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10, のじゃ

俺は街に戻ってきた。


正直、今は何もしたくない。それに、まともにポチが見れない。


いろいろ考えさせられた。そして気づく、自分の惰弱さを、愚かさを。ほんと、どうしようもない。ちょっと強くしてもらって、最強だー、みたいに自惚れていた。それが敵わない相手が現れた途端、落ち込んでいる。


エージと言う人は神に敵対した。俺は森に一歩入っただけで怖くて逃げた。ポチ、いや神の使徒を見て恐ろしかった。どれだけこころの強い人なんだろう。


そんな時にギルドから呼び出しを受ける。仕方なくギルドに行くと、のじゃから召還を受けた。馬車まで用意されそれに乗り込み王都へと向かう。


もうギルドもダメだな。完全に王家に私物化されている。俺も身の振り方を考えないといけない。


溜息が出る……


王都までの道中、いろいろ考える。もう頭の中はぐちゃぐちゃだ。なんで俺は冒険者に拘るのか?なんで嫌な思いをしてまでここに居るのか?生きていく為……冗談じゃない!俺は決めたはずだ。殺されるくらいなら殺してやる、と。


この異世界に居るのは俺と同じ人間じゃない。ただの異世界人だ。この世界のルール?俺は異物だ!この世界は俺を否定したじゃないか。


俺の精神が黒く、黒く、染まっていく。何を遠慮していたんだ。嫌なら殺せばいい。どうせ人間じゃないんだから……


俺は……何を……


ポチの姿が目に入る。ポチは俺を見ていた。ただ見ていた。


ポチ。神の使徒。とても恐ろしいと思った。間抜けな奴だと思った。たまに可愛らしい……本人には絶対に言わない。言葉を交わして楽しいと思った。手間のかかる奴だ、と思った。


ぼー、とポチを見ていたら、強張っていた身体から力が抜けていく。はー、と息を吐くとこころが軽くなっていく。


落ち着いてきたら、なんか違和感を覚えた。俺って、こんなにダークな性格だったっけ?そう言えば、能力を貰った時、みんな殺してしまえと思い、しかも躊躇いなく行動した事がある。それって本当に俺なんだろうか……


あれ?……俺は異物……俺は?俺……


いつの間にか気を失っていた。






誰かに起こされた。


王都に着いたようだ。すぐにのじゃの元に連れて行かれたが、のじゃが何を言っているのかさっぱり頭に入ってこない。のじゃも俺の顔が真っ青なのに気付き宿屋へと放り込まれた。


食欲もない。吐きそうで気分は最悪だった。その理由は、自分に嫌悪していたからだ。


俺が俺でない何か……そいつは世界を憎み殺してしまえ、と魂に訴えかけてくる。もう一人は、そんな自分に恐れていた。なんなんだ?そりゃこんな世界(異世界)は嫌いだ。理不尽なテンプレを押し付けてくるクソ()も嫌いだ。だからって皆殺しは……ない……だろう?……


いや、ありか?いやいや、ないだろう……あれ?


ダメだ。頭の中がわやくちゃになってる。どうした俺。


混乱が混乱を生み理性が保てなくなっている。






ポチのレポート。


彼、ソウタは転生者としての弊害が出ている。彼の、現代での情操教育で培った価値観と彼本来の正の感情と、この世界に生を受け、この世界の価値観と否定された境遇による負の感情が今のソウタに二面性を与えていた。


恐らく、ソウタの精神が自己防衛の為に正と負を分けてしまったと考えられる。


またソウタは、前回の転移者、エージの事を頻繁に聞いてきた。そのままを告げたが恐らくソウタの認識は間違っている。エージのこころが強いのではなく、無関心故にこころが折れないのだ。いや、自分自信にも無関心であった。


今のソウタは危うい。正と負の価値観に翻弄されている。


このままでは精神が崩壊してしまう。以前から精神力の強化を申請するが承認はされない。それは前回の転移者の前例があるからだと理解している。


それでも、何かきっかけがあればと願うものである。


以上。






翌日には何故か気分が良くなっていた。


随分と悩んだが、悩んだ事がバカらしくなっていた。俺は思い出したのだ!俺の目標、それは100体のラブドールに囲まれたウハウハハーレムで引きこもり人生を満喫してやるっ!と言う事を。


その為には金がいる。金の為には仕事をしないと。だから俺は誓う。金にならない事は絶対にしない!


のじゃが目の前にいる。ーーー俺の誓いが崩れそうで怖い。


「今日は良いようじゃの。」


「お陰様で……」


「よいよい。」


またつまらん事を言って来たら物証を見せつけてやる、と準備しておく。


「今回は妾の専属警護を頼みたい。」


俺が渋い顔をすると、のじゃはフフフと笑いながら


「報酬は弾むぞ。一日金貨1枚、成功報酬で500枚じゃ。どうじゃ。奮発したじゃろ。」


「それだけ危険なんですね?」


「う……」


バカでもわかるわっ!金を出し渋る奴が奮発するなど、よっぽど厄介なんてもんじゃないだろうに!


溜息をついて聞く。


「それで、何をするんですか?」


「うむ。ライカーン公爵領への視察じゃ。」


「それだけ……」


待て待て。危険な任務で視察……ヤバ、以前話してた暗殺未遂。クーデター絡みになるの?……俺は関係ない。聞いちゃダメだ。


「あー、ギルドでの依頼ですか?」


なんとか断る方向に持って行かないと、と思っていたが


「いや、王家が直接依頼する。王の認可も得た王国の依頼じゃ。」


ダメじゃん。逃げれないじゃん。なんなの?なんで俺なの?


「それとな、警護内容は常にじゃ。わかるか?片時も離れてはならん。良いな。」


フフフと可笑しそうに笑ってるが、笑い事ではない。SPなんて知識も経験も無いのに身辺警護は無理だよ。魔物から護衛するなら出来るけど、今度は対人だよ?対人はバカじゃないよね。自信無いよ。


俺があまりいい顔をして無いのが気になったのか


「不服か?報酬が足らんのかの。」


「あー、そうではなく、自信がない、です。魔物が相手なら気にしないです、が、人が相手だと大変だなぁ。」


あはは、と苦笑する。


「それで充分じゃ。しっかりと理解しておる。それだけで充分じゃ。」


えらい信用されてしまった。これは気を引き締めないといけないな。


王の血筋も大変だ。命を天秤にかける、俺には理解出来ない世界だよ。


今回の依頼にはポチにもお願いした。相手が女性で付きっ切りの警護だから、信頼できるポチに参加してもらう。ポチは


「ラジャ!」


とか言って敬礼してるけど、大丈夫だよね。


「ところで、ポチ。その格好は何?」


「警護と言えばSP、SPと言えば黒服、よってこの格好であります。」


ビシっとした黒服にサングラス。いやー、素敵、素敵。……って


「なんじゃこりゃ!?」


なんだ、この黒服?ア、アル○ー二っ!初めて見たよ、触ったよ……夢のよーなスーツを、待って、ちょっと待って……あーっ!?コスプレの為にどんだけ予算を食い潰してんだよ!このヤロー……


「ポ、ポチ。おやつ禁止な。」


「えー。」


……それから3日後、のじゃ率いる視察団が王都を出発した。






さて、のじゃ視察団の構成人員だが、偉そうなオッさんを筆頭に騎士が20人、一般兵が30人の視察団兵となる。次に文官が6人、その内に値段交渉した時に居た財務担当者も居る。そして警護担当の俺とポチに3人、男1人と女2人が付いている。それとは別に情報官。影ないしは斥候の人が5人居て綺麗なお姉さんが側に、他の4人はまだ見ていない。


前回の襲撃で対処できなかったから、今回は大所帯での行動だ。まさに大統領並みの護衛作戦みたいだ。


ところで、俺とポチは黒のスーツを着ている……目立ってしょうがない。のだが、何故、俺だけリクルートスーツなの?ポチはア○マーニだよね。全然納得いかない。


公爵領までは馬で20日なんだが、大所帯過ぎて2カ月はかかりそうだ。途中の村や街に寄っては陳情を受けて対処するから、更に時間が掛かるかもしれない。それでも勇者との旅を思えば楽なもんだった。


5つの村、2つの街を経て、今3つ目の街に着いた。ここまでで2カ月が経過している。それと襲撃なども起きていない。盗賊は3つばかり潰したが。


のじゃ一行は、この地の領主館でお世話になる事になる。

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