジャ、ひゃーっ!?」
突然、俺の真後ろに気配と声に身体が反応して刀を振り抜く。服一枚が切れただけでかわした女が居た。
「あ、危な~。その次元刀はマジでヤバイから!」
なんなんだ!?コイツらはなんだ?どうなっている?
「……」
頭の中がぐるぐるとしていた。
「ポチ。説明して。」
マリアンがポチと言った女を睨むように見ながら声を出す。