14, 姉妹
ギルドに行くと手紙が来てました。
のじゃから報酬をもらい、俺は荒野の砦に来ていました。まあ目的はお金を稼ぐ為です。お金を稼ぐんです。……だから強制依頼を出すんじゃない。
俺は間違っていた。魔獣を狩ればお金になる。魔獣は報酬も高いから。でもね、魔獣が出る時は氾濫がセットになってて、氾濫があると強制依頼になる。強制依頼に報酬は出ない。
気づくのに1カ月。なんて無駄なことしてたんだ?
ギルドで手紙を受け取りました。
公爵様からの手紙で、助けてください、と書いてあった。他には何も書いてない。ーーーまあいいか。ここに居てもお金にならないし。
俺はその日のうちに出発した。……ええい、離せ!俺の知ったことか!
俺を街から出さないように束になって掛かってくる。バリケードまである。氾濫がある度に俺が潰して行くので、他の兵士や冒険者に危険が少なくなる。だからと言って、タダ働きなどやってられるか!
離せと言うに、コラ!服を引っ張るな!
公爵領についた。王都で馬に乗り、20日でつく事が出来た。
街中は、少し寂しくなった気がする。あれ程居た獣人だが、今ではチラホラとしか見えない。その代わり獣人では弱者になる猫種の姿も見える。なんだかんだ言っても、これからだね。
公爵と対面する。公爵は俺を抱きしめてくる。……えーと、公爵ってこんなにフレンドリーだったっけ?まさか公爵を抱き返す訳にもいかず、俺は、ボーっと突っ立っていた。
「良くお出でくださいました。ささ、中へ。さささ、どうぞ中へお入りください。」
公爵の表情も態度も焦っている気がする。なになに、また何かあったの?
俺は勧められるまま公爵館に入った。
応接室で2人の少女に出会う。そうだね、状況からこの2人が元凶になるんだね。
「お助けくださいませ。」
公爵の性格を今、理解した。この人。可愛いものに弱いんだ。奴隷だった女の子も、そして目の前にいる少女も見た目、可愛いもんね。
もう必死ですよ、公爵さまは……
「お父さん、お母さん…を助けて…ください……」
年上の女の子が震える声で俺に言ってくる。下の子はしがみ付いて、俺を見ていた。……そして公爵は目をうるうるさせていた。ーーー多分、公爵のうるうるは心配して、じゃないと思う。可愛い過ぎてうるうるしてるんだと思う。
助けてって……彼女たち、猫種の獣人だよ?多分、獣人の国に行くんだよね?
まだ国交も繋がって無いのに、公爵だと軍が動くから冒険者の俺に話しが来た。わかるよ、理解してますよ。俺は冒険者だもの、俺が行っても問題はないよ。でもね、種族が違うんだよね。
おそらく、俺が獣人の国に入ったら総スカンを喰らう。無視されるだけならいいけど、必ずバカが出て来るよね?その時に相手を、偶然、偶々、いや確実に殺しちゃう。そうなると収拾がつかなくなる。ーーー面倒だよねー。
じゃー、殺さなければ、なんて無理。絶対無理だから。だって俺、獣人嫌いだもん。
だいたいゲームで獣人なんかをモフモフとか言うじゃん。何それ、モフモフってなに語よ。あんなパサパサでゴワゴワの毛を触って、何が楽しいんだか。それも幻想だよ?気を付けないと、脳みそ疑っちゃうよ。
取り敢えず少女たちの話しを聞いた。
要するに、ヒトの形をした化け物が村を襲ってきた。自分たちを逃してくれた。けど、その後の事は分からない。
「化け物?魔物とかでなく……」
「そう、化け物。」
「俺にどうしろと?退治してくれば良いんですかね。」
「村が国境の向こうだから、大人数で行けないのよ。それで、まず情報が必要。この子たちの両親や村がどうなってるか、知りたいし。」
公爵の諦めた声で理解はできる。公爵もそうだが、俺も無理だと思う。
「場所がわからないんですが?」
「この子たちが案内するわ。」
「えー……」
「わかる、わかるわ。私も止めたもの。でもねー、どーしてもって……ごめんね。」
公爵の諦めた表情はこっちか……
それでも、足手纏いを連れて化け物退治とか……どんだけ無理ゲーだよ。……そんな捨てられた猫みたいな目で見ないで。猫だけど、猫種だけど。
俺は猫たち、いや娘たちを見て溜息をつく。
準備は済んでいた。ーーー俺に行かせる気満々だって俺でもわかる。それに、娘たちは姉妹ね、も行く気満々だよ。大きなリュックを担いで、君たちは何を持っていくんだか。姉妹には小分けにした一日分の荷物を持たせ他は俺が預かった。
移動を始めて数日。下の子の本性が現れる。この子、とにかく遠慮がない。度胸もある。
途中で奴隷狩りをしていた狼さんを懲らしめた。屈強な狼さんを相手に
「犬。」
「犬じゃねーっ!。俺は狼だ!」
「わんわん。」
「……」
「お手。」
屈強な男は差し出された女の子の手に自分の手を乗せた。あんたもノリ良いよね。
それにしても、このちっちゃい子、猫被ってたよね。いや猫だけど、猫種だけど。プルプル震えてお姉ちゃんにしがみ付いてたとか、信じられないよ。
去って行く狼たちを見て哀愁を感じたよ。そう、大人の背中を見た気がする。がんばれ。
それと、道中はポチと仲良くおしゃべりしながら歩いていた。調子に乗ったポチがお菓子を奮発するので、思わず後頭部を叩いてやった。大事な予算を湯水の如く消費するんじゃないよ、まったく。
「お菓子はダメ。」
「えー。」
3人が声を合わせて抗議してくるが
「駄目ったらダメ。」
あんた達ご飯を食べなさいよ。そんな偏食ばっかしてたら大きくなれないよ。
「フーンだ!」
なんじゃそりゃ。
「止まれ!何者だ。」
おっと、なんか出てきた。木々の間からわらわらと出てくる。その中から
「ミナ、ミア!」
猫の二人組みが駆けてきた。
「お父さん、お母さん!」
上の子が走る。下の子もついていく。ひしっと抱きしめあっている。周りのみんなは暖かい眼差しで見守っている。……けど、ちっちゃい子は唯我独尊。
「おー、毛がふさふさ。」
一番強そうな男の体毛をモフモフしていた。この獣人は鬣族の長だったはず。想像して欲しい、ライオンの群れに子猫が迷い込み、じゃれている現場を目撃したのを。
お父さんもお母さんも顔が真っ青になって引き攣っている。お姉ちゃんは視線を逸らした。
そんな独特な空気の中、一人、少女の姿が見えた。少女も俺に気づいたようで走り寄ってきた。
「あの、助けて、ください。」
どっかで会ったような?俺が首を傾げているのにイラついたのか
「私です。イルミナです。」
「イルミナさん……?」
「勇者様と一緒に居た……」
「あーっ!ボンクラと一緒にいたヘッポコだ。」
「へ……?」
今度は勇者一行の神官が首を傾げていた。
「こんなところで何してんの?」
「え、それは、その……」
「怪しい奴がうろつていたので捕まえたのだ。」
ちっちゃい子を引き剥がしながら近づいてくる鬣族の長。えー、今度は''のだ,,ですか。みんなキャラ作りに頑張り過ぎだと思います。
「それで鬣族の皆さんは?国に帰るって言ってたと思うけど。」
「そこの者たちが化け物に襲われておったのだ。助けるつもりが、蹴散らされてしまったのだ。」
目を逸らしながら、鬣のおっさんが言ってきた。
「いえ、助けていただきました。ほんに有難い事です。」
「いやいや、力が不足しておったのだ。」
いえいえ、いやいや、とか。あんたたちライオンと猫だろう?……あー、ネコ科だから仲良いのか?
「それで、あんたは……」
神官に尋ねようとした時
おおおおおっ!!
と雄叫びが聞こえてきた。その威圧感にみんな身が縮まる。鬣族の連中は身構えて、猫たちは右往左往していた。そんな中、神官だけは極めて、確実に、絶対に目が泳いでいる。ーーーまーたお前たちか!
「村の方から……」
猫のおじいさんが言った。
俺は神官を、じー、と見る。神官はおろおろしながら目を合わそうとしない。大きく溜息をついて
「村はどっちですかね?」
と言ったらライオン丸が案内してくれる事になった。ライオン丸の肩には妹が乗っかっている。どっちが気に入ってどっちが気に入られたか、言うまでもないか。
俺とライオン丸妹付きと神官にあと数人が村を目指して走る。みんな足音を殺して走るんだけど、神官はどたどたと走っていた。見兼ねたライオン丸が神官を脇に抱えて走る。神官は口に手を当てて必死に声を抑えていた。
俺はそれを見て
「おおお、でっかー。……ん?あれって……」
神官を見たら、また目を逸らされた。
どう見ても、誰が見ても、勇者でした。それにしても、大っきくなったねー。5mは超えてるな。体が大きくなり過ぎて衣服は既に無くなっている。女の子なんだから、そんなに下半身ばかり見ないの。あ、妹もまだ早いって。
巨大になった勇者は筋骨隆々で、体毛が伸びているようだ。が、顔はあまり変化がない。スッゲー気持ち悪い。
何か貪り喰っている。……ふー、良かったー。死体とか食べてたらドン引きだったよ。普通の食いもんで良かったー。
勇者がこちらに気づいたようだ。ライオン丸の体が強張っているようだ。よっぽど痛い目にあったんだね。
5mを超えると首まで刀が届かないので、何時ものように足を斬り飛ばす。地面に転がってるところで首に刀を振り下ろした。……勇者は腕で防ぎ首には刃の先が掠っただけだった。勇者は起き上がり腕を拾う。……起き上がる?
げー、なになに?気持ち悪っ!斬った足の切断面がグジュグジュと音をさせながらひっついていく。そして腕もグジュグジュと音をさせてくっついていく。足がくっついたのか、勇者は山へと逃げて行った。
「……」
俺もだけど、みんな無言で勇者が去って行った山の方を見ていた。
いつかは「やる!」と思っていた勇者だが、とうとう「やりきった!!」んだね。ヒトの種族を辞め化け物を超えて謎の生き物になるなんて……神聖魔法に属する回復ではなく、完璧に回復能力を身に付けた存在だ。
はー、と溜息をつきながら神官を見るけど、本人はおろおろと狼狽えるだけで話しが出来そうな雰囲気では無かった。他の連中もショックが大き過ぎて放心したままだ。
撤収だな。村人も保護したし、情報も得た。俺の仕事は終了だ。
俺たちは公爵領へ戻ることにした。




